もう45年以上前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。

・暇つぶしにネタばらしブログもどうぞ→管理人ざんげ室 

手拭の端を口にくわえて、浴衣の裾は左右に分けて持ち、大股でガツガツと下駄を鳴らしながら水溜りを跳び越えて行く。
いくらもしないうちに空は晴れ渡り、風も爽快。

この辺りは火事の後の新築の家が多い。
空き地もまだまだ多いんだけどね。
風に真新しい木の匂いが混じる。

雨が上がると、またぞろぞろと人通りが戻ってくるのも面白い。


人間ってすごいなぁと思う。
去年の今頃は焼け野原だった場所に、また新しく家が建って、人が戻って、街が出来上がっている。
普段と変わらぬ日常が戻って来ている。

そしていつの間にか気分も治ってしまうvv


前方には堀川端のまばらな松並木が見えていた。
その角を曲がれば西本願寺の鐘楼が見えるはずで、あとはそれをめがけて帰ればいいのだった。

調子に乗ってわざと大きな水溜りを連続で三段飛びの如く跳び越していると、水売りの屋台の市松模様が目に入った。

あー、どうせなら斎藤さんに小銭を借りて来るんだった。

・・・と、そんなわけで意識がどっか行ってた。

相当なスピードで走っていたので、角の向こうから人が出て来たのをかわしきれなかった。

傍らの店の暖簾が視界を遮ったためかもしれないし、身長差があって視界に捉えきれなかったからかもしれない。

多少腕がぶつかって、相手がよろめいたのが判ったので、

「きゃー。ごめんなさいっ!」

と、言いざま振り返った。
止まろうとして足を踏ん張った。
女の人が体を縮込めて、暴走者(=私)をやり過ごそうとしているのが見えた。

だが、

「だい・・」

大丈夫ですか?と問う間も無く、踏ん張った足の下でバキッ!と妙な音がして、

「うぎっ!」

あっという間にバランスを崩し、ものの見事に背中からひっくり返った。
盛大に尻餅をついた。しかも水溜りの中へ。

・・・水しぶきまで上がったよ・・。
とほほ。
割れた日和下駄が宙を飛んで行くのも見えたっけ(--;。

でもそれよりびっくりしたのは、ぶつかった相手の女の人が、

「きゃーきゃーきゃー」

私と同じように悲鳴を上げながら水溜りの中の私に覆いかぶさって来そうになったことだった。
え?なに?と一瞬パニクってたら、

「何してるの!早く前、隠しなさい!」

うわ、ほんとだ!大汗。
こんな往来で尻からげたまんま大股広げて尻餅ついちゃあシャレにならん!!!

あわてて浴衣の前を合わせたら、

「あー、びっくりした」

私が言ったんじゃないよ。そのお姉さんが言ったのだ。
眉も有るし歯も白いままだからきっとまだお姉さんというぐらいだろう。

大きくひとつ、ため息をついてから、

「あらやだ。あなたいつまでそんな格好してるの?早く立って。ホラ」

パキっとした関東弁が耳に新鮮だった。
東言葉を話す女の人なんてここ(幕末)へ来て初めてだったのだ。

しかしこんなシチュエーションで即座に相手の素性を訊ねるほど、さすがの私にもそんな気力は残ってなかったっけ。

お尻が冷たいよー。

凹みまくりで言葉を失っている私に手を貸してくれながら、くくくと笑い出す。

「笑っちゃったわ。ごめんなさい。・・・大丈夫?」

立ち上がると腰から下は泥水に浸かって目も当てられない有様。
下駄は片足しか残っていないし、手拭は水溜りの中。
袂からもぼたぼたと泥水が滴っている。

ひっくり返った勢いで髷が落ち、塗りの櫛も平打の簪もぬかるみに飛んでしまったのを手早く拾ってくれて、雨上がりの強烈な陽射しに目を細めながら、

「あらすごい。体格のいいお姐さんね」

見上げる笑顔が明るい。

紺地に秋草模様の浴衣を着て、スッピンの頬が陽射しをうつしてつやつやしている。
髪油は使っていないみたいで、前髪の生え際がさっぱりして清潔そう。
風呂敷包みを片手に抱えていた。

「どこか痛めなかった?大丈夫?」

と、背中側まで覗き込んで、またくすくすと笑った。

「このままじゃ歩けないわね。うちに来ない?ここから直ぐなの。着替えるといいわ」

浴衣の後姿がうっとりするほど素敵な人だった。
白っぽい博多献上を小さく結んで、衣紋の抜き具合と結髪の分量とのバランスが絶妙。

なのに私と来たら泥水にお尻から突っ込んで・・・湯文字までぐしょぐしょだし・・・(T-T)

そんなみっともない格好なのに、道々、お姉さんはずっと泥に汚れた私のお尻を隠すように寄り添って歩いてくれた。
手にした風呂敷包みは頼まれ物なので汚せないのだと、申し訳無さそうに言うのが、更に申し訳なくて。




「すいませ~ん。おじゃましま~す」

連子格子のはまった戸口を入ると、そのまま通り庭。
あまり長くはなくて、突き当りにも戸があるのが見える。

右側に小さいながら部屋が三つばかり並んでいる。
しかも二階家だ。
表通りに面した三畳ほどの部屋に、裁縫道具と縫いかけの着物が広げてあったのだが、その奥に箱階段が見えている。

長屋にしては上等な方なのだと思う。
しかも建てたばかりの新しいものだった。

お姉さんは、手前の部屋の上がり端に手にしていた包みをポイと置き、

「こっちへいらっしゃい。井戸は裏なの」

裏の戸口を開けると外に井戸が見えた。周りの家々と共同のようだった。
付いて行こうとすると、

「ああ、そうか。着替えなくちゃね。じゃあここで待ってて」

きびすを返す姿がすっきりと美しい。
あんなに大きく衣紋を抜いているのに、ぜんぜんいやらしく見えない。
どうやったらあんな風にかっこ良く着れるんだろう。
私も秋草柄の浴衣が欲しいなぁ。

台所兼通り庭兼裏口に突っ立っていると、彼女はたらいに水を汲んで来てくれ、

「ごめんなさいね。ウチは風呂が無くってねぇ」

「いいんです。すいません。帰ってから入るから大丈夫です。ありがとう」

と答える間にも替えの浴衣を持ってきてくれる。

「私の着丈じゃどうかしらね?対丈で着れるといいんだけど」

戸障子を閉め、手拭を借りて体を拭き、借りた浴衣を着てみる。
紺地に菖蒲柄。着古して柔らかになっている。
丈は腰紐の調節でなんとかなった。
帯は幸い、汚れはしたが目立つほどでもなかったのでそのまま自分のをする。

「丈が高いから柄行の大きいのが似合うこと」

浴衣をまとったのを見計らって、障子を開け上がり框に座って団扇で扇いでくれながらにこにこと見ている。

着替える間、戸を閉め切ってしまったので暑かった。
それを気遣ってくれていたのだ。
照れる。

「あのう・・・」

こんなに世話になってなんとお礼を言っていいのやら。
まず名乗らなきゃ、と思ったとき、

「私の名はゆう。夕暮れの夕よ」

「私は小夜と言います。小さい夜と書きます」

名乗りあってからふたりで噴出した。

「似たような名前ね」

ほんとだ。
でもちょっと嬉しかったり♪

「おゆうさんって呼んでいいですか?」

「ええどうぞ」

風を通すため、戸を開けながら、

「上方訛りじゃないんですね」

「うっかり出ちゃったわ。最初に小夜ちゃんが『ごめんなさい』って言ったから。そっちが上方の言葉ならこっちもそうなんだけど」

くくくと笑う。
“小夜ちゃん”だって・・・(嬉!)

「こっち(上方)の人じゃないんですか?」

すると急に、

「いいえぇ。こう見えてもウチは京生まれの京育ちどすえ」

京言葉でそう言い、また意味深に笑う。
笑った時の目がかわいい。

どういう訳なのか見当がつかずにいると、

「母親が江戸の人だったのよ」

火鉢に火を熾そうと、盛んに火箸で灰を突きながら、

「父親もそうみたいよ。もっとも父は私が生まれる前に死んじまったんだけどね」

居間にしている四畳半の、おゆうさんの背後に置かれたタンスの上に位牌は二つ。
私の目線に気付いたのか、そちらに体を向けながら、

「母も一昨年死んじまったわ。もともと病気ばかりしていた人だから。江戸に帰りたがっていたんだけど駄目だった・・・」

萩の葉の柄の立つ秋草模様の浴衣の背が、寂しそうに見えた。
でも、それからまた向き直って、

「父はお侍だったんですって。なんでも、所司代さんの交代があってそれにくっついてこっちに来たらしいの。その前は江戸の藩邸に居て。母は日本橋の商家の娘だっていうから、いずれ恋仲になって、家出同然に追っかけてきたみたい。無茶よねぇ」

案外サバサバした口調だった。
聞いてる方も気が楽。

「キツイ人でねぇ、『アンタはアタシの子、江戸っ子なんだから』って言って、私がこっちの言葉で喋るのが許せなかったみたい。だから私、母のことをオカアチャンって呼んだことは無いの。だってオッカサンって呼ばないと頬ベタをこうやって・・・」

自分で口元をつまんで横に引っ張りながら、

「イヤって言うほどつねられたのよ」

顔をしかめておどけて見せる。

「でも、それだけお江戸に帰りたかったってことかもしれないわね」

そう言って、ひとつ溜息をついた。それから、

「あらごめんなさい。湿っぽくなっちゃったわ」

私が、自分の脱いだものを畳もうとしているのに気付き、

「洗っといてあげるからそのまま置いて行きなさいよ。また取りに来ればいいわ。家は遠いの?」

「そんな、とんでもない。こんなにお世話になっちゃったのに。持って帰ります。近くですから」

たぶん、ここから歩いて10分ぐらいだと思うんだな。
それより、初対面の人にこれ以上世話になるのは恐縮なのだが、

「すいません、下駄貸してもらえませんか?」






「どこ行ってたのよ、もお!」

家に帰ったら幸が私を探しに出るところだった(汗)。
ていうかもう陽が暮れかけているし(^^;

「ごめーん。でもアンタこそ黙って居なくなったくせに」

と突っ込んだら、形ばかりの怒ったフリはすぐにグズグズ(笑)。

「私はさー、ホラ、いろいろあったから。斎藤先生に聞かなかった?」

頭を掻く。

「そうそう!その斎藤センセーが食わせもんっ!」

今度はこっちがふくれっ面をしてみせる番だ。
剣幕に、え?と一瞬言葉を飲み込んだ幸がようやく、

「あれ?あんた着てるもん違わない?」

「そーなの。私もいろいろあったのよん♪」

ニンマリしてみせ、縁側から家に上がる。
この家の主人も監察ご一同様も既に姿は無い。

昼寝から覚めたフクチョーが長々と伸びをしてから縁側を降り、履いてきた借り物の下駄の上に丸くなった。

「あれぇ?下駄も違うー。小さー」

「そうそう♪」

「あ、髷の形も違うー!」

「そうそう♪」

「やたら機嫌がいいー」

「そうそう♪」

「・・・怖えー」

「なんだとぉ!」

掴みかかってもひょいと体をかわす我が相棒は近頃益々すばしっこい。
夕飯の仕度もほぼ完了していて・・・。



幸って実は何でもできる人なんだよね。
料理だって本当は私より余程上手いし。
裁縫だって何だって。

おまけに剣術も腕が上がったという話だし、監察方の手伝いだってこなしてる。
雑用係と謙遜はしているけど、それだって誰でもできる仕事じゃない。
なにより信用されている証拠じゃないか。

近頃は私に教えてくれない話も多いし。
その口の堅さが信用される所以なのだろうし、私が無理矢理喋らせたところで、不快を買うだけで何の特にもなりはしないということは判っている。

でも、なんだか彼女がどんどん遠ざかって行ってしまうようで、私だけ取り残され行くような気がして、なんだか不安だったのも確かなんだ。

でも、もう大丈夫な気がする。



あれからおゆうさんにはキレイに髷を結いなおしてもらって、蕨餅をご馳走になって、かなり長居をした。

縫い物の手間賃で生計を立てて一人暮らしをしているにしては立派な長屋に住んでいるのが謎だけど、そこはまた次に行った時にでも聞いてみよう。
泥んこの下駄も浴衣も結局置いてきちゃったし、明日にでもまた直ぐ(へへへ)。

だって、またおいでって言われたんだもーん♪
歩いて10分なら留守番置かなくったって行けるもーん♪


幸の作った茄子と冬瓜の煮びたし(しかもあんかけ♪激旨!)と夏野菜のスペイン風オムレツでご飯をお替りしながらニマニマ笑ってしまう。

気味悪がられてしつこくわけを訊かれたけれど・・・とりあえずナイショにして、幸の話を先に聞く。



騒動の舞台は確かに大坂で、去年の池田屋事件同様、討幕派は大坂の街に火をかける計画を立てていたんだそうな。

何でかって言うと、長州を征伐しに将軍様が来るから。
攘夷を決行すると言いながら裏では開国の準備を進めている幕府の権威失墜のため。大坂の港(神戸港)を開港させないため。

細かいところまでは頭の上を通り過ぎて行ったけど、まあそんなような理由のためだ(アバウトでスイマセン)。

それで大坂支店(違)で犯人グループを捕まえて取り調べたところ、将軍暗殺っていうとんでもない計画があるという供述を取ったってわけだ。

上洛途中に襲うという計画は、街道筋のとある藩の尊攘派が一枚噛んでいるというので、騒動の舞台は勢い大坂から京都へ、さらに大津などの都周辺の宿場町まで拡大していたのだった。

新選組としても以前からこういう不測の事態は予想してたみたい。
それなりに捜査網を張り巡らしていて、斎藤さんも大津からの帰りだったんだって。

その足で木屋町筋の茶屋が連絡場所に使われていることを突き止め、屯所との連絡を取りにあの場所に現れたというのだ。
幸を連絡係に使い、私を置いておいたことについてはやはり、

「近頃見廻組と捜査が被ることがあってさ、怪しいと思ってもすぐには踏み込めないわけさ。あの時は斎藤先生ひとりだったし。それにあの辺りは守護職の手勢の警備地に決まったばかりだしね。そんなわけで斎藤先生もすぐには危ない状況にはならないと踏んで、アンタのお守りを頼まれてくれたんだ」

きゅうりと茗荷の塩もみをシャリシャリ音を立てて食べながら、彼女はくすっと思い出し笑いをしたのだが、その理由については、

「斎藤先生も息抜きしたかったみたいだしね」

自分が気を利かせたということらしい。
後から定斎屋さんが追いかけてきたことについては、

「屯所にたどり着く前に見廻組と行きあって。まあそこまでは良かったんだけど、その後に新選組の警邏隊とも行き会ってさ。それがちょうど斎藤先生の隊と柔術教授の松原先生の隊だった。斎藤先生の三番隊は原田先生が率いていて・・・。見るからに乱暴そうでしょ?」

「隊長さんがね」

と即答したら大ウケ。食べかけた味噌汁、噴きそうになってる。

「まあね。向かってる方向が同じだったし、明らかに警備区域越境してるしさぁ。こりゃヤバイと思って一番近くにいた連絡係捕まえて伝言頼んだんだよ。そこにあの雨さ」

ちょっと話すのを止めて、ご飯を掻きこんだ。

暗くなってきたので食事の手を止めて、火鉢から付け木で行灯に火を移す。
でも早いトコ食べ終わって蚊帳吊らなきゃ。灯りに虫が寄ってくる。

「でも、あの雨ならきっとみんな足止め食うなぁと思って正直安心したけどね」

「でもさぁ、斎藤さんて監察方じゃないんでしょ?なんでそんなことやってるの?」

「監察の皆さん、忙しいからねぇ。人手不足なんじゃない?だからって入って日の浅い隊士を他国に単独で出張させるわけにはいかないし、他に幹部で使えるようなのって・・・」

「そうかなぁ。どうして他の人じゃダメなの?」

私は傍目からしか新選組というものを見ていないので、そこら辺の機微がよく判らない。

「こういう仕事ってまず真っ正直な人間はダメなんだよ。周りを騙す仕事だから。独りで行動するから的確な状況判断ができないといけない。判断力が必要だし、気が利かないといけない。かといって行動力が在りすぎるのも良くない」

「どしてぇ?」

「勝手な行動は許されない。見聞して報告するのが仕事なんだ。自分だけの勝手な判断でさっさか事を運ぶタイプは向きじゃない。上の方針に沿った判断じゃないといけない」

「それって誰のこと?」

あまり具体的に例示されると対象者が居るような気がするじゃん?
突っ込まれて、彼女は一瞬固まった。
が、程無く笑い出し、

「強いて言えば・・・アンタみたいな目立つタイプは無理」

「なにそれー」

「アンタは見た目もやることも目立つからねー」

ううう。
いいじゃん別に。
私は監察方じゃないんだからさー。

でも、そういうことか。
斎藤さんはそういう資質を持ち合わせているということなのか。
ってことは幸もそう思われてるってことか。

と思ってたら、

「ま、アンタは目立つのが仕事だからね」

食べ終えたお茶碗を片付け始めた。

この時はただ、からかわれただけだと思っていたのだが。
その言葉の本当の意味を知るのはもっと後。






「幸にも紹介してあげる。素敵な人だよ~」

「小夜って意外と女の人好きだよね」

「ナニ誤解を招くようなこと言ってんのよー。男だって女だって素敵な人は素敵でしょう?私はそういう人が好きなだけ」

「はいはい」

おゆうさんとの経緯を話しながら蚊帳を吊り、寝床を延べているところに来客があった。
無言で木戸を潜って来る。
この家の主人だ。

一瞬、泊まるのかと思って驚いた(幸が泊まれなくなるじゃん・怒)のだが、続いて山崎さんと斎藤さんが現れたので、仕事の話と判る。

それにしてもこんな時間に(--;

お風呂の火加減を見に庭に下りていた幸が、火吹き竹を持ったまま最敬礼しているのが可笑しい。
普段よりかしこまっているのは上司が揃っているためか(笑)。
一人一人にはそんなことはないんだけどね。

私はと言えば、慌てて延べた布団を再び畳むところ。

庭で幸が斎藤さんに捕まって、ここに泊まるつもりだったのかと咎められているのが聞こえている。
彼は詳しい事情を知らないのだ。
山崎さんはどうやら知らぬフリ(笑)。

寝床を片付けている背中に、

「構わん。すぐ済む」

そう言ったってまさか延べた布団の上に座れとは言えないじゃないか。

するとどうだ、六畳の茶の間の長火鉢に茶飲み話よろしく男三人が座り込んだではないか。

面食らいながらも茶でも淹れなくてはと思ったのに、鉄瓶に手を伸ばそうとする私を不審げにジロジロ睨みつけて、

「あっちへ行ってろ」

邪魔にされた。
しかも、

「外へは行くなよ」

じゃあどこに居りゃいいんだよ。

火鉢を挟んで向こう側の山崎さんにふくれっつらをして見せ、縁側に回って茶の間の障子を締めようとしたその隙間から、ひょうたんの絵の団扇がするすると出て来る。

あれ?と思って団扇を受け取りながら中を覗くと、山崎さんの人懐こい笑顔が見えた。

そうやっていつも笑顔でなだめてくれる山崎さん、優しい(しみじみ)。


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