もう50年ほど前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。
・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。
ご笑覧下されば幸いです。
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不意に、ボソボソと話し声が高くなった。
それがあっという間に言い争う声となり、
「黙れ!ふざけるな!」
と、はっきり聞こえたのは藤堂さんの声。
どうしよう。
頼むから刀抜かないで!
「どうしたの?大丈夫なの?早まらないで!ここ開けて!斎藤さん!」
一瞬、銃で撃てば開くかと思ったけど、敷居につっかえ棒をはめ込んであるんだから、一発撃ったぐらいじゃ戸板に穴を開けるだけだ。
そんなんじゃ意味が無い。
どうしよう!と、そこまで考えた時、突然ひらめいたんだな。
護身用に持たされた銃だもの、撃てば驚いて出てくるはずじゃん!
ならば!と早速教えられた通り、撃鉄を起こしてー、右手の指を引き金にかけてー、左手で右手首を支えてー、両腕を伸ばしてー・・・!
せめて外に向かって撃てよ、と、後から幸に叱られた・・・(--;
私だってそう思ったんだよ。
でも雨戸も障子も開けてる暇、無かったんだもん。
バン!という大きな音と共に生じた衝撃で(というよりはそれに驚いて)、
「んぎゃ・・っ!」
座ったままその場にひっくり返った。
膝の上から1尺ほども宙に飛び上がったフクチョーが、矢のように台所へ逃げ去るのが目の端に見えた。
気付いた時には、手の中にあったはずの銃がどっか行っちゃってるし(汗)。
「どうした!」
ガタガタと納戸の戸が開いて、出てきた斎藤さんの手には抜き身!
素早く私を飛び越えて、身構えたまま辺りを見回すが。
「ち、違っ・・」
違うんだ、と言いたいのに銃を撃った後の煙が凄くて、うっかり吸い込んじゃってむせちゃってた。
火薬の匂いもキツくてゲホゲホ咳をしてたらば、
「暴発か!?」
家の中に不審者など居ないことは瞬時に判断できたのだろう。
今度は畳に転がったままの私を抱き起こし、
「大丈夫か!怪我は?」
「ごめ・・、違うの。ここ、開けてくれないから・・・撃ってみただけ・・」
「・・なんだって?」
「だって撃ったら驚いて出て来てくれるんじゃないかと思って・・。ごめん。びっくりした?」
斎藤さんは一瞬言葉を失って、それから物凄く大きなため息をつき、
「あんたって人は・・・」
刀を持ったまま、空いた左腕で私を懐に抱き寄せた。
予想以上に心配させちゃったみたいだ。
・・・と、開け放された納戸の奥から笑い声が起こった。
藤堂さんがゲラゲラ笑っているのが聞こえている。
斎藤さんの目が納戸に向けられ、殊更表情が険しくなる。
と同時に、刀を握る右手に力が入ったのが判った。
「ダメよ!やめて!何する気?」
その手を咄嗟に、畳の上に押さえ込む。
「放してくれ。まだ話は終わってない」
「嫌だ!放さない」
抜き身を持った手の上に体ごと預ける。
だって相手は斎藤さんだもの、そうでもしないと簡単に振り払われちゃう。
「やめろ!危ない!何するんだ!」
剥き出しの刀身に覆い被さるようにうずくまったので、斎藤さんが焦っている。
「小夜さん、やめろ!怪我したらどうするんだ」
「嫌!そっちが手を放したらいいでしょ?藤堂さんに何する気!」
その時、ひときわ高く笑い声が響いた。
「小夜ちゃん、そいつは違う。その男は俺を殺す気なんかじゃねぇ。己が死ぬ気なんだぜ」
え?
「俺に殺してくれろと言いやがる。俺に仇を取れとさ」
うずくまった体勢のまま、斎藤さんを見上げる。
その目が恐々としている。
本当なのか!
「ばか!」
情けなくてまた、目に涙が湧いてきた。
「ばかばか!ばかっ!どうして?・・・何考えてんの!」
「そうだろ?言ってやれよ。ふざけるんじゃねぇってな。お前なんか斬ったところで何になる。自惚れてんじゃねぇや。どうせお前だとて良いように使われた口だろ?本当に仇を取らせてぇなら、近藤と土方の首でも持って来いってんだ」
捨て身の藤堂さんはさすがに容赦が無い。
斎藤さんは私に気を使ったんだろう、慌てて、
「黙れ!貴様なんてことを・・!」
「なんだよ。新選組に義理立てすんのか?お前、やっぱり本当は戻りたいんじゃねぇのか?」
「違う!」
「じゃあどうして俺に殺されたがるんだ。戻りたいのに行き場が無くて困ってるんじゃないのか?格好が付かなくて困ってるんだろ?」
「・・・違う」
と、斎藤さんの言葉を待つまでも無く、そりゃあ違うだろ、と私も思った。
だって新選組は斎藤さんの受け入れ準備、してるはずだもん。
伊東派潰しに手柄があったワケだから、行き場が無くて困るということは無いはずだ。
「ふん。違うのか?お前のことだ、涼しい顔で人を騙し討ちにして、それを手柄に戻ったところで、それでこれまで通りに暮らせるとは思っちゃいないんだろ?だから戻るに戻れないんだろ?新選組に戻ったってお前はもう終わりだものな」
・・・どういう意味?
斎藤さんは無言。
思いつめたような表情で言葉を飲み込んでいる。
「誰だって騙されるのは嫌なもんさ。今戻れば、お前がそういう人間だと辺りに触れ回るのと同じだものな。そうとなれば再び同じ仕事はさせられねぇし。あとは何だ?飼い殺しにしておくしかねぇよな。いよいよ暗殺係だ。専任だな。そんなところへ戻るほど、・・・馬鹿じゃねぇだろ?お前はよ」
ああ・・。
そうか。
考えもしなかった。
藤堂さんの言う通りかもしれない。
「いっそ、近藤・土方に恨みはねぇのかよ。お前を間者にさせて、結果がこの通りってのは奴等にしちゃ判ってたことなんじゃねぇのか?」
「藤堂・・!」
また、聞いている私を気遣って、斎藤さんが声を荒げた。
「なんだよ?いいじゃねぇか。小夜ちゃんだって俺等にさらわれちまったって可笑しかねぇんだぜ?旦那殿はそこまでお見通しだったんじゃ・・」
「やめろ!己と一緒にするな」
「いや、待てよ?俺が生き残ってここに居るのは偶然のことだからな。もともとはお前等二人きりのはず・・。てことは・・」
「黙れ!」
話すのを止めない相手に苛立ち、斎藤さんは私の体の下の差料を諦め、手を離して立ち上がる勢い。
腕にすがった。
「ダメ!」
そのまま揉み合う頭の上に、尚も藤堂さんの笑い声が降り注いだ。
「小夜ちゃん、お前、斎藤の褒美にされたな。酷ぇ!酷ぇダンナだ!」
え?
と、斎藤さんの顔を見てしまう。
笑い転げる藤堂さんの声。
「違う!」
斎藤さんの目元が引きつっている。
声が、必死だ。
ふと、「確信犯だったりして・・・」という昼間の幸の言葉が耳に蘇った。
「ウソだ!信じるな!アイツは苦し紛れにアンタを騙そうとしているだけだ!」
それを打ち消すように、藤堂さんはますます笑うばっかりだ。
「どう違うの?」
私はなんだかムカついて来ていた。
なんだか、というか無性に、というか。
必然的に、というか、ね。
「斎藤さんは知ってたの?知ってて黙ってるの?私に気を使って黙ってた?」
ウソだかホントだか知らないけれど、あのクソオヤジが仕事の褒美に私を部下に与えようとしたっていうのは有りそうな話で、ヤツの人間性の是非なんて今更どうでもいいんだけど。
問題はこっちだ。
「違う。黙っているも何も、そんな話はもともと無い」
「無いってだけじゃ納得できないよ。ちゃんと説明してよ」
腕にすがっていたはずの手が、相手の胸元を掴み寄せていた。
未だ納戸から聞こえる下卑た笑い声が癇に障った。
「うるさ~い!笑うな!外野はちょっと黙ってて」
静かになったのを確認して向き直ると、斎藤さんは覚悟を決めたらしい。
「判った。話す。話すから、頼むからもっと火の側に。また熱を出すと事だ」
言われて気付けば、火の気から遠い座敷の畳の上にぺったり座り込んで、しかも膝頭に斎藤さんの刀が触れそうになってた(怖)。
手あぶりをひとつ、座敷に追加して、納戸の戸を開け放ったまま。
私はどてらを羽織って布団の上に座り、その手あぶりを抱え込んでた。
背中の、腰の辺りにフクチョーがたぶん丸くなっていて、ぽかぽかと行火のように暖かかった。
斎藤さんは納戸の戸口に寄りかかり、藤堂さんも寝床の上で起きてたと思う。
「分派する伊東さんに付いて行こうと思ったのは、近藤さんより伊東さんの説の方が上だと思ったからだ。実際、あの人の建白書の草稿を見せてもらったが、たいしたもんだ。ケチのつけようが無い」
当たり前だ、と藤堂さんから合いの手が入る。
「それと、新選組の仕事に飽きていた。それも出ようと考えた理由のひとつだ」
思った以上にはっきり言い切る。
が、詳しい事情までは言わない。
「誰に言われたワケじゃない。伊東さんに声をかけられたのは確かだが、決めたのは俺自身だ。だが、その後で土方さんに呼ばれてな。分派するとはいえ新選組に変わりない。ついては内部の情報を逐一報告しろと・・」
「つまり間者ってことだろ?」
「いや」
と、藤堂さんに突っ込まれたのを一度は否定したが、すぐに撤回する。
「まあ・・・そうだが。伊東さん本人からの報告と内容を照らし合わせたいと言われてな。俺も相手の腹積もりは判ったつもりだったから、請け負うのはいいが信用してくれるなと答えておいた」
「請け負わなきゃいいだろう?」
「ああ、そうなんだが。伊東さんが疑われているのが気に入らなくてな。新選組に何をどう報告しようと俺の勝手だからな。不利なことは言わなければいい。そう思って・・・」
「それはどうかな?お前、逃げ道を残しておいただけなんじゃないのか?どっちに転んでも良いように」
「そう思われても仕方ないが。今思えば、俺は始めから新選組とスッパリ切れるつもりも無かったんだ。何しろ分派ということだったから。伊東さんからもそう聞かされていた。だからそれほど深くも考えなかった。それがどうだ、ふたを開けてみたら伊東さん方は戦々恐々、新選組に討たれるのを覚悟だった。草鞋を履いたまま寝ろと言われたのには驚いたもんだった」
言葉を切って、彼は私の方を見る。
抱えた手あぶりの五徳の上には錫の燗鍋。
空の湯呑み茶碗を手のひらに転がしながら、燗がつくのを待っている。
「それで判ったのさ。分派の時、俺に声がかかったのは用心棒が欲しかったからだとな。伊東さんは頭が良の良い人だが、近藤さん以上に仲間を仲間と思っちゃ居ないところがある。武田観柳斎を斬った時は我ながら判りやすく試されたもんだと思ったな」
鼻で笑う。
おやっと思った。
その人って・・・いつだったか幸が言ってた人だよね?
・・・そういうことだったのね?(--;
「俺は言うなれば新入りだからそれでもまだ仕方ないと言えるが、藤堂、同門のお前ですらそんな扱いではなかったか?」
「うるせぇや。余計なお世話だ」
斎藤さんは威勢の良い憎まれ口にちょっと微笑んで、
「まあ、同門なれば、そんな扱いも覚悟の上かと思っていたよ。でもお前、最後まで俺を疑っていたろう?」
「あたぼうよ。俺の目は節穴じゃねぇ。わざとらしく近藤・土方に反発して見せたぐらいじゃ信用ならねぇからな。同門でもなく、伊東先生にそれほど執心していたとも見えなかった。腹の底の読めねぇヤツを仲間に入れるのは、最初から気が進まなかったのさ」
ふふん、と、斎藤さんはまた鼻で笑って、
「まあ仕方ない。とにかく俺はさほどの覚悟もなく新選組を出たのさ。毎日変わり映えのしない新選組の仕事よりも、伊東さんの所の方が面白くなりそうな気がして」
再び視線で促され、燗鍋の口に湯気が出始めているのを確認。
どてらの袖で鍋の弦を掴んで斎藤さんのもとへ。
「伊東さんの用心棒は随分やったので判るが、あの人はあちこち精力的に出かけて行っては自論を説いて回ってはいたんだが、その実、ほとんど相手にされてなかった。話は聞いてもらえてもそれっきり。門前払いも度々さ」
自酌で一口、酒を含む合間に、藤堂さんが憎まれ口を返す。
「ふん。用心棒に裏切られるとは思ってもなかったろうよ。あの人は人を信じ過ぎるのだ」
「そうだな。話を聞いてもらえれば賛同してくれたと思い込んでも居た。聞き流されているとは思わんのだな。子供のように他愛無いところもあった」
「純粋なのだ。そんな人を、・・・貴様は裏切った」
語尾が沈んだ。
一杯目を一息に飲み干して、斎藤さんは長いため息をひとつ。
「目指すものが高すぎて、誰も近づけないのだ。後ろ盾になる者が居ないのはそのせいだ。それを本人が気付いてない。自論は完璧だという自負もある。どんどん・・・周りから浮いていく」
「それで逃げたと?」
「醒めたんだな。急に醒め始めて、新選組から抜けた意味はあったのかとまで思ったよ。最初のうち、伊東さんに合わせて繕っていた新選組への報告も、だんだんと本当のことをそのまま流すようになって・・。そんなことをしているうちに、どうも伊東さんの・・・御陵衛士のやっていることがママゴト染みて見えてきた。」
藤堂さんは黙っている。
それはもしかしたら・・肯定の意味なのか。
「論はどうでも、やっていることはやはり新選組の方が筋が通ってる。一度そう思ってしまうともう駄目さ。おママゴトが鬱陶しくてならんのだ。新選組、いや、土方さんに頼まれていたからそのまましばらくは我慢していたが、もう引き上げて良いと言われた時にはほっとした。女と駆け落ちを装って抜け出す頃には、・・・伊東さんを斬ると決まったとは知っていたが、さもありなんと特別感慨もなかった。だが・・・」
ちょっと間が空いた。
二つ目の燗鍋を温めていて、手あぶりの火を眺めていた私が首を回して斎藤さんの方を見た時には、
「まさかあそこまでやるとは」
湯呑み茶碗を弄びながら中空を見つめる表情に嫌悪感が見て取れた。
それと、もっと苦いような、何かと。
「誰に恨みがあるわけでもなかった。己のせいでこんなことになったのは不本意至極。だが、今更言い訳しても始まらぬ。切腹して詫びるのが本来だが、せっかく討つ手があるのだから・・」
はっとして、彼の手元に置かれた刀に目が行った時だ、
「やめてくれ」
一際はっきりと、藤堂さんが言った。
そう聞こえたのは、彼が怒っているからだとすぐに判った。
「この俺がこうやって生き恥を晒しているのだ。貴様が死んで楽になる道理は無い。少なくとも俺が生きている間は貴様も生きて苦しむべきだろう。独りで逃げるなど許さんぞ!」
「藤堂・・・!」
私にも判ったぐらいだから、斎藤さんも気が付いたろう。
それは藤堂さんの、精一杯の歩み寄りだった。
つまり、藤堂さんは斎藤さんを憎んでなんかない。
「勘違いするなよ。俺は貴様を許さんと言ってるんだからな。近藤も土方も許さねぇ。いつか仇を取ってやる」
それを聞いた斎藤さんが、また私に気を使って藤堂さんを黙らせようと何か言いかけたのを押し退けて、
「了解~!首洗って待っとけって言っとくから!」
燗のついた燗鍋を枕元に運ぶ。
水飲み用の湯呑みにお酒を注いで、
「早く元気になって仇取ってくださいよぉ~?」
布団から首だけ出した藤堂さんが、めちゃくちゃに顔をしかめて見上げている。
「あ”?!馬鹿かお前は!手前ぇの旦那の首を取ろうって言ってんだぜ俺は」
額を冷やしていた手拭いがどっか行っちゃってるな。
「判ってるよぅ。いいじゃん。そんなの藤堂さんの好きにすれば」
「いいじゃん・・ってお前・・」
と言いかけた目線が、ようやく私の手元に貼り付く。
「命の水、飲みたくないのかなぁ~?」
「・・・の、飲んでもいいのかぇ?」
生唾ゴックン(笑)。
「いいよぅ。一杯だけ。斎藤さんと仲直り記念に!」
と言ったら、
「ちぇ。そんなもの、知るかい!」
そっぽを向いた。
そっぽを向くな、トラ刈りが笑える(爆)。
「あらそう。じゃあ要らないね?出汁酒に使っちゃっていいかな~?」
「馬鹿!勿体無ぇだろ?俺に飲ませろ」
うふふ。
やっぱりこの人はこういう正直なところが可愛げがあるよね。
首の下に手を添えてやると、頭を起こして湯呑みから器用にぐびぐびと一息に飲む。
「あ~、旨ぇ~!生き返る~・・・!」
素で言ってしまってから気付いたんだろう、私の顔色を伺うように、丸い目をくるりと向けた。
笑っちゃった。
「あらそう?それは良かったねぇー。生きてて良かったことがひとつ出来たね」
藤堂さんは不機嫌そうに口元を尖らせて、
「ちぇっ。また説教する気かよ。鬱陶しい。お前いつからそんな偉そうになったんだよ。あっち行ってろよ」
「何よー!さっきは話し相手になれって言ったくせにぃー!」
その時、納戸の外から不安げな面持ちでこちらを伺っている斎藤さんに気付いた。
そうだった。
もうひとり、問い詰めなくちゃいけなかった。
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