もう50年ほど前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。
・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。
ご笑覧下されば幸いです。
・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
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蓬茶色のお召に鼻面突っ込みそうになったよ!
あー、びっくり!
叫びそうになった自分の口を慌てて押さえて、後ろ手に戸を閉めてから、
「びっくりさせないでよ!寝てたんじゃなかったの?」
斎藤さんは袴を着けたまま、先程幸が結い上げた結髪も毛1本の乱れも無く、そこに立っていた。
ホントに寝ていて気配に気付いて起きたんだとしたら凄いものだし、眠気に負けずに寝たふりしてただけなら、それもまた凄い気力だと思ったな(爆)。
「びっくりさせるなとはこちらの台詞だ。いったい何をしていた」
ボリュームは低いけど語気は強い。
見下ろす目つきも険しいものだった。
何をしたとは訊きながら、明り取りに開けていた戸の隙間から見ていたのだとはすぐに判った。
「見てたんじゃないの?」
「ああ、見てたさ。よもや寝首を掻きに入ったとも思えなかったが、まさか・・・」
そこまで言って私が差し出したものを見、改めて絶句した。
髪油を含んだ髪の毛の束は、今朝方の乱闘の跡を残して未だ土まみれだった。
おかげでこっちの手もベトベトのザラザラだ。
「どういうことなんだ。いったいあんたは何を・・・!」
言葉尻から、私の行動に何か意味があるのだとは思って居るらしい。
でも、悲壮な顔がなんだか大仰に見えて、・・・ごめん、ちょっと可笑しかった。
くすっと吹き出してしまったのに、それでもまだ相手は茫然自失の体。
普段動じない人が慌ててるのってそれだけでも面白いv
思わずからかいたくなるんだよね。
「ほ~ら!」
目の前に髪の毛の束をかざすと、僅かに身を引いた。
まるでそれが危険物でもあるかのようにだ。
怖がって居るように見えて可笑しかったんだ。
それと、かざした位置がちょうど斎藤さんの鼻の下で・・・。
「あら、斎藤さんてば、意外とお髭がお似合い~」
小作りな口元にきゅっと力が入った。
でも、小言を言いそうな勢いとは裏腹に、ぱぁ~っと顔が赤らんだのが可笑しくって。
ぶ~っと吹き出しながら庭へ逃げる。
「小夜さん!」
そんな大声出しちゃって、病人が目を覚ましちゃうよ(笑)。
「あんたもしかして・・・それがどういう意味か判らんのか?」
縁側まで追って来た。
私のことを余程トンチンカンだと思ってるんだな。
断髪の意味も知らないと思われてる。
「そんなことないよぅ~」
この時代、髪を切るというのは、俗世からリタイアするってことなのだ。
仏門に入るのもそうだけど、社会から切り離されるというのか・・・。
髷を乗っけてないと、社会人とは認められない、みたいな・・・。
ましてや髷を他人に切られるというのは侮辱に値することらしいし。
それぐらいは判ってたさ。
他人の髷を勝手に切っちゃうのがとんでもないことだとは、さ。
「どうするつもりなんだ」
咎める声も上の空で私が何をしてるかと言えば、土を掘る適当な何かを探して、地面をきょろきょろ。
「何してる?」
まあ、いいからいいから。
縁の下に瓦片をみつけた。
幸が物干し竿に掛けて行った籠手の先から、水滴がポタポタと落ちてくるのを避けながら、庭の梅の老木の根元、ちらほらと赤い実をつけた藪柑子をかき分けるようにして穴を掘る。
「切腹ってさー、お侍がやるもんでしょー?」
根が張っててなかなか掘れない(--;
思ったより土が固くて。
でもあまり普段立ち歩かないような所じゃないとダメだからね。
頑張る。
「だからー、お侍じゃなきゃ良いんじゃん?」
すぐに返事が返らないのは、余程突拍子も無いことを言い出した、とでも思ったのかな。
ま、江戸時代の人が理解してくれようとはこっちも思っちゃいないし。
「・・・あんた、まさかそれで?」
「それにさー、どうせ藤堂さんはもう死んだことになってるんだもの。今更生き返んなくて良いと思うのよねー」
斎藤さんは再び絶句した。
まあ確かに、我ながら言ってることはスゴイと思う。
「生まれ変わったら良いんじゃん。そしたら、・・・えーとなんだっけ?御陵衛士?とか新選組とか関係ないんだもん」
じれったくなって、最後は思い切って素手で土を掻き出すが・・・。
手が冷たいよ~(T-T)。
「それであんたは何してるんだ?」
声が近付いて来た。
髪の毛の束を土に埋めて、穴掘りに使った瓦片を立てて。
手についた泥を気休め程度に払って合掌する。
目を閉じてナムナムと、いい加減なお題目を唱えたら、すぐ横で低く笑う声が聞こえた。
片目を開けて横を見ると、懐手をして隣にしゃがみこんで、斎藤さんが笑って見ている。
ウケたのが嬉しくて、多少調子に乗っちゃったかも。
もう一度、目をつぶって、
「お侍の藤堂さん、お疲れ様でした!心置きなく成仏して、もう戻ってこなくて良いからね!」
斎藤さんがいよいよ笑いだした。
庭下駄を突っかけてしゃがんでいたのが、ヨレヨレになっちゃって、堪らず立ち上がったというぐらい。
「そんなに可笑しい?」
見上げた斎藤さんの姿は逆光で、寝不足の目に眩しさが沁みた。
「墓のつもりか。まったくあんたは面白いな。しかも藪柑子の中へなど、戯れ事にしても出来過ぎだ」
言われてみれば、確かに藪柑子の群れの中には埋めちゃったけど。
それって何か意味があるのかしら?
「知らんのか。縁起物だろ?長寿を意味する。時じくの香の木の実とは橘のこと。藪柑子も・・」
「ときじくのかぐ・・のこの・・?」
眩しくて顔をしかめていたからなのか、私の無知に失笑したのか、溜息を吐くように彼は笑い、
「不老不死の食べ物だそうだ」
「へぇっ!うっそー!なに?これって食べれんの?食べたら不老不死?!」
思わず手近にあった赤い実をプチンと取ってみる。
つやつやと赤い実が鮮やかできれい。
美味しそう!
「じゃあ食べてみ・・」
「いや、そういうことじゃなくて」
食べようとした手をつかまれた。
そのまま引っ張られた手に口の方が追っかけちゃったり(^^;
「そういう言い伝えがあるということだ。人の話は最後まで聴け。まったく、油断も隙もないな」
私の手から赤い粒をもぎ取って、ポイと捨てた。
う~、と、つまむ物が無くなって、土に汚れた指ばかりになったのを眺めて凹んでいると、
「まあそういうわけだから、知らずにやったことならそれはそれでたいしたもんだが。しかし、・・・・」
私の子供っぽい所業を咎めるのは可哀想とでも思ったのか、彼はちょっとだけためらってから、
「切腹でなくとも死ぬ術はあるだろうに」
妥当なツッコミ。
それはつまり、髷を落としたって意味が無いという指摘なワケで。
立ち上がって顔を見た。
風呂を使って月代を剃り上げ、僅かでも仮眠を取ってサッパリとしたように見えてはいるが、真っ直ぐな睫毛の下には未だ充血気味の目。
もっとぐっすり寝かしてあげたい。
「まあね。普通の人ならね」
井戸端に移動してしゃがみ込む。
「ヤツは普通じゃないと?」
と訊いて来るのを待たせておいて、
「水」
と手を出す。
「?」
彼はまだ横に突っ立ったまま。
「汲んでよ。私、手が汚れてるんだもの。斎藤さん、水汲むの上手じゃない?」
ととぼけたら、ようやく、
「ああ・・」
苦笑しながら釣瓶を操る。
「参ったな」
微かに独り言を言った。
照れくさそうに笑うのが年相応に見えてなんだか新鮮。
汲み桶から細く水を落としてくれるのを手に受けて洗いながら、
「いくら凹んでたってあんまり無様な死に方しやしないんじゃないかと思って。あんなボサボサ頭で死んだってカッコ悪いじゃない。何処の誰かも判らないんだし、刀は取り上げられちゃって、どう見たってお侍には見えないもん。少なくとも髪が伸びるまでは死ねないよ、あんな負けん気の強い人」
「なるほど」
井戸の水の方が地面より温かだ。
爪の間に埋まった泥を爪先で取り除きながら、
「死んだら指差して笑ってやる~!って脅せば良いじゃん?丸裸にして捨ててやる~!とか。そしたらお前なんか無縁仏行きだぞー!それでもいいのか!って」
「そりゃまた荒っぽいな」
頭の上から降って来る斎藤さんの声はほんの少し大仰で、なんだか小さな子供に相槌を打ってるみたいだった。
懐から手拭を貸してくれたのへ、
「ありがと」
と礼を言い、かじかんだ手をすり合わせるように拭きながら、
「斎藤さん、眠くない?」
「そうだな。あんたのお蔭で目が覚めちまった」
恨みがましい言い様はからかっているつもりなのらしい。
でもそんな子供っぽい扱いには乗ってあげない。
「ちょっとは寝たの?」
と手拭を返したら、
「ちょっとは・・・な」
と、懐に仕舞い込んで笑う。
斎藤さん、自分で気付いてるのかどうか、さっきからずっとニコニコしっ放し。
キャラが変わっちゃってる?
「今は眠くは無いってこと?」
「そうだな」
そうやって、先程からずっと私の話を聞いてくれるのも心地良かった。
なので、
「じゃあ、何して遊ぶ?」
「え?」
「さっき言いつかったじゃない、藤堂さんと私のお守。一緒に遊んでくれるんでしょ?」
斎藤さんは一瞬固まった後、呆れたように、でも改めて沁みるように優しく苦笑して、
「そうだな。確かに、こんな機会はめったに無い」
「でしょ?じゃあさー・・・」
「あんたを独り占めにできるなんて」
・・・!
(((--;
やばい!
優しい微笑みに騙されてる場合じゃない!(爆)
隙を見せたら何されるか判んねぇ!(←酷い)。
何だかんだ言ってコイツ、下心満々じゃんかよ~!!
「だだだだダメだよっ!藤堂さんが寝てるしっ!熱出してるし、冷やさなきゃいけないしっ!」
思わず身構えた(笑)。
「何をうろたえることがある。ようやくゆっくり話が聞けると思っただけじゃないか」
「話って何よ!夕べ沢山したじゃんか!」
「そうさ。それで他にもいろいろ聞きたいこともできたし。例えばあんたのその髪・・・」
手が伸びて来た。
指の長い、関節の太い、男の・・・。
夕べ私の髪を撫でた・・・。
ひえっ!と思いながら一瞬動けなかった。
首をすくめて目をつむったその時、
「お待たせ~!鶏肉手に入っちゃった。昼飯、竜田揚げでどお?」
目を開けたら、五合徳利と笹葉の包みをかざしながら、幸が木戸を潜って来るところ・・・。
はっとして見れば、斎藤さんは既に縁側から座敷へ上がろうというところだ。
「酒は後だ。肴が上がったら起こしてくれ。寝る」
なんだそれ~!
今の今、眠くないって言ったばかりじゃん!
「承知・・・」
衝立(衣桁)の向こうに姿が消えるのを見送って、幸は茫然自失の私(苦笑)を台所の土間へ引っ張って行き、耳元に口を寄せ、
「アンタさ、夕べ斎藤先生とどうにかなった?」
!!!??
どどどうにか・・って・・・・!
な、なんてこと訊くかな(--;
しかもこんなタイミング・・!
手荷物を流しの側に置きながら、ニタニタ笑ってこちらを見て居る幸の様子からして、今朝からずっと訊きたくて居たのであろうことは明らかだった。
心底げんなりした。
「ある訳ないでしょ!なんにも無いって」
「へぇ、そーお?それにしては大層寝心地良さそうな寝床だったみたいだけどー?」
ニーッと笑う。
ああーっ!
蘇るあの記憶!(爆)。
良く考えたらなかなかとんでもないシチュエーションだった!(今更後悔)。
っていうか。
忘れろよ!
なんで今頃ツッコミ入れるんだよ!
今朝のあの修羅場の最中にも忘れなかったのかオマエは!
忘れた頃に言われるとダメージ大きいんだよォ~(T-T)。
「そりゃあ・・どうにかなりそうだったけど・・・」
・・・って!
口にしたら殊更恥ずかしかったわ(冷汗滝汗脂汗)。
斎藤さんの体温が暖かくて気持ち良かったのを・・・つい思い出しちゃう。
でもなんかちょっと・・・幸せな気分だったよね。
うっかり頬が緩んだかも。
「なりそうだったけど?」
はっと気が付くと幸のしたり顔。
ええい!嬉しそうに覗き込むな、鬱陶しい!
「なんとか踏ん張った・・・。(我ながらなんつー言い訳なのよ?泣)ほんとだよ。何にもしてないって」
Kissはしたけど(大汗)。
だってあれは不可抗力だもん。
申告義務無いもん!
・・・たぶん。
面白がって、幸は殊更驚いて見せた。
「へぇー!アンタにしては上出来じゃん!」
どーゆー意味だよ(--メ
「言っとくけど・・」
と素早く襷掛けをし、包丁を持ち出して鶏肉を切り分け始める。
「斎藤先生、ああ見えてモテるから・・」
それは今までも良く聞いた話だ。
なので、気をつけろと言われるのだと思っていた。
「最盛期は関係者六人以上居たから・・」
関係者って・・・関係した女ってことね(つーか「最盛期」って・笑)。
六人とはまたお盛んな(笑)。
「一時期は三人囲ってたから・・」
それもまた凄い(^^;
「それ、全部暇を出したんだよ」
「聞いた聞いたー。お金かかったみたいだよねー」
呑気にそう答えながら、どこかに生姜が有ったはず、と戸棚の中を探し始めた時、
「誰のためか判る?」
それまで背中を向けて作業をしていた幸がこちらを振り向いた。
それも夕べ聞いた話だ。
でもそれは、私を連れ出すための口実じゃなかったのか。
「斎藤先生、だいぶ前からアンタのこと好きだよ」
真顔だった。
彼女が何を言いたいのか計りかねた。
彼の気持ちを判ってくれと言うのか、それとも諦めさせてくれとでも言いたいのか。
「それが気まずくて、新選組を出たのかとも・・思った・・・こともあるし」
目を瞬いて、それから急に声の調子が変わった。
「だからさぁ、なんでこの時期に斎藤先生をここに置くのかと思って」
手を伸ばし、探し出した生姜の欠片を受け取って、今度はその皮を剥き、卸金ですり始めた。
「やっばいじゃん。アンタ判り易く貞操の危機だし。この家で二人きりにさすなんて、どうにかなったらどうするつもりなんだろ?副長ってば。まあ、藤堂先生があんな状態で居るからまだいいけどさぁ・・」
そういう流れかよ(^^;
私はまたもっとシリアスに、斎藤さんの願いを叶えてくれとでも言われるのかと思った。
安心しかけて、竜田揚げの下味用の酒を、幸の持ってきた徳利から拝借しようと栓を抜いた時だ、
「でも、どうも、副長は斎藤先生の気持ちを知ってるような気もするんだけどね。存外確信犯だったりして・・」
確信犯・・・?
思わず上げた目線の先に、幸の目線が重なった。
「まさかね・・」
慌ててそう付け加えたのは、彼女自身、何気なく出た一言の持つ重大な意味をそこに感じたからではなかったか。
その重大な意味が何なのか、考えて結論を出せる程の根気なんて私には無いけどな(爆)。
冬場だし鶏肉が手に入ったら普通鍋物だろうとは思うけど、揚げ物に飢えていたハイティーン女子二人の手にかかって、生姜醤油の下味の効いた竜田揚げの出来上がり~。
染付けの大皿にてんこ盛りになったのを、足元に纏いつくフクチョーを踏んづけそうになりながら手製の四角い卓袱台にどーんと据えると、匂いに吊られたのか、呼びもしないうちから斎藤さんが衣桁の向こう側から這いずり出て来た。
その目が、テーブルに釘付け。
既に食べる気満々。
表情だけが普段と変わらず飄々としていて可笑しい。
思わず吹き出だしたところへ幸がご飯をよそって運んで来た。
味噌汁までは作らず、志波漬けとお茶だけの簡単ランチだ。
それでもおかずがチキンタツタ(笑)なんてのは豪勢な方。
卓袱台に前足をかけて飛び乗ろうとするフクチョーを押さえ込みながら、こちらも勢い込んで、イザ昼飯!
「やっほー!いったっだきま~す!」
というタイミングで、納戸から呻き声が・・・。
三人して固まる。
隣からの視線が痛かった。
「あんた、藤堂先生放っといたらダメじゃん」
と、シェフ鬼丸(=幸)の呆れ声。
確かに、調理中は私が看なくちゃいけなかったな。
「忘れてた・・」
と言った私の箸に早くも竜田揚げが突き刺さっているのを見、溜息をついて、
「いいよ、私が行く。先食べてて」
幸が納戸へ向う。
ふと、斎藤さんが息を飲んだのに気が付くが、それがどういう意味なのかまではピンと来なかった。
2秒と経たないうちに幸が納戸から転げ出てきて、
「さ、小夜!ああああれ!あれ!」
納戸を指差し蒼ざめて、焦りまくってて言葉にならない様子。
「な、なに?どした?」
こっちも身構えた。
フクチョーが腕の中から飛び出して、テーブルの下に逃げ込んだ。
「藤堂先生の頭!どうしたの?!あんた・・・いったいナニやったの!?」
・・・ああ。
あれか。
そうか、斎藤さんのリアクションの意味もそれだったか。
「ごめーん。忘れてたー」
幸にまだ言ってなかったもんな。
「忘れてたじゃないだろー!おまえ、何やらかしたんだよー!どうすんだよ!どういうつもりなんだ!」
(^^;
「まあまあ」
「まあまあじゃねぇ!」
「いいから落ち着いてよ」
「落ち着いてんなよ!」
「今、説明するからさー・・・」
と言いながらも食欲に負ける私(^^;
あーッ!揚げたてが旨~いv
「って喰ってんじゃねぇっ!」
ツッコミに答えるのも面倒になってきて、
「なによー、先に喰えって言ったじゃ~ん。幸も食べなよ。美味しいよ。とってもジューシィよん♪」
「食べなよ・・・って、私が調達して来たんだろ!私が揚げたんだよっ!」
面白い。
話が逸れても怒ったまんまだ(笑)。
「硬いこと言ってないで食べなさいよ。斎藤さんも食べてるよ?」
「うっ・・。さ、斎藤先生・・・・!」
そこでようやく幸の肩から力が抜けた。
先程息を飲んだのとは裏腹に、斎藤さんは私達のやり取りをよそに、竜田揚げを頬張っている。
無関心を装う様子は、私に気を使って居るのかそれとも素なのか(笑)。
行儀良く背筋を伸ばして正座して居ながらも、目だけがキョロキョロと卓袱台のアウトラインをなぞっているのは、たぶんそれが目新しいから。
茶碗によそったご飯には手をつけずに、
「・・・酒」
と一言発した。
そのオーダーに幸が一瞬怯んだのが可笑しくて、笑い出しながら、
「斎藤さんには説明済みなんだけどさー・・・」
と言いかけたところへ、再びうめき声が聞こえて来る。
幸の表情が再び引き締まって、どうすんだ!?とこちらを睨んだ。
「私が見てくるからいいよ」
齧りかけの竜田揚げを全部口へ収めてから、納戸へ向う。
その背中へ、
「斎藤先生、これってどういうことなんですか!」
「説明も何も、あの人はこちらの言うことなど聞きはせん」
幸に詰め寄られた斎藤さんが面倒そうに溜息を吐くのが聞こえた。
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