もう45年以上前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
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さて、副長が屯所に居ないのをどうやって誤魔化そうか。
考えつつ、病人の食事を用意する。
血が足りないなら食べてもらわなくちゃ話が始まらない。

お粥が出来上がるという頃、勝手口をトントンたたく者がある。
上がり框に腰をかけてうつらうつらしていた私は、はっとして飛び起きた。

「おはよー。わたしー」

幸だった。

ひゃー、早いなぁ。

「おはよー。早いじゃん。びっくり」

戸を開けると、サーモンピンクの朝日が濡れた土間を照らし出す。
睡眠不足の目には眩し過ぎて、まともに目が開けられない。

幸は高下駄をガツガツ鳴らして、土間に入って来ながら、

「どうせならお弁当作るの手伝おうかと思って」

首に風呂敷包みを背負ってるのがひどくひょうきんで笑っちゃう。

「雨、上がって良かったねぇ。でも外はぬかるんでるから高下駄履いて行った方がいいと思うよ」

すっかりその気。
なんだか申し訳無い。

「ごめんね、それが行けなくなっちゃったんだ、紅葉狩り」

「えー?!なんで?」

大声を上げそうになった彼女に、人差し指を立てて見せ、

「しーっ!」

そして今度は親指を立てて座敷を示し、無言のまま、

“居るのよ!”

目にモノを言わせる(笑)。
彼女も心得たもので、

“ええ?居るの?”

とジェスチュア入れてひそひそおしゃべり。

“なんでまた?”

“夕べ斬り合いやったらしくて、腕と脚に刀傷作って来たのよ”

“まあ大変。あの雨の中を?”

“そうそう。ずぶ濡れになってさ。そんで今、熱出して寝てるのよ”

“熱出したぁ?あの副長が?”

どの副長だよ(爆)。

“うっそー?だって昨日あんな上機嫌で暴れまくって・・・。私だって捕まって殺されかけたんだから・・・”

殺されかけた割には嬉しそうな顔してるんだけど。

“鬼の霍乱かぁー?”

ああそれが言いたかったわけね(爆)。



「おい、誰か来てるのか」

うへ。地獄耳。

「はーい、幸が・・」

おしゃべりは打ち切り。


「おはようございます」

幸は座敷に上がって行き、雨戸を開け、水浸しの縁側を片付けてくれる様子。

「めし!」

「はーい」

身動きが取れない土方さんはイライラと不機嫌だ。
はいはい言ってないと怒鳴り出しそう。

出来たばかりのお粥に溶き卵を入れ、器によそって三つ葉をあしらい、持って行くと、起き上がろうとして額の上から手拭を落とした。

「あーあ、ダメですってば寝てなきゃ。熱が高いのに」

掛け布団の上から押し留める。
彼は何か文句を言いかけたが、傷が痛むのか頭痛でもするのか、顔をしかめて再び枕に頭を置いた。

「私、水替えてくる」

と、幸が枕元から手拭と桶をさらって行った。


「ハイ、ごはん」

匙でお粥をすくって口元に持って行くと、彼は横目でジロリと睨み、

「何だそりゃ」

「お粥」

「誰がそんなもん喰うんだぇ?」

・・・拗ねてる。

自分の置かれた状況を考えろよな。

「食べなきゃやらない。そこで飢え死にしてれば?」

う~~と睨み合ってたら、

「ほらほら、病人とケンカしないの」

井戸から冷たい水を汲んで来た幸が、苦笑しながら手拭を絞ってクソオヤジの額にあてがった。

腰に差していた二本の刀は抜いて、右手の横に揃えて置く。
正座の仕方がなんとも男の子だなぁと思った。

やたらニコニコしているのは、新選組の“鬼副長”が臥せっているのが珍しいからに他ならない。

「そういやおめい、昨日から刀差して歩いてるじゃねぇか。どっから持ってきたぇ?」

すると幸はちょっと緊張した面持ちになって、

「ここの納戸にあったのをお借りしています」

「ちゃんと了解済みでしょ?斎藤さんが見繕ってくれたんだもの」

私はてっきり幸が刀を持ち歩いているのを見咎められているのだと思い、そう言っただけなのに、

「おめいにゃ聞いてねぇよ」

だって。
コイツー!!
と思ったが、病人を挟んで向こう側から幸が“こらこら、抑えて”と目で合図したので辛うじて堪える。

「その刀、短かねぇかぇ?それだけ上背が有りゃ、もっと長えのも扱えるはずだが」

「まだ重さに慣れてませんから。そのうちもっと長いのに替えてみます」

「いや、だとすりゃ二本差すことぁねぇ。おめぇの腕なら大刀一本で沢山だ。大刀が折れた時ぁ降参しちまった方が利口だ。脇差で大刀に立ち向かうなんざ、おめぇにゃ10年早えさ」

ボロクソ言われて幸は苦笑。

「ごもっとも」

「一本差だとておめぇは腕が長えから振り回しときゃ誰も近寄れねぇ。斬り合ったにしてもこちらが皮一枚斬られる間に相手の骨まで切っ先が届くだろうよ。端から長えのぶち込んどきな。おめぇの腕ならまともな斬り合いにゃなるめぇが、護身用にゃ充分だ」

幸ってば、もう笑うしかないようです。

「ご忠告、ありがたく存じます。瑣末ながらお礼に差料のお手入れでもいかがでしょう?」

「ああ、頼む」

・・・なんだよー、幸にばっかり随分素直じゃないの。

「和やかにお話のところ失礼ですが、お粥が冷めちゃうんですけどー」

ジロっと視線がこちらに移る。

「そんな病人の食い物が食えるかよ」

「病人が何言ってるんですか!」

「俺は屯所に戻らにゃならんのだ!そんなもん食って腹に力が入るか!」

「屯所に戻るなんて無理ですってば。一日寝てりゃ下がる熱だもの、寝てたらいいじゃん。無理してこじらしたって知らないんだから」

「おうさ、テメェの知ったことか。オイ幸、手を貸せ。屯所に戻るぞ」

しかめ面になって上体を起こし、

「手前の指図なんざ受けるか!俺を誰だと思って居やがるのだ」

こめかみに青筋立てて睨み返している。

思わず悪態を付きかけたが、くぅ~、相手は病人だ、ガマンガマン。
言い返さない私に、彼は勝ち誇ったように鼻を鳴らし、

「おい、幸、手を貸せ」

味方に催促した。

が、幸はあっさりと無視。
手にした土方さんの刀を眺めつつ、口にくわえた懐紙を手に取り、

「この刀、このまま放っといていいのかなぁ。血曇りはあるし、夕べの雨で鞘の中に水入っちゃってるし、柄巻きもぐしょぐしょだし。やばいと思うんだけどー」

刀身を懐紙で挟んで拭き上げた。

「だからなんだ!」

今度は八つ当たりの矛先を幸に向けることにしたみたい。

「大人しくお粥でも食べてないと傷も塞がりませんよ」

怒鳴られ慣れているのか、幸ってば超マイペース。
余計相手はいきり立っちゃう(笑)。

「お前まで俺にタテつく気か!」

「そんな大声出して興奮すると血圧上がっちゃいますよ。そのうち眩暈がします」

「目なんざとっくに回っとるわ」

言うなりどっと床に伏した。

「二人がかりでタテつきやがって」

伏せたまぶたが蒼い。


再び手拭を額に当てながら、具合の悪いのも省みず頭に血を上らせて、それこそ必死になっているこのオジサンが、なんだか気の毒になってきた。

「ねぇ、ほんとに静かにしてないと体に障りますってば。屯所には誰も居ないってわけじゃないんでしょ?」

「総長の山南先生がいるよ」

と幸。
縁側で大刀の鞘を逆さにして・・・あーあ、中から雨水ボタボタ。

「だったら山南さんにまかせておけば?今日一日だけでもさ。みんな子供じゃないんだし、局長や副長が居なくたってなんとかなる・・・」

「ほう、おめぃは俺や近藤さんが居なくたって新選組は立ち行くとでも言いたいのかね?」

熱が高くて首筋にまで汗を浮かせているのに、口だけは達者で手に負えない。

「そんなこと言ってないでしょう!もう!私の言い方が悪かったなら謝りますっ!申しわけございませんでしたっ!」

と、私は一応折れたのだ。
居住まいを正し、三つ指ついて頭まで下げた。

「だから、ね、今日はここで一日休んでて下さいってば」

なのにヤツはフンと鼻を鳴らして、なんて言ったと思う?

「おめぃが頭を下げたところで何の足しになるのだ。屯所の方から歩いて来るとでも言うのかよ」


・・・もう、許せない。
病人だと思って下手に出りゃ付け上がりやがって!

ふるふると、三つ指をついていたはずの手が握り拳を作って行く。
大刀を鞘に納め、手拭で柄巻きの水気を取っていた幸が息を飲んだくらい、私の形相はすごかったらしい。

すっくと立ち上がり、今まで抑えていたものを吐き出した。
一町先まで聞こえるような大声で、しかも縁側から外に向かって、

「バカヤロー!いつまでもガキみてぇにスネてんじゃねぇやくそったれ!下手に出りゃあ付け上がりやがって!病人じゃなかったらお前なんか今頃ケリ入れてるわ!この石頭のアンポンタン!大馬鹿野郎のトーヘンボク!勝手に死んでろ、うす馬鹿オヤジ!ちくしょー!もう腹立つ!!」

クソオヤジは今頃、寝床の上で憤死してるかもしれない。
私の知ったこっちゃない。

ゼーハー肩で息していたら、木戸を潜って山崎さんが現れた。

「えっらい剣幕やなぁ。どないしたん?」

目を丸くしている。

「山崎さぁーん!」

地獄に仏とはこのことだ。
気が緩んで半べそかいちゃう。

「何とかしてよぅ、アイツぅ」

庭に下りて行って抱きつこうとした私を軽く往なして、座敷に上がろうとした山崎さんが、雪駄を脱ぎかけたまま動かなくなった。

彼の背中の向こうには、大刀をつかんで髪を振り乱している土方さんと、それを必死に押し留めようとして揉みあっている幸の姿が・・・。

あちゃー。

「私のせいじゃないよ。そいつがイケナイんだい!」

唇を尖がらせてみたけど、言い訳にしか聞こえなかったかもしれない。
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