もう45年以上前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。

・暇つぶしにネタばらしブログもどうぞ→管理人ざんげ室 

ダメモトだったのに、しっかり助けはやって来た!
自分でもびっくり(苦笑)。


とりあえず一時的にでも身を隠すものが無いと万が一斬り合いにでもなったら危ないよねー、と押入れを開けた時だ、玄関の開く音がしたので買出しが戻って来たのかと思ったら、すさまじい気合が。

やばやばやばっ!

慌てて、そのまま押入れに潜り込んだ。
昼寝用の布団を一式出していたので、その分隙間があって助かった。
元通りに押入れを閉めて息を殺す。

思ったとおりに次の間の襖が開いて、人がなだれ込んでくる様子。

そんなわけで初手はかわした(?)のだが、押入れの暗さに、抱いた子供が怖がって泣き出してしまった。

押入れのすぐ外では敵と味方が睨みあっている気配。
ああもう、そんな時に!
どうすりゃいいんだ!
進退窮まって押入れに刀を突き込まれたら?!
ひー!!!

ええもうどうにでもなれ!とばかりに、押入れの戸を思い切り蹴飛ばした。
気合とも悲鳴ともつかぬ叫びが交錯する中、ふわりと空を切って襖戸が倒れるのももどかしく、身をちぢめこて子供をかばいながら一気に外に走り出る。

どこをどう抜けて出たのか憶えていない。

家の前に幸が、買出し役のオジサンに刀を突きつけ、ニコニコと立っていた。

洗いざらしの木綿の上下(この場合単と袴ってことね)に高下駄、ザンバラ髪。
ちょっと見、男にしか見えない。

「お疲れー。無事だったぁ?」

明るい物言いに緊張感がほぐれ、余計疲れた気がした。

自分の体をあちこち見回し、抱いた坊やの手足の指まで確認して、

「なんとか無事みたい。あんたこそ大役じゃん。ご苦労さん」

後手に縛られているとは言え、捕縛した者の拘束を一人で任されているなんて。
薄暗い中で白い歯を見せて彼女は照れた。

「今夜はちょっと人手不足でさぁ。私まで狩り出されちゃった。それより、よく考えたねぇヘンゼルとグレーテル作戦」

「?」

私は軽い放心状態にあり、何を言われているのかピンと来ない。

すると彼女は何か埃の塊のようなものをつまんで見せた。

「これ」

湯文字の切れ端だ。

「森の中に捨てられたヘンゼルとグレーテルでしたが、連れ出される時、用意していた白い石を等間隔に撒いて来たので、それをたどりながら難無く家に戻ることができました」

にっと笑う。

「モノが湯文字ってとこがまたスゴイけど」

「たまたまよ。破けちゃったからさ。思いつきで。でも、何で判った?」

自分でやったこととは言え、ホントに気づいてくれる人が居るとはとは思わなかったもので。
幸はクスクス笑いながら、

「一緒にお風呂入った時、スゴイ腰巻してるなぁって・・。インパクト強かったからさー」&爆笑。

はいはい。そうでしょうとも。
でもまぁそのお蔭で助けに来てくれたんだからね。



「悪いけど、先、帰るわ。八木さんちで心配してるだろうから」

アジトの中ではまだ斬り合いが続いていたし、新選組の人達には助けてもらったお礼のひとつも言うべきで、本来ならば決着がつくまで待っていなければならなかったのだろうが、オーバーワーク気味で疲れていたのだ。

きびすを返して歩き始めると、

「あ、ちょっと待って」

幸が呼び止める。
懐からごそごそと何を出すかと思ったら、風車。
それと、

「はい。お団子」

受け取りながら、半ばあきれて、半ば申し訳なく、傍でうなだれている気の毒な誘拐犯のオジサンの誠意になんだか嬉しくなる。

「ちゃんと買ってきてくれたんだぁ。ありがとう。」

さっそく包みを開けてパクつきながら(私もお腹空いてたんだもん)、

「良かったねぇ勇坊。さ、ママのとこに帰ろ」

小走りに風車を回しつつ、帰り道を急いだ。



「遅くなりましたぁ!」

と、八木さんちの門をくぐる頃には上弦の月。
家族総出の迎えが嬉しかった。

みんな私じゃなく勇坊を待っていたんだけどね。

奥さんが泣きながら抱きついてきて、おぶい帯を解くのももどかしく子供を抱きしめる。

と、辺りを取り巻いていた先輩使用人達がどよめいた。
何がなんだかわからずきょろきょろしてたら、

「あんさん、ようまぁ無事で・・」

後ろに回って私の背中を覗き込んでいる。
何かあるのかと手探りしてみたら・・・帯が切れてた。

貝の口の結び目に10センチほどの切れ目。
きっと斬り合いの最中を強行突破した時にできたんだ。
子供を前抱きにしてなかったらと思ったらさすがに血の気が引いた。

どん!と音がして、八木さんちの奥さんが床に倒れた。



母屋の大騒ぎを尻目に、台所で遅い夕飯(誰かが握っておいてくれたお握り2個としば漬けと具の無い味噌汁)を食べていたら、勝手口に人が立った。
粗末な灯火の元、現代人の視力ではもう人相が判別困難な時間だった。
かろうじて袴姿であることは判ったので、

「誰?」

と尋ねたら、

「小夜さんとはあんたかね?」

入ってきた人物はどこかで見覚えのある・・・確か幸の入隊試験の時、上座に居たうちの一人だ。
しかもちゃんと最後までいてくれたうちの一人。

「そうですけど」

言いながら、あわてて正座し直す。
台所には他に誰もいなかったので安心して行儀の悪い格好をしていた。

相手は穏やかそうな感じのおじさん。
私の様子を見てニコニコしている。

「災難だったね。だが無事で良かった」

「ええ。勇坊・・勇之助さんが何事も無くて良かったです。新選組の皆さんに助けに来て頂いて。ありがとうございました」

「いや、助かったのはこちらの方だよ。八木家のご子息に何かあったら我々への責めは免れない。あんたのお蔭だ。局長に代わって一言礼を言いに来た」

土間に立ったままではあったが、きっちりと頭を下げた。
裸の灯火が風を受けて揺らいだ。

新選組のエライさんにもこんな人がいるんだなぁ。
だが、エライさんに最敬礼されるほど、こちらは事の重大さを感じていない。

「やめてくださいよー、お礼なんていいですから。仕事ですもん」

「?」

目を上げた。

「私の仕事、子守だから。子供を守るって書いて子守でしょ?」

イエーイ!我ながら決まったな(^^)v。

おじさんは感心したように、でも嬉しそうに何度もうなづき、

「面白い子だなぁ小夜ちゃんは」

と私を子ども扱いして笑った。
それでなぜだかこの人が好きになった。
“小夜ちゃん”なんて言ってくれたの、この人が初めてだったんだもの。



今夜は留守居なのだと言って、おじさん(山南さんと言うんだって)が帰って行ったあと、入れ替わりに誰が来たと思う?

「おう。ここに居ったか」

京都弁とはちょっとニュアンスの違う関西弁。
忘れもしない、江戸時代(幕末と言えと幸に言われたっけ)に来て初めて会った江戸時代人!

「山崎屋さん!」

でもなんだか様子が違う。
服装が、髪型が、顔つきが、ちがーう!!
刀差してるしっ!

「最前はええ度胸やったなぁ。こっちが冷や冷やしたわ。無事なんが不思議なくらいや」

へっ?
・・驚き第二波!
もももももしかして、

「新選組??」

「へぇ」

「あなたが?」

「そうや」

「さっき助けに来たっけ?」

「なんや、覚えとらんのかいな」

そんなの、見てる暇なかったわよっ!と言ってやりたかったがそれより先に聞きたいことが。

「なんであなたが新選組なの?」

えーと、と彼は月代をポリポリ掻いて、

「話せば・・長いなぁ。あんた夕餉は・・済ましたばっかりやな。ほんなら祭り見物に連れて行くさけ、支度しいや」

え?なに?ほんと?やったー♪
そうとなればこの人がなんで新選組か、なんてもうどうでもいいもんね~♪

支度しろと言われても、着替えるような衣装も無し、持って行く小遣いも無いので下駄を突っかけてそのまま出た。
心地良い夜風がワクワク感をあおる。

主人への了解は既に取ってくれていたみたいで、誰にも咎められずに遊びに出れた。

「うれしー!お祭りだー!祇園祭なんて初めて見るー!」

日曜日の無い江戸時代の奉公人にとって、真夏の夜のお散歩はそれだけで願っても無いヴァケイションだ。
下駄でスキップして転びそうになる。

きゃぴきゃぴ言って走り回っている私を見て、犬コロみたいだと彼は笑い、

「せやけど今夜は物騒やさかい、遠出はあかんで」

「物騒って?」

「河原町で捕り物の真っ最中や」

「お祭りなのに?」

「そうや。祭りやさかいに、な」

意味深にニンマリと微笑った割と男前な涼しい眼元がなんだか不敵に見えたのは、武士の姿をしているせいなのか。

幸も一緒に、と提案しても、

「あん子は何時でん出れるさかい」

さらりと却下されたし。
なーんか、胡散臭いよね。

「何企んでるの?私一人連れ出して、何処行くつもり?」

「お手柄のご褒美や。旨いもん食わしたろかぁ思うて・・」

一度はおどけた。

それから降るような星空の下、

「聞きたいことがありますねん」

・・真顔の山崎屋さんは、・・・私好みの精悍なイケメンなのだった・・はあと(←ばか)。



山鉾って言うけどさぁ、山と鉾があるわけだな。
違いは・・良く判らない(汗)。

そいでもって一番近場の山でちまきを買って(食べるんじゃなくお守りなんだって・涙)飾りを見せてもらったりしてお祭り気分を味わった後、人混みを縫って山崎屋さんの馴染みの店へ。

こんな人出なのに他に客がいないのが妙だったが、後で考えたらわざわざそういう場所を選んだのだった。

鯛のお造りと鱧のお吸い、なんかよく判らない八寸の数々を目の前に、手酌で一杯行きながら、

「沖田先生が戯れに山崎屋などと言っておられましたが、私の名は山崎蒸。新選組で探索方を務めております。正しくは監察方」

・・・なーんだ、標準語(じゃなくて東言葉ね)しゃべれるんじゃないの。
食わせもん。

「じゃあ、山崎さんでいいのね?」

警戒心が顔に出たのか、彼はにっこりと、思い切りチャーミングに微笑って見せ、

「浪速言葉がよろしいか?」

「どちらでも。まぁまじめな話なら関西弁じゃない方が・・」

大阪弁ってどうしても吉本ノリに聞こえちゃうんだよね。



それからはまるで口頭試問。

Q:怖くはなかったか?

A:怖いと思うと子供に不安感が移るので、怖いと思わないように務めた。

Q:どのようにして?

A:辺りを観察する、人を観察する、次の展開を考える等、怖いと思う暇をなくす。・・・性格的なこともあるけどね。

Q:最初に連れ去られた時、どうして助けを求めなかったのか?

A:そんなことして暴れられたらどうするんですか?怪我するの嫌ですもん(憮然)。辺りの子供達を巻き込むかもしれないし。それにどうせお金ですぐ解決するんだと思いましたからね。

Q:目的が金でないとわかった時は?

A:無事に帰るのは難しいかなと。まぁでも今更どうなる訳でもないので、最後まで付き合うしかないなと思いましたけど。預かっているのが勇之助さんだし、新選組が動かざるを得ないだろうと思いましたんで。とにかく助けには来るだろうと。

Q:子供を前抱きにしたのは?

A:誘拐犯の条件は飲まないだろうと思ったので、助けに来るなら斬り込むんだろうと。ならば怪我させないように、かばえる体勢にしとかないとね。

Q:自分が襲われるとは思わなかったのか?


え?と思って目を上げると、吸い物椀のヘリの向こうに含み笑いの山崎さんが見えた。
言い方を変えて彼はもう一度聞き直した。

「手篭めにされるとは思わなかったのか?」

ふん、と、なんだか拗ねたくなる。

「全然。私がついていったのは向こうも予想外でしたからね。そんなつもりは無かったでしょう。それに私の格好見てくださいよ。そんな気、起きると思います?」

身長から考えてまず基準外だし、髪はちゃんと結えるほど長くないので幼い女の子みたいな結い方だし(稚児輪という)、ボロみたいな着物着てるし。

クスッと相手が笑ったので、今度は逆襲。

「お祭り見物させてもらったのはありがたいですけど、こんな姿じゃ恥ずかしくて歩けやしない。ご褒美くれるなら着物がいいな。ちゃんと丈の合ったヤツ。帯だって斬られちゃって、ホラこんなだよ。使い物にならなくなるのも時間の問題!」

動いてるうちに切れ目がだんだん大きくなってる。
これを繕って着るなんて御免こうむりたい。

「それはご主人の八木はんに掛け合ったらよろし。息子の命の恩人や、着るもんのひとつくらい誂えてくれはるやろからな」

そうなのか?
私って命の恩人?着物ねだってもOK?
明るい未来が開けそうな気がしてきた時、もっとスゴイこと言われちゃった。

「他に欲しいもんがあるんやったら伺いまひょか?」

だって!やたっ!
こうなると調子に乗っちゃうイケナイ私。

「今一番欲しいのはねぇ、お風呂!」

「は?」

「垢の浮いてない一番風呂に入りたい!それから、好きなおかずでお腹一杯ご飯食べたい!それと、自分の部屋が欲しい!幸と共同でもいいけど。ああ、それから蚊帳!新しい蚊帳!蚊におびえながら寝るのはもう嫌。それからねぇ・・」

「まだあるんか」

「朝寝したい!毎日じゃなくてもいいけど。あと、休み。週に一度・・じゃなくて七日に一度は休みが欲しーい!!!」

気がつくと山崎さん、頭を抱えてる。
と思ったら言うに事欠いて、

「女郎にでもならん限り無理やな」

なんだと~!

「ばか!えっち!サイテー!」

考えるより先に手が動くんだな。
開けたばかりの吸い物椀と手にした箸を投げつけると、

「うわっ、コラよさんか。わかったわかった、なんとかしまっさかい!」

「できるわけないんでしょ?ジョローにでもならない限り」

・・・ブーたれる。
正直に(叶いもしない)望みを言って笑われた自分が馬鹿みたい。

「欲しいものがあるなら考えるなんてデカイ事言って、どーせ鯛のお刺身で終わりなんでしょー?」

高そうな皿に盛られた半透明の繊細な鯛の刺身に、醤油をふりかけ手でかき込む。
なにさ、一口で一皿食べれんじゃん、もったいぶっちゃってぇ!

何週間ぶりかの刺身も腹立ち紛れにドカ食いしたんじゃ味わうも何もない。
そんな私を山崎さんは持て余し気味。

「まぁまぁそうヤケんならんと。今夜の大捕物はあんたはんのおかげやさかい」

「大捕物って程でもないでしょ。もう口ばっかり!」

「ちゃうちゃう!」



大捕物と彼が言っているのは、先程私が巻き込まれた誘拐事件ではなく、四条河原町界隈で今まさにこの時行われていた過激攘夷派の一斉検挙のことだそうな。

この日未明、山崎さん達観察方がかねてあたりをつけていた過激派のアジトを手入れ(ガサ入れですな)しようとしたら、既に逃げられてしまった後。
かろうじて居残っていたひとりを捕縛し、仲間の居所を聞き出そうとしたのだが口を割らず手を焼いたそうな。

そんな時、誘拐事件発生。

過激派が必死になって仲間を取り戻そうとしている事が判り、拷問の末ようやく割れた口から吐き出されたのは、都に火をかけ、それに乗じて幕府の手から過激派へ政権を奪還しようというとんでもない構想。
一刻も早く阻止せねばというので、過激派が潜伏していると思われる四条河原町付近をつい先程、日が暮れてすぐからローラー作戦開始だそう。

そういえば、八木さんちの奥さんの卒倒騒ぎとご飯食べるのに忙しくて気がつかなかったけど、お向かいの前川さんち、静かだったような。
みんな出払ってたって事?

それにしても、

「一刻も早くっていったってこんなお祭りの日にやられたんじゃあたりも迷惑よね」

あきれていうと、

「混雑に乗じて・・ということも考えられまっさかいに」

窓から夜空を仰いだ。
切れ味の良さそうな三日月(正しくは五日月)が中天にかかっている。

「もう手入れが始まっている頃ですな」

独り言のようにつぶやくのを聞き、疑問発生。

「あなたは行かなくていいの?」

彼も新選組の一員なのではないのか。
今夜は人手が足りなくて、と幸も言ってた。
こんなところで悠長にしていていいの?

すると彼はにっこり笑い、目の下に皺を作って、

「私は監察です。もう仕事は終わっている。まぁ、あんたを助け出しには行かしてもらいましたが、手入れは本来他の先生方の仕事だ。私などの出る幕ではありません」

謙遜しているようでいてそのくせ自信満々に聞こえたのは、似合わない東言葉のせいなのか、ホロ酔い加減の上機嫌のせいなのか。


考えてみれば、いくら私が彼等の役にたったとは言え、仕事の全体像からすれば微々たるものだし、世話になっている家の下女というだけの軽輩に新選組の幹部(この時は幹部とは知らなかったけど)が個人的に接待するなど、何かウラがなけりゃ有りそうもない話なのだ。

だが、それに気づく程、私はまだ世間というものを知らなかった。

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