もう50年ほど前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。

咄嗟に返事が出来ない私に舌打ちを返してよこし、

「厠だ。早くしろ」

「ええー!ソレにしてたんじゃないの?」

枕元の尿瓶(!)を指差す。
さっき幸が出掛けに始末して行ったばかりだけど(お前はやらんのか!by幸)。

「いや・・・大きい方」

だああぁ!(><)

「ええ~っ!ちょっと、やだー、もう!藤堂さんてば病人のクセに食べ過ぎなんだよ~!」

「なんだい、病人が飯食っちゃイカンてのか?」

「そうは言ってないけどぉ・・・」

切腹させろとゴネてる野郎の言う台詞かよ(笑)。

「飯喰えば糞ぐらい出るだろ?出なきゃ死んじまう。早く起こしてくれ」

背中に大きな傷を負った藤堂さんは起きる動作が辛いのだろう。

「起こせばいいの?後は大丈夫?独りで歩ける?」

「大丈夫だよっ。早く起こせ!」

腕引っ張るな!とか傷に触るな!とか大騒ぎの挙句、抱きかかえて起こすしか無いと知れ・・。
どてらを脱ぐ(まだ着てたか)。

本人には私の背中に両腕を回してつかまってもらって、こちらは傷に触れないよう、彼の首を(赤ちゃんを抱くように)片手で抱え、もう片方の手を支えにして抱き上げ・・・ようとしたら、無精髭の伸び始めた顔が10センチも空けない側でニタニタ笑っているではないか。

「小夜ちゃんて見た目は大女だけど存外華奢だよな」

こちらが助ける側だとは言え、彼の腕に納まる格好。
無防備をあざ笑う。
どさくさに抱きつこうという魂胆ミエミエ。

「笑うのは勝手だけど、大人しくしてないと斎藤さん呼ぶからね」

戸口の側で聞き耳を立ててこちらを窺っているのは判っていた。

そんなかつての同僚をどんな風に思っているのか知らないけれど、言われてぐっと黙ったところを見ると、世話にはなりたくないらしい。
その隙に、よっこらしょと抱き起こす。

ああ、重っ。
この人達(江戸時代人。しかも剣術やってる手合い)って筋肉の付き方が違うよね。
小柄な割にどっしり重いくて溜息が出る。

暗くて確かには見えないけれど、昨夜から敷きっ放しの布団は血で汚れて居るに違いなかった。
起き上がりざま、私の肩に体重をかけて立ち上がった藤堂さんの浴衣の背に、黒っぽい血膿のシミが点々と。
後で着替えさせなきゃ。

「寒いから何か羽織らないと・・・」

ふらついて戸口につかまった肩へ、先程私が着ていたどてらを着せ掛けるが、小柄な藤堂さんには大き過ぎ(^^;
それを本人も気付いたのか、決まり悪そうに振り払って、手水へ向う。

と、側に端座していた斎藤さんが、首を廻らせてこちらを向いたのと目が合ったらしい。
ふと足を止めた。

が、次の瞬間、斎藤さんがぱっと顔を背けたんだ。

理由は、私には直ぐに判った。
行灯の灯りの中に藤堂さんの・・・トラ刈り頭を見たからだ!

散髪した張本人の私でさえ、吹き出すのを堪えるので必死なのだ。
その上、斎藤さんのそんなリアクションに気付いてしまったら・・・。
ダメっ!可笑しい!窒息しそうっ!(笑)。

藤堂さんは何と思ったか知れない。
まだ気づいて無いんだもの!
無言のまま、割と達者な足取りで厠へ駆け込んだ。
きっと他の事で斎藤さんに笑われたと思ったのかも!

「灯り、置いとくね?」

箱行灯を手水の前に置いてやってから(それでもトイレの中まで明るくはならないけれども)、座敷で声を殺し、肩を震わせて笑っている斎藤さんに手振りで「笑うな」と教育的指導(笑)。

捕虜に脱走されては困るので、雨戸も障子も開けたままで納戸の片付けをする。
気温的には家の内外の区別も無くなり、寒いけど仕方ない。
換気にもなることだし。

あちこち血の染みに汚れた布団は、もうしばらくそのまま使ってもらうことにした。
未だ傷口から出血しないとも限らないし、もう少し様子を見た方が・・・と、斎藤さんとも相談して。
その後は廃棄処分にするにしても。

用済みの手桶の水と尿瓶を片付け、納戸の鴨居に掛けてあった手燭に火を入れ、火鉢に炭を継ぐ頃、叫び声と共に厠の戸が開いた。

「髷がっ!・・・か、髪が・・・!」

よろめきながら厠を飛び出した藤堂さんが、縁側から怒鳴った。
どうやらとうとうバレたらしい。

「斎藤!貴様っ!」

あ、まずい。

「違うよ。それ、私がやったの。斎藤さんは関係無い」

「なにぃ~!」

がたがたと雨戸と障子戸につかまりながら座敷へ上がり掴みかかって来た!
・・・と思ったらばったり倒れた。

あれ?

暴挙を阻止しようとして間に立った斎藤さんと、思わず顔を見合わせる。

「どした?」

恐る恐る覗き込むと、浴衣の背中を上下させ、畳に突っ伏したまま藤堂さんが呻いた。

「あ、足が・・・っ」

和式トイレでウ○コして足が痺れる手合いだよ(--;
っていうか、それって江戸時代の人とも思えねぇ(爆)。

「ちくしょう!誰に頼まれてこんなことを・・!こんなイタズラ・・。どういうつもりだ!髷が・・・結えねぇじゃねえか・・。どうしてくれるんだ~っ!」

イデデデと喚きながら体を起こそうとする。

「明日幸が来たらさー、ちゃんとアタッてもらうから大丈夫だよ」

言いながら、斎藤さんの後に隠れた。
別に藤堂さんの剣幕が怖いってわけじゃないけど、痛い目に合うのは嫌だしね。

「そういうことを言ってんじゃねぇ!よくも、よくもこんな・・・っ」

ああっ!
まさか、泣きそう!?

「ごめんねー。藤堂さんがあんまり切腹したがるからさー、邪魔しようと思っただけ・・・」

「冗談じゃねぇ!」

宥めようとするつもりが、どうも逆上させてしまうようで(^^;
怒鳴り声に思わず目の前のお召の肩袖を握り締めてしまう。

藤堂さんは畳に手をついた姿のままにじり寄って、今にも飛び掛からんばかり。
と、その目が、斎藤さんの手元を捕らえた。
左手に掴んでいた大刀の柄に右手が行ってたのを見咎めた。

「貴様・・・」

そのまま斎藤さんを睨み上げた。
落ち窪んだ目を三白眼に剥いたその表情は、行灯の薄明かりの中、乱れたザンギリ頭の下で、そこそこの形相に見える。


彼からしたら斎藤さんは仇なのだ。
私を庇う姿に余計逆上したのかも、と思った。

二人はしばし無言で見合っていて・・。

雨戸を開けたままなので、室温は戸外と同じ。
浴衣ひとつで歯の根の合わぬ藤堂さんが、先に言葉を発した。
目を細め、歯噛みをしながら呻くように。

「貴様、いったいいつから間者だったんだ」

吐き出す言葉が一時白く形を成して、それから行灯の灯りの中に散じた。

論点が変わってしまっているのに戸惑ったのは私だけだったかもしれない。
この二人の間には一分たりとも忘れ得ず、ずっと在り続けた問題だったのだ。

「初めから新選組とは通じたままだったのか?最初から裏切るつもりで俺達と一緒に来たのか?」

斎藤さんは・・・無言。
蓬茶色のお召の肩は目の前で静かに規則正しく上下していて、毛ほども動揺している様子は無い。
言い募られても答えるつもりは無いように見えた。

「では、いつだ。いつ決めたんだ?」

藤堂さんが質問を変えた。
でもそれも、斎藤さんにとっては既に想定していた質問だったのかもしれない。

「答えろ!」

冷静な斎藤さんの様子とは逆に、藤堂さんの叫び声には切羽詰まった響きがあった。
悲壮感、と言うのか。

ちょっと、声がひっくり返りそうだったんだよね。
それを、斎藤さんも気がついていて。

「伊東さんは・・・人物だったな。あの人の言ってることが本当に実現できれば、大したもんだった」

静かに話し出す言葉が過去形なのが聞いてて悲しかったっけ。

「だが、危う過ぎた。誰がどう見ても危う過ぎた。とても守りきれん。」

危ういとはどういう意味か、部外者の私には知る由も無い。
ただ、藤堂さんの表情から徐々にではあるが険しいものが薄れて行くのは判った。

「藤堂、お前は本当にあの人の言うことが実現できると思っていたのか」

今度は藤堂さんの方が答えに詰まる番だったようだ。
その様子を見下ろしながら、斎藤さんの声は何処までも静かだった。

「おれには到底無理に思えたし、それに実際、無理と判ってきても居・・・」

「だから逃げたって言うのか!」

相手が皆まで言うのを待たずに喰い付くその勢いに、斎藤さんが苦笑する気配がした。

「まあ、・・・そんなところか。お前には悪いと思っていたさ。お前は良くやってたからな。だが俺はお前と違ってあの人に義理立てする程のものは何も無い。第一、そんな危ういものと一緒に居るのは・・・恐ろしくてならん」

絶句したまま見上げる藤堂さんの目が、今にも潤んできそうに見えた。
口元を真一文字に結んで、寄せた眉根が不安そうだった。

私には到底計り知れない、二人だけに判りあえる何かがそこに有ったのだと思う。
程無く、斎藤さんの肩がそっと溜息をついた。

「おい、寝床へ戻れ。風邪を引く・・」

屈んで、寒さに?肩を震わせていた相手に手を差しのべる。

斎藤さんて優しいんだよね。

既に大刀の柄元から離れていた右手が、立ち上がる藤堂さんの腕を助ける。
もう近寄っても大丈夫かな?と、私も反対側の腕を抱えたら、

「おい、お前いい加減にしろよ!どういうつもりなんだい、ひとの頭おもちゃにしやがって。切腹するのに格好がつかねぇじゃねぇかよ。これじゃあもうどうにも・・頭丸めるしか無ぇじゃねぇか!女にモテなくなったらどうすんだよぅ。覚えとけよ」

存外元気(笑)。
それまでの斎藤さんとのシリアスなやり取りはどこへやら、ぐずぐずと文句を言って来るではないか。
女にモテなくなったら・・って、真面目に言ってる様子なのが笑っちゃう。

「はいはい。覚えといてやるから。但し、切腹なんてしてみなさいよー?坊主頭に『バカ』って落書きしてやるんだから」

「!?・・ひっでぇ・・」

藤堂さんがメチャクチャな顔で呻くのと、ぷっ・・と斎藤さんが吹き出すのが同時だった。

が、それに気付いたとたん、

「くそ!放せ!いつまでも病人扱いするな!」

藤堂さんは支えられた両腕を振り払い、倒れこむように納戸に転げ込んだ。

「ちょちょと、大丈・・・」

鼻先でピシャリと板戸を閉められた。
スパン!と物凄い勢いで。

「危なっ!ちょっとー!もっと優しく閉めなさいよー!家壊さないでちょうだいよ~?」

言いながら、斎藤さんと顔を見合わせて苦笑できたのは、藤堂さんの頬が赤らんでいたのが判ったからで。

それはきっと、怒りから来るだけのものではない、とも。



「あんた、もう寝たらどうだ」

昼間はともかく、夜間はまだまだ襲撃される可能性があると主張して、斎藤さんは今夜も徹夜するつもりで居る。

でも彼は夕べから、昼間もろくに寝ては居ない。
いい加減ちゃんと寝せなくちゃ、いくらなんでも身が持たないよね。
なので、

「斎藤さんこそ」

とは言ったものの、私自身も睡眠不足の自覚はあるし、話し相手も無くひとりで起きていられる自信は無かった。

ひと寝入りしてから交代しようかとも思ったけど、そのまま朝まで寝てしまいそうな気もするし。
つーか、絶対寝る(--;

「斎藤さん、先に寝てよ。目が覚めたら交代しよう」

交代制ならそのほうが危なげないじゃん?(^^;

うーん、と思案する様子を見せたのは、彼もまた、ろくに寝てない自分の体力に自信が無かったからだと思う。
それと、目下の彼の任務である、私の身の安全確保の問題と。

「納戸に寝ろと言いたいところだが、平助と一緒に入れるのもな。さりとて平助を出してしまっちゃあ逃げられかねない」

「逃げはしないんじゃない?」

「そのつもりは無くても、俺と一緒に居て、朝まで大人しく横になっているようなタマじゃない。騒ぎ出すに決まってる」

ああ、確かに。
喧嘩になりそう。
・・・一方的にだとは思うけど(斎藤さんは相手にしなそう)。
悪くすりゃ斬りあいとか・・・(--;

「出来るだけ休ませてもおきたいからな。そのほうが傷の治りも早いだろうし」

自分の存在が藤堂さんの病状に悪影響を及ぼすだろうという読みだ。

「判った。じゃあ私、藤堂さんと納戸に寝るよ」

え?と、心配性の顔が曇る。

「大丈夫だよ。今朝みたいなことはもう無いだろうし、藤堂さん、もともとそんな悪い人じゃないもん」

「だが・・。そうは言っても・・・相手は男だぞ!」

って、何の心配してんだよっ(((^^;
そっちの方向かい!(爆)。

「判ってるよ。でもあの傷じゃ悪さできないでしょー?自分じゃまだ起き上がれもしないんだから」

「甘い!男なんてな、男なんてものは・・・!」

って、焦りまくってますけど。
ハナイキ荒いですけど。
額に汗浮いてますけど(^^;

何を自ら白状しようというのでしょうか、この人は(爆)。

・・・という私の視線に気付いたのか(笑)、うろたえ切った斎藤さんの目が泳ぐ(笑)。
きっと昼間なら赤面してるのが判ったかも。

「大丈夫よ。藤堂さん、私のことなんて女のうちに入れてないもん」

「判らんぞ。何しろ相手は男なんだ」

まだ言うか(^^;
自分のことは棚に上げて?(笑)。

心配してくれるのはありがたいけど。

「判ったってば。大丈夫だよ。何かあったらすぐ呼ぶからさー」

そんなこと言ったら、寝せるどころか寝ずの番になっちゃよな(^^;
すいません、この時はそんなこと考えもしませんでした。
いっそそのまま座敷に寝た方が、彼的には安心だったのよね。

マイ箱行灯を携えて納戸の戸を開けようとする私の手を押し留め、

「待て。頼むからやめてくれ。小夜さん、あんたは無防備に過ぎる!」

「大丈夫だって。斎藤さんこそ心配し過ぎだってばー」

とはいえ、こんなに心配させるならやっぱりやめとこうか、とも思ったんだけど。

「うるせぇな!聞こえてるぞ。人を見くびるのもいい加減にしろ!」

思わず声が高くなっていたんだろう、聞きつけた藤堂さんが納戸から怒鳴ってる。
斎藤さんと顔を見合わせ、それからそうっと戸を開けて見た。

「ちょうどいいや。昼間寝すぎて眠れねぇ。お前、ここへ来て話し相手になってくれよ」

って言ってるよ?と、もう一度、斎藤さんと顔を見合わせる。
彼は未だ渋い顔。

「それぐらいしても罰は当たんねぇだろ?人の頭散々オモチャにしやがって」

あら。
まだ怒ってる。

って、当たり前か(^^;

「判った判った」

と納戸になだめ、

「起きてるならいいよね?その間に、斎藤さんの方こそそっちで寝てたらいいよ」

斎藤さんはまだ納得行かなそうな面持ちではあったけど、じゃあね~と手を振りながら納戸に入っていくと、それ以上口出すことも無くそのまま見送った。

ちょっと恨めしそうな目はしてたけどね(^^;

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