もう45年以上前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
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元治元年の梅雨は明け、鉄鍋の底の様な炎熱地獄の中、今日も今日とて子守を言い付かってる、私、小夜。

昭和○×年生まれ。
高1女子。
彼氏いない暦16年。

・・・んなこと誰も聞いてないか。


八木さんちの下の男の子、オムツはもう取れてるんだけど、まだお昼寝するときおんぶしないと寝ないのよね。

んで、この暑さでしょ?寝るほうも寝かす方もタイヘン。
エアコン無ぇのかよ!ってぶーたれると余計暑いのでやめとく。
少しでも涼しいところってことで、近頃の定番は壬生寺。

やっぱ江戸時代だなぁと思うのは、こんな真夏の昼日中でも木陰に入ると風が涼しいことかな。
土の地面が熱を吸うのか、日差しをさえぎれば過ごしやすい・・・ような気がする(苦笑)。

考えることは誰しも同じで、いつも近所のガキンチョが必ず何人かいる。

江戸時代って子供多いの。

毎日来てるし暇なので、2、3日前から野球を教えてみた。

子供って遊びを覚えるの、早いのな。
てるてる坊主の出来損ないと、棒っきれ1本で三角野球できちゃった!

私と幸もかわりばんこに子供おぶってハンデつけて正選手だもんね。

赤ん坊(1歳半ぐらい?)も男の子だけあって、おぶわれて走り回るの、きゃっきゃ言って歓んでるので子守的にも問題無し。
寝たら交代すればいいし。

そんな訳で降るようなセミ時雨の中、その日も野球は始まったんだけど、なにやら前川さんちは取込中で幸は姿を見せていなかった。

きっと仕事なんだろうと気にも留めず、ヒットを一発かましたところでおぶった坊やが緊急事態。

つまり・・・オシッコ。

「タンマ!代走お願い!」

境内の隅に走り込み、おぶい帯を解いて放水開始!
・・の瞬間、ブブブブっと変な音。

初め、子供のオナラかと思ったんだけど、それにしては妙な振動がお尻の辺りに・・・。
嫌ーなカンジ。

あ、私はしてないからね、オ・ナ・ラ。

原因はすぐに思い当たった。
湯文字(=腰巻)が裂けたのだ。
ほら、ストッキングが伝線するときのあのカンジなんだもん。

私の身に着けているものは全て借り物で、ほとんど捨てるような年季の入った古着ばかり。
着物はおはしょりを取らなくとも足首が剥き出しだし、裄は襷がけ要らずっていう・・つまりはツンツルテンってヤツ。ついでに下駄は男物じゃないとシェイプアップ用の半スリッパみたいになっちゃう。

湯文字だって例外じゃなく、誰が使ってたんだよっ!ていうくらい地味な、腐った萌黄色の、もう向こう側が透けて見えるくらいの代物だったのだ。

子供にオシッコをさせるためにしゃがんだ瞬間、イっちゃったわけだな。

だぁぁぁぁ!と、うんざりしながら、しゃがんだまま裾から手を突っ込んで、半分裂けた湯文字を裂けるがままびりびりと引っ張り出した。
だってそうしないとお尻の方から垂れ下がって来そうだし。

やれやれ。

破り取った湯文字の切れ端を丸めて懐に押し込み、もう眠くなって胸元にスリスリと顔を押し付けていた坊やを背中に背負おうとした時だ、

「お女中、そのガキをこっちに渡せ」

見れば頬かむりの町人体。
ええと、・・すいません、江戸時代生活短いので、身なりで職業の判別まではできません(汗)。

「大声は出さん事だ。スッパリいくからな」

気づけば目の前にナイフ(最初に気づけよ)。
小柄?匕首?短刀?ごめん、これも判別不可能でした。
幸だったら判ったかもね。

言ってる意味は判るけど、

「この子、今眠いのよ。あなたに渡したりしたらものすごい勢いで泣き出すわよ。それでもいいの?」

割と落ち着いていられたのは、境内で遊ぶ子供達の歓声がそれまでと変わりなかったことと、それとやっぱり16才の女の子にとっては、ナイフで脅されることより湯文字を破り取ったことを見られてなかったかどうかの方が気になっていたせいだ。

“あんた見たでしょ?絶対見たでしょ?見たでしょ?見たでしょっ!!”と、怨念を送られながら反論されるという予想外の展開に、相手は一瞬言葉を失った。

その隙につけ込む。

「おんぶしないと寝ないし、おしっこ漏らしたりしたらどうすんの?知らない男の人になんかなつかないし、怖がって大泣きよ。この子、サイレンみたいに泣くし、泣き出したら止まらないのよ?どうすんの?」

これは嘘。
八木さんちの勇坊はおとなしくてめったに泣かない。
でも今は相手を脅すのが目的。
案の定言葉に詰まって、いい感触。

「こんなとこで泣き出したら皆あなたの存在に気づくし、そうなったら大騒ぎよ。どうすんの?新選組に捕まっちゃうわよ。屯所なんかすぐそこなんだから。どうすんの?騒がなくったって、暇な人達はここに来てぶらぶらしてたりするんだから。あんたなんかすぐ見つかっちゃうんだから。どうすんのよ」

言いながら、坊やをおぶう。
仮にも子守を言い付かってるんだからみすみす子供を手渡す訳にはいかないじゃないか。
無責任だと思われちゃう。

だが、それは向こうも同じだったらしく、

「ならばお前も連れて行く」

子守諸共さらう気だ。
あきらめたと思ったのにぃー!




刃物を突きつけられて渋々立つ。
目線が上から下へ入れ替わる。
相手の口があんぐりと開いた。

私のほうが10センチ以上大きいもんな。
さぁどうする。こんな目立つ人質連れて何処行く気だろ?

「さて、行きますか」

にっこり笑ったら誘拐犯のオジサンびびりまくり。
頭のオカシイ子守女に見込まれて(笑)きっと後悔してるに違いない。

こんな赤ん坊背負って、歯向かって怪我するなんて嫌だし、仮に私らが無事であったにしろ辺りで遊んでいる子供らの誰かが犠牲になるかもしれない。
ならば年長の私が赤ん坊と一緒にさらわれた方が、逃げるにしたって身代金と交換されるにしたって都合がいい。

それに、他の誰より勇坊が人質にならないとね。
身代金が払えない家の子だったらどうするのだ。
殺されかねないではないか。

願わくは、あそこで三角野球に興じている子供の中に勇坊のお兄ちゃん、為三郎君が居ることに気づかれたりしませんように。

もたもたしていると子供らが気づいて騒ぎになる。
下手に騒いでお兄ちゃんの方を連れて行かれたりしたらまづい。
子守はついて行けないじゃないか。
そんなことになったらかわいそう。

「どうしたの?早く行くわよ」

誘拐犯はこの予定外の状況に対応しきれずまだためらっている。
考える間を与えてはいかんな。

「ここであたしを逃がしたら後悔するわよ~。もうあんたの顔覚えたもん。新選組引き連れて追いかけてやる!」

これは効いた。
懐から手紙のようなものを地面に投げたと思ったら、私の腕をつかんで駆け出そうとした。

「ちょっとぉ、あんまり急ぐと怪しまれるわよ。引っ張んなくたってついて行くから焦るなっつーの」

もう、“頭のオカシイ子守女”は本決まりかも(自爆)。




その日は祇園祭の宵々山だった・・らしい。

壬生寺からほぼまっすぐ東へ、つまり市街地へ向かう道々、祇園囃子が風に乗ってさざ波のように聞こえてきた。

町屋の四畳半に押し込められたのはいいが、閉めっきりでは暑くて死にそうなので、ちょっとだけ開けてもらった障子戸からも祭囃子はひっきりなしに聞こえているし。

どうせならもう少し街中だったら祭り見物できたのに、誘拐犯のアジトは壬生寺から歩いて20分ほど。
割と近場だった。

布団を敷いて寝かせたので勇坊はすっかり寝込んでいる。
汗をかきながら、一生懸命寝ているってカンジ。

いいぞー!大物だな。
団扇をを借りて扇いであげながら、私も一緒に昼寝しといた方がいいかなと思う。



この誘拐、お金目的じゃないらしい。
なんでも、彼等の仲間が新選組に捕らえられてて、その仲間と交換しようということらしいのだ。
隣室で話しているのが聞こえている。

犯人は男ばかり3人。
私を連れてきたのは町人風だったけど、ここで待ってたのは袴を着けて刀を差してたから武士だろう。
あるいは最初の男も変装だったのかもしれない。


八木さんちの坊やが狙われたのはそんなわけ。
あとは新選組のお手並み拝見。
まさか厄介になっている家の坊やがさらわれたら、無視する訳にいかないじゃん。

それにしたって、今の状況は当初の予想を外れ、やや危険度大。
お金目当てなら穏便に解決できるものを、新選組の「獲物」と交換するんじゃあ・・・この後の展開が読めなくなってくる。

だってさー、そんなの蹴られそうじゃん?
新選組が事を穏便に・・・なんて処理するのかね?



新選組って、よく知らないんだけど、幕府から“京都守護職”ってのを任されてる会津藩に雇われてる団体で、京都の治安維持のために市中見回りとかやってるんだよね。
だからまぁ、警察みたいなもんかと思ってるんだけど(それともガーディアン・エンジェルス?(=自警団・爆)。

でも他にも“京都所司代”っていうとこの同心(=おまわりさん)も同じような仕事をしてるし、京都町奉行っていうのもあってややこしい。
それぞれ守備範囲は微妙に違うみたいなんだけど。


で、その新選組がだよ、何の事件か判らないけど、せっかく捕まえた容疑者を解放しろと誘拐犯に要求されているわけだ。
八木家の子息を返して欲しくば、我等の仲間を解放せよ!とかなんとか。
それで「はい。判りました」と素直に応じるのかね?

もともと浪人(浪士だっけ?浪士って何よ?)の集団だっていう、体育会系のあのガサツな新選組が?

・・・可能性は限りなく低いな。

うーむ。
そうとなれば、自衛しますかねぇ、多少なりとも。

自分と関係のない争いに巻き込まれたうえ、怪我でもしたら大迷惑。
勇坊だってかわいそう。

もし斬り合いになったら何処へ逃げようかな、と辺りを見回すが、・・・逃げ道はない。
町屋と言っても二間ほどの棟割住宅で、玄関兼台所の土間に面した部屋に悪党ども。
私等人質は奥の間だ。
やはりコイツ等をなんとかしない限り外へは出られない。

うーん・・・。

やっぱ昼寝しよっ(爆)。
考えてもわかんねーし。

朝が早い子守娘はいつでもどこでも寝れることになっている。
ほんのちょっとうつらうつらしたかなと思ったら、部屋の中は薄闇に包まれていた。
しかも隣の部屋との間の襖は閉めっきりなので蒸し暑いことこの上ない。
勇坊がぐずりながら起き出した。

まずいな。
そろそろ限界だ。
いくら子守と一緒とは言え、母親が恋しい寝起きの夕間暮れなんだもの。
かといっていいアイディアも浮かばないけど。

とりあえず、汗まみれの背中を手拭で拭いてあげながら、

「すいませーん、子供におしっこさせたいんだけどぉ」

声をかけたら襖が開いた。
強面の素浪人風。

「寝起きにおしっこするもんで」

トイレは家の外らしかった。
人質を押し込めておきたいらしいオジサンは桶にでもさせろと無体なことをおっしゃる。

「外にさしちゃだめですか?玄関先でいいですから。ああ、早くしないと漏らしちゃう」

有無を言わさず部屋から出ると、抜き身を突き出された。

“あんたが刀を怖がらないのは、刀で怖い目にあったことが無いからだ”
と、後から幸が言ってた。
まぁ、その通りなんだと思う。

「別に逃げたりしませんよ。そんなそぶり見せたら、後ろからバッサリやっちゃって下さいー」

構わず土間に下り、玄関を開けて盛大に放水~!

あー、ついでに外の風は気持ちいいわ~♪

コンチキチンも間近に聞こえる。
いいなー、お祭り行きたいなー。

音のする方を見やりながら、ちっちっと子供の体を揺すり、おしっこの雫を切って、家の中に戻る。

勇坊が再びぐずり始めた。お腹が空いているのだ。

「何か食べるものないですか?」

3人が3人ともこちらを見た。
なんだよ、まさか何も無いなんて言うんじゃないだろうな。

「この子、夕飯の時間なんですよ。いつもより長く寝たのでお腹空いてるんです。何か無いですか?」

顔を見合わせている。

「あのう、子供なんだからお腹が空いたら泣きますよ。泣いたらまずいんでしょ?」

「握り飯でいいか?」

「いいですよ」

離乳食なんかとっくに卒業してるし。

すると、・・・どうやら米を探している様子。

・・・だんだん腹が立ってきた。

「あのさー、今すぐ食べれるもんは無いの?この子供、ご飯が炊けるまで待てると思うの?」

なんなんだろ。この計画性の無さは。

「最初から子供を誘拐・・(って現代語かな?)さらう予定だったんでしょ?だったらもうちょっといろいろ準備しとかなきゃ駄目じゃないの。あたしが一緒に来たからいいようなものの、この子だけさらってどうするつもりだったのよ」

頭ごなしに責められて、男どもが顔色を変えた時、とうとう勇坊が泣き出した。
きっと私が怒っているのが判ったから。

「おおよしよし、ごめんね。」

となだめつつ、

「ともかく、何か買って来て。お祭りだもの、何かすぐ食べれるお団子とかお餅とか、その辺で売ってるでしょ?あと何かおもちゃ。遊べるものが無いと間が持たないわ」

私みたいな小娘にここまで言われて、誘拐犯だって立場が無いんだろう。
さっきの強面のオジサンが何か言いたそうだったが、子供をあやすフリして無視を決め込む。


町人体の一人が食べ物を買いに出て、敵は二人になった。
助けが来るなら今のうちなんだけどな。

子供をあやしながら鼻歌を歌いつつ逃げる準備。

おぶい帯で勇坊を前抱っこにし、懐に入れていた湯文字の最後の切れっ端を、換気用の障子戸の隙間からそっと外に放る。

最後の切れ端って何かって?

誘拐犯に連れられて来る道々、ちょっとづつピリピリ裂いて撒いて来たんだ。
見つからないようにやるのは神経使ったけど、目立つ色じゃなくて良かった(笑)。
もっとも、風で飛ばされてると意味無いんだけどね。

最後のは準備OKの合図のつもり。誰かが気づいてくれるといいんだけどぉ。


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