もう50年ほど前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。



頭の中で何故?どうして?とパニックになって居ても傍からは泣いているだけにしか見えないわけで。

ひーん!と泣き声のトーンが上がったのを、幸は少々もてあまし気味に、

「大丈夫ですよ。火傷という程ではないようだし」

とりあえず斎藤さんには心配かけたくない、という思いは彼女も私も同じなんだけど。
無駄に感情移入している人には、冷静な返答が逆にカチンと来るということが・・・。

「やり過ぎには違いなかろう。お前、友がこんな仕打ちに遭ったというのに腹が立たんのか」

「落ち着いてください。仕打ちなんて大袈裟ですよ。小夜は叱られただけで・・」

「こんな叱り方があるか!お前いつからこの俺にそんな口ごたえするようになった!」

ああマズイよ。
こっちまで喧嘩になってしまう。
早く泣き止まないと・・・。

「申しわけありません。お気に障ったのなら謝ります。ですが・・・」

真面目な幸がへりくだりながら宥めにかかった(←逆効果)時、納戸の戸が開く音がして、冷やかし半分に顔を出した奴が・・・。

「なんだどうした。小夜ちゃん、泣いてんのか?誰に泣かされたんだ?土方の野郎にか」

ああ・・・、面倒なのがもうひとり増えた。

斎藤さんがここぞとばかりに中っ腹をぶつける。

「貴様今頃ノコノコ出てきやがって。誰のためにこうなったと思ってるんだ!この人は貴様のために土方さんに食って掛かって・・・!」

違う!
そんなんじゃない。
私は自分自身の中にあったモヤモヤを解消したくて・・・。

「なんだとコノヤロー!てめーが泡喰って戸を閉めたから大人しくしててやったんだろ?あのヤローの手前、表に出ちゃいけねぇと思って我慢してたんだっ!・・」

「もうやめて!もういい!みんな違う!違うの!」

ようやく喋れた!

が、ようやく辺りが静かになると同時に、皆の目線に晒される。
皆、私の言い分を待っている。
何がどう「違う」のか。

・・・。

判らない。

何がどう違うのか、自分でも判らなくて。

胸の中のモヤモヤがどんどん重く大きくなっていくばかりで・・・。

「ごめん、大丈夫だから。火傷もしてないから。お願い、放っといて」

混乱した頭の中を持て余しながらも、涙が流れる原因を探し続けた。

悔しいのか悲しいのか、不安なのか情けないのか、頭の中も胸の中ももう何がなんだか判らなかった。




そんな空気の中に皆を放りっぱなしにして、長火鉢の縁に突っ伏したまま、涙と鼻水まみれになりながら泣き通し、だいぶ時間が経ったと思った頃(実際にはそれ程でもなかった)表から誰かが走りこんで来た。

「どないや?どないしはりました。あの傷の塩梅やったらまさか今更こじらす事はないやろと・・・」

と、上がりこんで来たのは山崎さん。
私の泣きっ面を見るなり、うっ!と息を詰め、それから座敷に目をやって、その場ですぐに藤堂さんの状態を把握したのだろう、今度はあれ?っと困惑したような顔つきになり、もう一度私の方に向き直った。

うぇぇん・・と、泣きが収まらぬまま手拭いでぐしゃぐしゃと顔を拭って居る私の様子を寸の間見て、腑に落ちるところがあったのだろう、

「なんや、そうでっか~。そういうことでおましたか。判りました。・・・ああ驚いた」

幾分へなへなと力無く座り込む。

「どうしました?」

台所から幸が顔を出した。
割り下の煮える良い匂いがしてる。

「いや・・・」

山崎さんは額に浮いた汗を手拭いで拭いながら、溜息をついた。

「急いでこちらへ行けぇ言われまして。訳を訊く間も無くむちゃむちゃ急かはりまっさかい、こらえらいこっちゃ~思いまして・・・」

まだ息が上がっている。

「ああ、副長ですね?」

幸が笑った。

「あの人らしいや。大丈夫ですって言っといて下さい。小夜は・・・少なくとも見た目は大丈夫ですからって」

最後の一言が嫌味っぽいのは、幸もやっぱりあの人を全面的に肯定してる訳じゃないってことか。

彼女の非難めいた言い様に気付いたか、

「何ぞ・・・ありましたんか?」

山崎さんが私の方を覗き込んで来る。

だが、手拭いで涙を拭き、洟をかんでも、息がヒクついて上手く話せない。

代わりに答える幸の声は明るかった。
ぐずぐず泣き続けている私のことなど、既に気にもしていない。
山崎さんに湯呑みを手渡しながら、

「喧嘩したんですよ」

こちらはそれを聞いただけで何故か涙が出てきてしまう。

会釈して受け取った湯呑みから、山崎さんがごくごくと喉を鳴らして水を飲んでる。


喧嘩という言葉に括られてしまうのが・・・なんだか嫌だった。
でもなぜ嫌なのか、その理由が良く判らない。
それが腹立たしくて余計に涙が出る。
いったい自分は悲しいのか悔しいのか。
しかもそれが何に対してそうなのか。


「コイツがとんでもないこと言うもんで、副長が腹立てて手に持ったお茶をばッと・・」

幸が溜息をつきながら説明する。

「放ったんかいな?そら酷い。あん人はかんてき起こさはったら手ぇ付けられんさかいになー。尤も近頃はめったなことではようせんのやけどな。どないしはったのやろ。どれ、私に見せてみなはれ」

山崎さんは空になった湯呑みを置き、長火鉢の向こう側からこちらに回って来て、私の顎に手を当てて多少強引に(事務的に?)上向かせた。
外を駆けてきた手は冷たいかと思ったが、逆に火照っているのか温かい。

ぐすぐす洟を啜りながら、されるがままに診て貰っていると、

「あれ?すごい。やっぱ山崎さんの言うことは聞くんだ」

お盆に親子丼を二人前、乗せて座敷へ通り過ぎざま幸がからかった。

「今までずっとヒステリー・・・じゃなくて、それこそ癇癪起こして泣き喚いて誰も近づけなかったんですよ」

うるせーよ。

「まあまあ、そうからかわんと。・・・うん、大事無いなぁ。どこもなんとも無いようや」

子供をあやすように多少大袈裟にそう言ってから、彼は私の耳元で、

「土方センセー、青なってはりましたよ」

鬢付けが香った。

ていうか。

なんだよそれ。

別にそんなの知らなくていいし。

ぶーっと顔が勝手にむくれてしまう。

彼はふふっと笑って目尻に皺を寄せ、

「ほいたら私はてっきり藤堂センセももうあかんようになったかー思て・・・」

「おい、勝手に殺してくれるな」

本人の返事が返って、座敷で失笑が起こった。

「こら珍しい。斎藤先生が・・笑てはりますな。藤堂先生も。よもやあのお二人が一緒に笑うことがあろうとは・・・」

彼の目の色が女子供向けのものから業務用のそれへ変わる瞬間、低く沈んだ声音がシリアスな色を帯びた。



「山崎さんもどうです?小夜のヤツ、ご飯なんて食べたくない!なんて抜かすもんで、ひとり分余ってるんで。余りもので申し訳ないですけど」

台所へ戻って行きながら、幸が山崎さんに声を掛ける。

え?そ、そんな!

「そうでっか。ほんなら・・」

「ちょ・・!食べるからとっといて!」

ぶッと幸が吹いた。
山崎さんも笑い出す。
しょ、しょうがないじゃん。
泣いたらお腹空いたんだい!

「ようやく泣き止んだね。山崎さんにお礼言わなきゃ」

幸が茶化す。

それで、訊いても良い頃合かと思ったんだろう、

「ほんで喧嘩のタネは?」

そういうことを捨てて置くのは山崎さんの性分に(職分に?)合わないのかもしれなくて。

私も言いたかった。
口に出して言ってしまえば頭の中が整理できて、自分の中でモヤモヤしているものの正体が判るかも知れない。

でも、もう言うなと・・・言われた。

だから話せないというわけではなかったけど、話そうとすると(思い出すと)また涙がこぼれそうで・・・言葉が出ない。

う~っと言葉に詰まっているのを見かねて、彼は眉をハの字に下げ、

「ああ、ええわ。もうええ。泣かんで宜し。要らんこと訊いてしもたわ。堪忍や。な。腹減っとったら涙も出るわいな。あんたはここで昼餉上がっとったらええわ」

斎藤さんから聞いたほうが早いと踏んだようだ。
座敷へ姿を消した。




幸の作った親子丼は玉子がふんわりトロトロで絶品!
でも本人は先程のドタバタの煽りで固めに火が通っちゃった失敗作を消化中。
なんだか申し訳ないけど、出来の悪いのを他人にあてがうようなヤツじゃない。
っていうか、他人に提供するのは完成度が高くないと納得できない性質なんだよね(職人気質な幸ちゃんv)。
なので遠慮なく、出来が良いのを頂いてマスvv

「山崎さんが飛んで来るなんて、副長、やっぱり気にしてたんだ」

食べながら幸がわざとらしく独り言?を言う。

そんなの当たり前だろ?
人にお茶ぶっかけといて、それぐらい心配するのは当然だ。
幸い多少ぬるくなってたから良かったけど、そうでなきゃホントに火傷したかもしれないんだからさ。

空腹は満たされたけど、腹の虫は未だ収まらない。
ていうか、ようやく腹が立ってきた。

知ってか知らずか、幸の弁護は続く。

「事情も説明しないで遣してさ。よっぽど慌てたんだな」

そんなの知るか。
良い気味だ。
人にお茶ぶっかけた罰だ。

「かわいいとこあるじゃない。自分が戻って来たくったってお邪魔虫が3人も居ちゃしょうがないし。思いあぐねて山崎さんに泣きついた・・・ってとこか」

何言ってんだ。
あんなことするヤツがそんなしおらしいはず無いだろ!
っていうか、気にするぐらいなら始めからそんな乱暴しなきゃ良いだろ!

と、そこまでツッコミ入れてから、いつの間にか泣きが収まっているのに気が付く。
腹を立ててたら、なんだか涙が引っ込んだな。


話を変えたくて、

「そういえばさ、今朝言ってたんだけど、藤堂さん、納豆食べたいって」

「納豆?納豆って・・・あの納豆?」

「うん。納豆ご飯食べたいよぅって。子供みたいに言うんだよね」

死ぬ前に・・・と言っていたことは黙ってた。
死ぬ前に食べたいものを食べさせちゃって死んじゃっちゃあ困るから(爆)、やっぱり食べさせない方がいいんじゃん?とか思ってたりもして。

「納豆かぁ。聞くと食べたくなるな。もう何年食べて無いかなぁ・・・」

縁側越しに、晴れた空を仰ぎ見ながら幸が呟く。

「そうだよねぇ~。でも関西じゃ無理だよ。手に入んないでしょ」




幸と二人で納豆話で盛り上がりながら丼飯を完食する間に(←したのか・爆)、山崎さんは斎藤さんに事情を訊いたらしい。

「う~ん、どないしょー・・」

わざとらしく困ったような顔を作って座敷から出て来た。

おどけてるのか?
いじって欲しそうだった(笑)ので、

「どうかした?」

丼を片付けながら尋ねると、

「口がカイイてカイイて敵わん」

「口が痒い?かぶれた?」

笑い出した。
口元を指差して、

「なんでやねん!言いたいことがここまで出て来てるぅいう話やないか。相変わらずおもろいお子やな、ほんま」

なんだか嬉しそう。
ますます台詞が芝居掛かる。

「喋りたいのは山々なんやけどな、生憎口止めされてましてん。しんどいわー。どないしょー・・」

長火鉢の前に座り、袂の中に手を引っ込めてパタパタと手振りをするのが可笑しい。
何を始めようというのだろう。
台所に居た幸と顔を見合わせ、笑いながら首をひねる。

「そうや!独り言なら構わんちゃうかな?」

それってもしかして、王様の耳はロバの耳ってヤツか?(笑)。
と思う間もなく。

彼は背筋を伸ばし、真顔になって咳払いを一つ二つ。

「おとついの晩の一件は、土方副長には、始め高台寺に大砲を撃ち込んで御陵衛士どもを殲滅する考えで居ったんです」

ええ?!
いきなり何を言い出すのか。

「それを止めたんは近藤先生に他なりません。いかにも物騒な手ェや、致し方ない。都に於いて戦様の動きなど罷りならぬとは会津中将様のお考えやったさかい。されば止むを得ず、暗殺の手段を採ることに相成りまして・・」

それって・・・!

「無論、土方副長には普段と変わりなく、細々した手段の策定には手を入れておいでやったんですが、それは目的が暗殺と決められてからのこと。後顧の憂いを断つためには首魁伊東甲子太郎のみならず、一派の殲滅は必定。近藤先生と共に協議の末、今回の仕儀に相成りましてござります」

それはたぶん、私の土方さんに対する不信感に答えるべく、彼が気を利かして特別教えてくれた事実なんだろうけど。

その気持ちはありがたいとは思うけど。

・・・結局、トップ二人の謀略だったって事じゃないのか。

そんな私の心のうちが判ったのか、

「さればこそ」

と山崎さんは続けた。

「取り逃がしたのはいかにも不覚。土方副長には、心中いかばかりかと・・・」

始めの、自分の計画通りにしていれば目的は達成されたはず、ってことなのか。
でもそれって、今よりもっと大勢殺すって事じゃないのか?
もっと酷いこと考えてたってことで・・・。

「さぞかし後味の悪い思いをしているに違い有りません」

いつの間にか東言葉、というか武家言葉?になっている。

「なにしろあの方の性分じゃありませんからね」

そうなのか?
遺体を晒すって笑ってたんだぞ?

「一つ訊いて良い?」

「なんでっしゃろ?」

満面の営業スマイル。

「どうしてそうまでして『殲滅』しなきゃならないの?後顧の憂いを断つためだけ?」


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