もう45年以上前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。

・暇つぶしにネタばらしブログもどうぞ→管理人ざんげ室 

その時、それまで私たちを泳がせていた(?)山崎さんが、

「連れが粗相を致しまして・・・」

腰が低いので相手は油断したのだろう。
私も、ここは謝ってやり過ごすのかな?と不安になった。
余計な喧嘩売っちゃって、まずかったかなぁ・・・。

ふと見ると、先ほどの三人連れが田舎侍どもに行く手を阻まれて縮こまっているではないか。

後から聞けば、私と幸が相手の気を引いているうちに三人が逃げてくれればいい、と山崎さんは思っていたんだって。
でも相手も人数が多かったんで、こっちとそっちと役割分担しちゃったみたい。

それで仕方なく山崎さんが出てきたというわけだ。

「恐れながら、お武家様方に申し上げまする。今宵はゑびす様の祭礼。ここは京でも名の知れた花街。刀を抜くのはいかにも無粋」

「うぬは何ぞ」

その質問を軽く無視する。

「お腹立ちは御尤でございますが、ここは祭りに免じてお怒りをお収め頂くわけには参りますまいか。この者達には後程きつく叱り置きますゆえ」

げ!うそ!そりゃあ急転直下で形勢不利(爆)。
と一瞬ビビッたが、

「そういうお前も無礼ではないか。被り物を取れ!」

言いざま、山崎さんの頬被りに相手の男の手が伸びた。

むしり取られた!と誰もが思ったのに、スカッと空振り。
男はきょとんとしている。

「重ね重ね、ご無礼仕りますなぁ」

軽く前屈みになっている山崎さんは、我々を背にしているので表情は見えていないが、楽しんでいるような声だった。

相手の男の顔が再びサッと赤くなった。
歯ぎしりをして二度三度山崎さんの被った手拭を掴み取ろうとするのだが、絶妙な間合いで右へ左へ、時に後へ、身をかわされてかすりもしない。

「貴様!」

腰の刀へ手が行ったと思った瞬間、男はもんどり打って後にひっくり返った。
素足に履いた藁草履の裏に、湿った土が黒く食い込んでいるのがはっきり見えた。

そこに居た誰もが皆、何が起こったのか判っていなかったと思う。

羽織を脱いでこちらに放りながら、

「幸はん、あちらを頼んます」

地面をごろごろ転げて苦しむ侍をバックに、振り返って小声で言い含める彼の手元には、煙管が逆手に握られていた。

あれでやっつけちゃったのか!
でも、長さはたぶん30センチもない、本当に細くて華奢な煙管なのに。

「良かったら私の刀、使います?」

手にしていた福笹を私に持たせ、幸が鯉口を切りかけると、

「いや、そいつは得手やないんで・・・」

素早く着物の裾をからげ、尻端折りをし、にっこり無駄に可愛く笑って次の相手に対峙した山崎さんのカッコイイこと!

惚れ直し(嬉)。

なーんて喜んでいる間に、残りの田舎侍どもがバラバラと駆け寄ってきて・・・総がかりじゃん!

刀を持たない町人相手と思ってか、始めは素手で掴みかかって来たヤツラを、気持ちの良い程かわしにかわしていたところまでは良かった。

痺れを切らした相手が刀を抜いたのを見てパニック!
拾い上げた彼の羽織を抱きしめてしまう。
大丈夫なのか山崎さん!

「いいから。今のうちにこっちおいで」

・・・幸ってば、冷静。
手を引かれ、呆然と騒ぎを見守っていた先ほどの三人連れと合流する。

山崎さんが気を引いてくれたおかげで、彼らを拘束していた侍達は立ち回りに参加しに行っちゃったのだ。

人質を確保するという意識が無いところが、ヤクザ者ではない証拠。
やっぱりどこかの家中の侍なのだ、と幸が言ってた。
長期駐屯のストレス溜めてんだね。

「それだけに揉め事起こしちゃまずいんだよホントはね。こっちの正体がばれるのもまずい。大事になる」

って言いながら、アンタは何をしてんのか?

夕闇の迫る花街の、居並ぶお茶屋の玄関先をちょこちょこ走り回ってたと思ったら、借りま~すとか言いながら、玄関にかけてあった暖簾を外しにかかっているではないか。
暖簾から軸木を抜いている。

「ねー、なにやってんの?」

「だってそろそろ決着着けないと。いくら山崎さんが身軽だからって、逃げてるだけじゃ終わらないもん。人が集まってきちゃうし」

確かに往来の人の流れを堰き止めているだけでも人は集まる。
この上、野次馬も集まり始めてはやっかいなことになる。

でも、それと暖簾探しと何の関係が・・・?

「この暖簾の軸、竹じゃないし、ちょっと細いけど長さもまぁまぁ・・・」

ヒュン!っと竹刀のように一振りしてニヤリと笑う。

「山崎さん、棒の達人だって知ってた?」

「棒?」

聞き返す間もなく、

「師匠!」

名前を呼ぶのは憚られた。
身の丈ほどの長さの棒が宙を飛んで、音もたてずに山崎さんの手に納まる。

「こら有り難い。百人力や」

ビン!と、渡された物の強度を確かめるように、鋭く短く素振りをしたのが、素人目にも堂に入ってる!
これからどんな展開になるのか、なんだかわくわく!

が、彼を取り囲んだ侍達も警戒して間合いを取り、膠着状態に入ってしまう。



「あなたは行かなくていいんですか?」

喧嘩に気が行って、ろくに挨拶もしていなかった先程の三人連れが、すぐ後に来ていた。
刀を帯びている幸が喧嘩の輪に入って行かないのを不思議に思ったようだった。

だが、その思いがけない東言葉と余裕の声音に少々驚いて、二人揃って同時に振り返る。

左右から綺麗どころに抱きつかれ、色白の超絶美形(!)なお兄さんが不敵な笑みを浮かべて見上げて(背はウチ等より低いのよ)いるではないか。


「私ですか?私はそれじゃあ・・・『最終兵器』ってことでv」

肩をすくめながら、こんな時でもボケる幸(--;。

「ああ、あなた女ですか」

「ええまぁ」

声で気が付いたのだろう。
幸が覆面の口元を開けて見せると、それまでお兄さんの肩につかまって小さくなっていた両側のお姐さん方が、

「イヤほんまや。百菊さん姉さんの言う通りやったわ。おなごはんや」

「な?ウチの言うた通りや。べっぴんさんどっしゃろ?」

オイ!ちょっと待て。顔を隠していた幸が『べっぴんさん』で、顔隠してない私にはノーコメントかよ!
っていうか、さっき暴漢に取り囲まれていた時、そんな呑気な話してたのかよ!

と、突っ込むのも忘れて、私は目の前のハンサムさんに目もハートも釘付けだったりっ!(笑)。

細面、白皙、鼻が高くて、口も大き過ぎず小さ過ぎず、髪は肩までの総髪をオールバックにしていて、額も綺麗。
年は・・・20代後半かなぁ?30前ではありそうだ。
目は大きく二重で、まつ毛がくりんとカールしてんの!日本人には見えなひっ!
ってかこんな綺麗な人、女だって見たこと無いよ!

顔の作りが整っているという点に於いてはウチの土方さんもそうなんだけど・・・こっちの方が日本人離れしてるって言うか・・・キレイvvv(結局それかよ・爆)。

「こっちゃの背ェの大きなお嬢はんはジュウザブロウはんに見とれたはりますえ。穴の開くほど見てはりますわ」

「ほんまやわ。ジュウはんたら罪作りなお人やこと」

ジュウさん?ジュウザブロウさんっていう名前?どんな字書くの?

くすくすと笑われてるのも耳に入ってなかった。
彼の不思議な眼の色に吸い込まれそうだったんだもん。



現実に帰ったのは、それまで私を捕らえていた薄色の瞳が視線を外し、私達の背後に焦点を移したからだった。

乱闘が始まったのだ。

乱闘というより、山崎さんが一方的に相手をやっつけちゃってただけなんだけどね。

棒術っていうものを初めて見たけど、これほど・・・かっこいい(←そういう基準しか知らない)ものだとは!
ていうかね、山崎さんって抜群に動きがいいんだわ。
すばしっこいの。
自分の身長程の棒一本、振り回すわ突くわ払うわ打ちのめすわ・・・。

なんかねー、中国拳法とか見てるみたいよ(嬉)。
諸肌脱いで・・・筒袖の肌着姿になっていたのはたぶん、棒を振り回すのに袖が邪魔になるから。

それにしても山崎さんの運動神経ったらスゴイ!強い!
幸と二人、手を取り合ってきゃーきゃー(≧▽≦)言ってしまいましたぁ!

相手の一人が打ち込んでくるのをスッとかわしざま、後から肩に一撃で決めた時には、わーわーパチパチ、みんなで拍手してたし(爆)。
なので、ジュウさんの雇い人らしき浪人体のガタイの良い男の人が、主人の落し物の杖をゑびす神社の境内から探し出して来たとか言って、一行に合流した時も、

「どうもー」

程度の挨拶しかしてなかった。

ちょうど相手の顔をちゃんと見ようとした時、山崎さんに伸された男がひとり、足元に転がってきたのだ。
ひゃあ!と色っぽい悲鳴が上がる中、うめき声を上げて男が立ち上がろうとした。
すると、

「持って帰ってきたばっかりのところ、すいません。それちょっと貸してもらえませんか?」

ジュウさんの用心棒かと思われる、無精ヒゲを伸ばしたオジサンに幸が手を出した。
足元の男から目を離さない。

彼女にしてはやや礼を失した、且つ強引な挙動だったのでおやっと思ったが、遠慮している暇が無かったのだと思われ。

強面の用心棒のオジサンはご主人様に目で確認してから彼女に杖を手渡した。
借りた杖をヒュンヒュン鳴らし、

「うん。これなら折れなそう」

呑気そうなテンションでそう言ったと思ったらイキナリ、立ち上がりかけた男の首の後にバコッ!とばかり打ち込んだのだ。

・・・ああびっくりした。
幸ちゃんたらお転婆(汗)。

男はそのまま再び地面に伸びた(爆)。

白いT字の持ち手が付いた黒い柄のステッキは素人目にもとっても高級そうだったので(つーか国産じゃ無さそう!)、急に不安になったのかもしれない。
傍らのお茶屋の軒行灯にかざして傷が付いてないか確認してから、自分の着物の袖でキュキュッと拭いている幸に、

「そんなの借りなくたって自分の刀で峰打ちにすりゃ良かったじゃん」

と言ったら、

「そんなことして骨折でもしたらどうすんの」

ねぇ、と強面の用心棒のオジサンにステッキを返却しながら、にっこり微笑みあったのがなんだか可笑しかった。

「やま・・・ゴホゴホ。彼だってたぶん、相手を傷つけない程度に手加減してるはずだよ。どこの家中か判らない相手だ。大事になるのは避けたいはずだもの」

↑周りに気を使って名前を言わないようにするのはタイヘンです。

そうしているうちにも乱闘はクライマックス!
山崎さん、二人に挟まれて睨み合ってるよ!
手に汗握るとはこのことだな。

正面の相手は上段の構え(私だってそれくらいは知ってるのさ)。
斜め後の相手はやや前屈みで刀を突き出している感じ。

「ははー。前のオッサンは強いが後のはそれほどやないな」

用心棒さんが解説。

「棒というのは刀より長いからな。正面からまともに行ったのではなかなか近寄れん。突いて来たら打ち落として、返す刀で斬るつもりや」

微妙に関西訛り。
関西のどこ、とは見当つかないけど。

「じゃあとりあえず後のへっぴり腰からやっつけちゃえば?」

素人の提案に幸が答える。

「わざわざ前の敵に斬り込む隙を与えてどうする」

・・・なるほど(^^;

どちらも同じ間合いで微動だにしない。
ううう、息が詰まるぅ。

・・・ってか、

「あのさー、見てないで誰か助けに行けば?」

あまりにスリリングで面白い試合(?)だったので、観戦するのに夢中になって、そういう基本的な現状把握を忘れてるわけだな(汗)。

私の指摘に、はっと我に帰って目と目を見交わす二本差二人(--;
んもー!なんとかしなさいよ!

私も見ているだけじゃ芸が無い。
いつもは下駄履きなんだけど、この日はおしゃれ仕様で畳表の草履だった。
だから踵の重さで遠心力をつけやすい分、コントロールは利いたと思う。
鼻緒の前つぼ近くを持ち、サイドスローで1投目。
慌てているから福笹も山崎さんの羽織も抱えたまま。

さすがに逸れた。
山崎さんの正面の相手の目の前をかすめて行った。

2投目。
持ち物を幸に押し付けて、験担ぎに福笹だけは片手に持ったまま、今度は気合を入れた。
バッチリ!即頭部直撃vvv

たまらず注意が逸れた相手の隙をついて、しかも自分はさほど動かず、山崎さんがみぞおちに一撃を食らわした。
だがその隙に後の敵が突っ込む。

見ている我々が最悪の事態を思い描いて思わず阿鼻叫喚したその時、魔法でもかけられたように相手の男が宙を飛んだ。
海老のように体を曲げたまま、弧を描くように二間程も後に吹っ飛んで行き、最後は地面の上に大の字に伸びたのである。

しばらくの間、皆ぽかーんと口を開けて見ていたっけ(笑)。

決めポーズから察するに、山崎さんが脇の下から真後ろに繰り出した棒の一撃をまともに食らった模様。
倒れている男達の真ん中で、おもむろに頬かむりの手拭を外してパンパンと衣服の埃を払い、着物を着なおして、地面に転がった私の草履を拾う仕草は、もう既にいつもの山崎さんだ。
戦闘モードもカッコ良かったけど、でもなんだか普段の彼の仕草がたまらなく嬉しくて、

「やったぁ!」

足袋のまま駆け出した。
最後は三段飛びで抱きついちゃって、手にした福笹がガサガサ鳴った。

「おおっと・・!元気ええなァ。そないに勇んで飛び込んで来やはったら・・・よう立っとられんわ」

笑いながら抱きとめて、わざとよろけて見せたりして。

「山崎さん、スゴーイ!強い!かっこ良かったー!やっぱり大好き!」

「そうかー。そら嬉しいわ。そう言う小夜はんはほんまもんの福娘やったな。福娘に助けられましたわ」

息も乱れていない様子なのがやっぱりすごい。

彼は声を立てて笑って、それからひょいと私を抱え上げた。
子供にするみたいに片腕で抱き上げて、その場でクルッと回って見せたのだ。

言っとくけど彼は私より背が低い。
力強さに改めて驚く。

揃えて置いた草履の上にふわっと私を下ろしてから、側にきていた幸に、

「いやー、助かりました。幸はんにコイツを放ってもらなんだら、ほんまにどないしよかー思うてまして」

「お疲れ様です。助太刀もせずにごめんなさい。でもあんな痛快な立ち回り見たの初めてです。すごかった。眼福でした」

幸もすっごい嬉しそう。
山崎さんは差し出された羽織を受け取って、

「いやいや、そりゃ心得違いや。あんなぁ幸はん、助太刀なんぞ考えんでええんですよ。私がやられそうな時は小夜はん連れて逃げてくれはったらええんです。危ないことはせんかてええ。あんた等に怪我さすんが私は一番怖い」

羽織に袖を通し紐を結んで、

「な。あんた等の無事が何よりやさかい。助太刀なんぞせんかてええねん。団子でも喰いながら『また山崎のアホがいちびっとるわー』いうて見とってくれはったらええねん」

にこにこしながら、私と幸の頬を変わりばんこにぺたぺた撫でた。

「な?」

小首を傾げた。
くしゃっと、頬骨の辺りまでもシワくちゃにしたいつもの笑顔。

・・・なんだか涙出そう。
たぶん幸も。



「山崎殿・・・と申されるのか。おかげさまで助かりました」

聞かれていた・・・!?

千本格子の連なる中に、女性と見紛う白皙が浮かび上がった。
通りの両脇に出揃った軒行灯の灯りのオレンジ色が、彼の醸す雰囲気を幻想的に見せていて、そこだけ現実から切り離されたように絵画的。

女の人にはだらしないくせに、いくら綺麗でも男には何も感じないのか、山崎さんは急にそそくさと再び手拭で頬かむりをして、

「まだ居てはりましたんか。私等は通りすがりのモンやさかい喧嘩が終いになれば後は無いが、そちらにはここのお茶屋の姐さん方も居てはります。ゴロツキどもに顔を覚えられては事ですよって、早う退んでしまわれた方がええ」

相手の目を見ない。
手拭を目深に、うつむき加減で話しながら手にした暖簾の軸木を後に控えた芸妓さんに手渡して、

「すんまへんけど、これは姐さん方からお返ししておいてくれまへんやろか。大事な暖簾やのに汚してしもうて。堪忍や。よう言うておいてください。頼んます」

そう言う間にもそわそわと落ち着かない。
急いでいる。
監察の習性という他に何か訳有りな感じがした。

「さ、早ようずらからんと。芝居がハネたら仏さんはじきに生き返りますよって・・・」

確かに。
倒れている男達は失神しているだけで、またすぐゾンビになって襲ってくる(違)。

ヒゲ面の用心棒さんが事後処理のために番屋へ走った。
芸妓さんの一人が暖簾を返しに近所のお茶屋へ走った。
残されたジュウザブロウさんは杖を突き、もうひとりの芸妓さんに介添えされている。

我々も撤収だ。
もう陽もとっぷりと暮れてしまったので、遠回りして帰る案は却下して今来た道を戻ろうとした時、

「もし」

と、声がかかった。

「よろしければ一献いかがですかな?今宵の礼もさることながら、久しぶりの邂逅を祝おうではありませんか」

前を行く山崎さんの足が止まった。
私もおやっと思った。

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