もう50年ほど前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。
・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。
ご笑覧下されば幸いです。
・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。
「ああ、そう」
仕方ないので額に手拭を押さえててやる。
だが、いつまで持つか判らない。
私と藤堂さん、身長はだいぶ違うけど、座高は同じくらいなんだよな(爆)。
額に手拭をあてがってやるのは腕が疲れる。
ふぅ、と溜息をついてから、辺りが静かなのに気がついた。
「あれ?皆さんどうしたの?どうぞお話し下さいな。私に遠慮は要りません」
「ぷ」と、横に居た幸が小さく吹いた。
「小夜ちゃん、オレをバカにしてるだろ?」
耳元でブーイングされる。
首を掴む手に、ほんの少しだけ力が入った。
喉に指が食い込んで居るようには見えたかも。
でも、全然苦しくはないんだけどね。
「あら、バカになんかしてないわよ~?お取り込み中だと思って気を利かしてあげてるんじゃないのさー。早くそっちと交渉すれば?アタシと話してたってどうもなんないよ?」
相手が知り合いだからなのか、どうもシリアスにはなれなくて。
藤堂さんもこの状況に面食らっているらしい。
でもその分、この人がその場の空気を重くしてくれた。
「いったいどういう経緯でコイツをここへ連れ込んだんだ。誰がコイツを助けた」
訊いて来た声は土方さん。
私は藤堂さんに寄り添うというか、懐に抱かれるような形で、そっちには背を向けた体勢なので相変わらず様子は見えてないけど、憮然とした声で、しかも近くから。
「すみません、藤堂先生は私が連れて来ました」
手拭係(笑)の幸が答えた。
正座をして神妙な面持ちで、まるで全責任は自分にあるとでも言いたげな思い詰めた目をして・・・。
「違うわ!沖田さんよ!幸は手伝わされたんだわ」
沖田さんの名を出した私を、幸の目が捉えた。
いいじゃん!
隠す必要無いじゃんか。
沖田さん自身、自分の名前を出せと言ってたじゃんか。
怒るなら怒っていいよ。
どんな覚悟があるのか知らないけれど、そんなもの、私には理解できないもん。
どうして幸が責を負わなきゃいけないんだ!
「身代わりを斬ったのもお前なのか」
土方さんが核心に迫る。
すると、
「お前まさか・・!」
近くに斎藤さんの声がした。
私の位置からは姿は見えていない。
今にも怒鳴りだしそうに、荒い息に語尾を震わせている。
こちらを向いて正座した幸が、今度は覚悟したように目を閉じた。
「待て」
と上司に諭されて、斎藤さんは辛うじて言葉を継ぐのをやめたようだ。
ふふん、と藤堂さんが鼻で笑うのが・・・たぶん私だけに聞こえてた。
そうだ、この人が一番良く知ってるじゃん!と思った時、幸の溜息が聞こえて、
「私は刀を持たせてもらえませんでした」
そうだった。
幸はあの時、刀を差してなかった。
「ほらね!」
幸が人を殺したなんて事は無いんだよ。
つい嬉しくて大きな声になっちゃって、
「うるせぇ、お前は黙ってろ」
きっと土方さんは顔をしかめてる(--;
重々しい声で聴取を続ける。
「・・ではやったのは沖田なのか?」
「違う。それは俺がやった」
薄笑いの藤堂さんが口を開いた。
彼の言うには、血路を開いてその場を去ろうとした時、追っ手がかかって不覚にも後から一太刀受けたと。
斬られはしたが、幸いまだ体が動いたので、振り向きざま、相手を上段から斬り下ろしたのだそうだ。
それを聞いた斎藤さんが、静かに溜息を吐いたのに気がついた。
彼はたぶん、幸が人を斬ったと誤解していた。
それもおそらく、藤堂さんの身代わりを作るためだけにやったのだと。
それを確認したくて、もしそうなら許せなくて、先ほどから幸に詰め寄る気配を見せていたのだった。
「立ち去ろうとして沖田さんに遇った」
藤堂さんの話は続く。
沖田さんは彼を相手にしなかったらしい。
いや、してくれなかった、と、藤堂さんは表現したけど。
「あんなにやつれて。立って居るのもやっとのように見えた。それでも相変わらず俺のことなど子供扱いさ。へらへら笑いやがって刀を抜こうともしねぇ。しかも逃げろと言いやがる。バカにしやがって」
斬り合いの興奮も手伝って、相手の態度が腹に据えかねたらしい。
「斬ってやろうと思った。今なら斬れると。逃げるならこいつを斬って逃げようと、な。だが・・」
それまで土方さんの方を見据えて喋っていた藤堂さんが、ふっと視線を外した。
外した視線は、幸の方に向いた。
「コイツ。コイツだ。女のクセにたいしたもんだぜ。俺の刀を素手で止めやがった」
ええっ!と、おそらくそこに居た全員の視線がそちらに向いた。
「素手・・・ってアンタ!」
冷水を浴びたような心持になって顔をしかめた私に、幸が小声で(でも明らかにみんなに聞こえてたけど・笑)、
「素手ってこうじゃなくて・・」
と、顔の前に合掌して(つまり真剣白刃取りってヤツだ)見せてから、
「こうだから」
変身ポーズを決めるみたいに両腕をX型に組んで顔の前に突き出した。
うへっ!と私が更に顔をしかめたのを、たぶん面白がったんだな。
気を許して話し続けた。
「しかも受け切れなくて被り物の庇に当たって止まったから。火花が飛んだんだよ!夜中だからしっかり見えてさぁ。ビックリし・・・」
「馬鹿者!」
と、カミナリが落ちて、幸が首を引っ込めた。
「何てことしやがるんだ!出すぎた真似をするな!お前はそんな所にしゃしゃり出なくていい!」
土方さんの言い分には概ね同感。
でも、それで幸が怒られるのはムカツク。
後を向くのが面倒で、天井に向って怒鳴った。
「ちょっと待ってよ!そこまで言わなくてもいいんじゃないの?だって沖田さんを助けたわけじゃん?」
「無事だったからいいようなものの、脳天ぶち割られていたかもしれんのだぞ!」
怒鳴り声に被さって、私の言い分はかき消されそう。
幸が蒼ざめた面持ちで俯く。
「そんな所に行ったのだって、沖田さんが連れてったわけでしょ?怒るなら沖田さんに怒ったらいいじゃないのよ~ぅ!」
と彼女の代わりに反論するが、土方さんは意識的にかそれを無視(ずるい)。
忌々しげにひとつ、溜息をついて、
「お前はナニか、沖田に死ねと言われたら死ぬとでも言うつもりなのか!」
これは幸に言ったのだ。
たしなめたつもりだったんだ、たぶん。
でも幸のヤツは間髪入れずに顔を上げ、
「はい!覚悟は出来て居ります!」
ビックリするような勢いで返事をした。
ハナイキも荒く、睨み返している。
・・・(--;
その勢いに気圧されたのでもないのだろうが、土方さんはしばし言いよどみ(しつこいようだが私からは表情が見えてないのだ)それからおもむろに、
「・・・お前、相変わらずろくでもねぇな」
辟易と吐き出した。
余りにもガッカリした声で、ちょっと笑えた。
でも、そう言われたとたん、幸の表情がパッと明るくなり、
「はい!ありがとうございます!」
・・・幸ちゃん、ろくでもないと言われて嬉しそうだよ(^^;
土方さんは・・・たぶん呆れてる。
「褒めて無ぇ・・」
聞こえるか否かの小声でうんざりと呻いたのが、やっぱり可笑しかった。
「それで?初太刀を止められて、それでどうしたぇ?」
長い溜息をついて無理矢理気を取り直し、土方さんが話を戻したのへ、藤堂さんは自虐的な笑みを浮かべながら、
「押し倒された」
え?と、皆がまた、幸のほうを見た。
「誰かと思った。男だと思っていた。面頬を付けていてな」
すると、カランと後で金属音がした。
ぐっと体を捻って後ろを見ると、火鉢の前に座った土方さんが、お面(のようなもの)の口らしき場所に火箸を刺して引き上げたところだった。
下には、丸められた幸の荷物が。
今朝私が見た時は彼女はそんなものは付けていなかった。
てことは、その前に庭で外したのか。
「沖田さんとの間に飛び出して来て、籠手で刀を受けた勢いのまま、体を預けて来やがった。俺は仰向けに突き倒されたさ」
藤堂さんの言葉が続くほどに、幸は頭を垂れて行き・・・。
「その後は、沖田さんに刀を奪われ、コイツは俺に馬乗りになりやがって・・・」
ええー!っという皆の視線に苛まれて幸は顔を赤らめ、小さくなっている(笑)。
確かに、藤堂さんは新選組の中では小兵のうち。
幸との身長差は15センチ程もあるか。
腕を伸ばせば更に差は開くはずだし(江戸時代の人って手足短いの・爆)。
防具をつけていれば体重もそこそこあるだろうし・・。
「藤堂先生は負傷されて状態が悪かったんですよー。だから私なんかにやすやすと取り押さえられたんで・・・」
幸ちゃん、珍しくボソボソと弁解(笑)。
藤堂さんの方も、捕らえられたなら新選組の屯所に引っ立てられると覚悟をしたらしく、開き直って左程の抵抗はしなかったみたいだ。
彼が大人しくしている間に、幸は沖田さんの指示で偽装工作をしたわけで。
顔を割られて死んで居る人に、藤堂さんの着ていた羽織を着せて、差料を持たせて・・。
「足元も。草鞋がけだったのを脱がせて、藤堂先生の雪駄を履かせて・・・」
あーあ・・・。
よくやるなぁ・・。
そんなことをやってる間に、自分が血だらけになったってわけか。
幸にそんなことさせやがって、くそ~、沖田さんったら。
「背中に傷も無いのに羽織ばかりが切り刻まれて・・・か」
土方さんがちゃちゃを入れた。
「・・はい、あの、・・火事場のどさくさだからなんとかなる・・と、・・・沖田先生が」
なん~だそれー!
そういうとこ変に図太いのな、あの人って。
「実際、他の皆さんも見て見ぬふりをして下さったし」
「他の皆さん、とやらとは話がついてたのかぇ?」
永倉さん、原田さん他、夕べの担当者とは連携していたのかと土方さんが訊ねた。
「いえ、全く。沖田先生の独断でした。むしろ他の皆さん・・・先生方に咎が及ばぬようにとのお考えだったと・・・。でも、我々が現場で見物していたのは両先生とも知っていたので・・・。先生方は結果を見て判断されたんだと思います」
見ぬふりをした、とはそういうことか。
「ならやっぱり元凶は沖田さんじゃん」
言っちゃった。
すると、ぬるくなった手拭を絞り直してくれながら、幸が反論した。
「元凶って言うな。藤堂先生を助けたんだ」
「ごめん。そりゃそうだけど・・」
受け取った手拭を再び藤堂さんの額に宛がうが・・。
これって鉢巻にしちゃった方が良くね?
冷たいのを額に宛がわれて気持ち良かったのか、藤堂さんが目を閉じた。
心なしか、体が揺らめいている・・・気もする。
そういえば、今の話にツッコミ入れるかと思ってたのに入って来なかったし・・。
大丈夫だろうか。
「幸、水!」
「OK!」
すぐに状況を察して、幸が部屋を飛び出す。
「医者は?」
と土方さんの声。
藤堂さんの消耗した様子に気付いたようだ。
「まだ。ていうか呼べないでしょ、この状況じゃ」
と答えていると、湯呑みに水を汲んで幸が戻った。
「すみません。呼びに走る暇が無くて。傷口が大きいので、縫った方が治りが早いと思うんですが、何しろこの状況で。ヘタな医者では足が付きますし・・。」
「判った。後から遣す。屯所でも夕べは手負いの山で、この近所の医者は全部かき集めた。他から呼ぶ」
「ありがとうございます」
珍しくにんまりと笑って、幸は頭を下げた。
足が付くので呼べないというものを手配してくれると確約した、相手の立場と言葉のアンバランスに気付いたんだろう。
藤堂さんの存在に目をつぶると約束したようなものだ。
確かに可笑しかった。
が、それに気付いたのは私達だけではなかった。
「待て!勝手に話を進めるな。医者など要らん」
不意に正気になって、藤堂さんが怒鳴る。
彼は両手で私の首を(今にも絞め殺そうと、もしくは首の骨を折ろうと)掴んで居たので、水は私が湯呑みを持って飲ませてあげていた。
それを怒鳴ったついでに手で払った。
京焼の湯呑み茶碗は私の手から吹っ飛んで行き、ガン!と後方で音がした。
箪笥か何かに当たったみたいだ。
「危な!・・・ちょっとぉ、こんなに熱出してるのに何言ってんの?」
鉢巻にしてあげた手拭は、触るともう温まっている。
「これから死のうという者に医者など無用だ!」
まだ言ってるよ。
もうフラフラなくせに。
早いとこ高熱で人事不省になるといいのに(こら)。
「あのさー、はっきり聞くけどさー、藤堂さんさー、結局何がしたいわけ?」
もう目を開けて居るのも大変そうな人に、まともな答えは期待してなかったけど、
「俺は・・・腹を切りたい」
・・・(--;
それかよ。
「なんで?」
言いたいことを言わせれば気が済んで寝てくれるだろうと思ったんだ。
緊張の糸が切れれば。
「ひとり安穏と生きて居たくない」
「安穏と?」
どっかで聞いたような台詞だな(--;
「仲間を殺されたんだ。仇も討てなかった・・・。自分独りその仇に助けられて、どうしておめおめと生き長らえて居られるのか!」
どっかで聞いたような理屈だ。
斎藤さんはどんな気持ちで聞いているんだろ。
ふとそう思って幸の後に立ちん坊になっているのを見上げる。
私と目が合うと、居心地が悪そうに目を逸らす。
こっちは溜息が出た。
「あのさー、全員死んじゃったわけじゃないんでしょー?逃げた仲間も居るんでしょ?今頃どっかで再起を図ってるかもしれないじゃん。どうして生き延びて合流しようと思わないわけー?」
「おい!何そそのかしてんだばか!余計なことを言うな!」
後ろからすかさず水を差された。
邪魔するなクソオヤジ!
お前の言うことなんか聞いてない。
「うるさいな!外野は黙ってて」
「誰が外野だと!」
・・・ホントうるせぇコイツ(--メ
「こんな有様でどうやって仲間と連絡を取ろうというんだ」
とは藤堂さん。
・・・ま、確かに。
「どうせこれからお前の旦那になぶり殺しにあって、晒し者になるだけさ」
そうなのか?
「って言ってるけど?」
と、また後に向って訊くと、
「まあ、その通りだな」
不機嫌そうな答えが返った。
それ見ろ、とばかりに藤堂さんがせせら笑う。
しかし、
「だが厄介なことに南部與七郎、もとい藤堂平助は既に殺されて晒し者になっている・・・」
つまらなそうな土方さんの声が続いた。
「コイツはここに居ては困るんだ。居なかったことにしなければな」
それってどういう意味なのか?
再び90度ほども体を捻って、後を見る。
土方さんは火箸で灰を突付きながら、燃えさしの炭を見つめていた。
膝元には湯呑みが転げたまま。
水がかかったのか、黒羽織の裾が斑に濡れている。
藤堂さんが苛立つ。
「なら早く殺せばいい」
その言葉に土方さんは嫌悪感を顕わにした。
横目でこちらを睨みながら、
「ばかを言え。誰がわざわざてめぇの家ン中血で汚してまでお荷物作らにゃならんのだ。ここをお前の血で汚すな。自分の足で歩いて出て行け」
そう言い放ってすっくと立ち上がり、先程から戸口に立ったままだった斎藤さんを退かせて納戸を出て行く。
「な・・!待て!手掛けを殺してもいいのか!」
思わず立膝になる藤堂さん。
グラついて、床に手をついた。
つまり、私の首から手を離した。
すかさず斎藤さんが私を奪還しようと身を乗り出しかけたが、それには及ばないと思い、大丈夫、と手を広げてそれを止める。。
どうして?と言わぬばかりの斎藤さんと、目だけで会話しようと百面相をしてる暇に、納戸の外から声が返る。
「ああ。好きにしろ。・・・ちゃんと後始末はして行けよ」
気の無い返事だった。
でも・・・。
クソオヤジにしては良い出来じゃな~い?(嬉)。
「・・・だってさー。どうする?」
藤堂さんに畳み掛けてしまう。
あるいは半分笑っていたかもしれない。
藤堂さんはショックを隠しきれない様子で、私を解放していることにも気付かずに、床に両手を突いたままだ。
ぱっちりした目を殊更見開き、床板を睨んでいる。
「俺は後傷を負ったんだぞ!女を人質に強請ってるんだぞ!戦場から独り、生きて戻って来たんだ!どうして殺さん!士道不覚悟は切腹じゃないのか!あんたはそれで幾人も詰め腹切らせて来たんじゃないのか!」
残る力を振り絞って、一気にまくし立てた。
が、
「何言ってんだ。お前はもう新選組ではねぇのだぞ?士道不覚悟も何も、俺にはお前ごときの生き死になんぞ今更関係無ぇ」
土方さんの声は半笑いだ。
おどけて居るようにも聞こえる。
でも。
その実、なんて冷たい言葉だろう、と思った。
興味を持たれないということは、嫌われるより余程にキツイ・・・。
急に藤堂さんがかわいそうになった。
四つん這いになって床板を睨んでいた大きな両の目が潤んで見える。
「じゃあ・・アンタ等はどうなんだ!新選組のやってることと言ったら・・!遺体を往来に晒すなどと、それが士道と言えるのか!」
「卑怯で悪かったな」
何処までも土方さんは冷静だ。
両刀を携えて、納戸の戸口に顔を見せた。
「俺はな、今度のことは戦と心得てる。戦に士道もクソもあるものか。戦場に紋付で来るお前ぇ等がバカなだけだ」
「なにっ!」
顔を上げた勢いで、藤堂さんの目尻に悔し涙がこぼれる。
「しかもだ。大人しく縛に付きゃいいものを、小賢しく刃向かいやがって」
「縛に付く?そんな必要などあるか!俺達を罪人扱いするつもりか!」
「おおそうか。失礼した。だがそれではやはり仕方あるまい。こっちも命は惜しいからな。刀を抜かなきゃ治まらん。そういうことだ。殺されたとて文句は無かろう?」
ちくしょう!と立ち上がろうとする藤堂さんを抑えるのが大変だった。
立ち上がる力はもう無い。
倒れてしまいそうになるのを支えるのが大変なのだ。
だがそんなことは、土方さんは意に介さない。
「多勢に無勢は見れば判ることだ。闇雲に猪突するのは利口とは言わんな」
冷静すぎて聞いてるこっちまで憎たらしくなってくる。
「黒装束で暗闇に潜んでいたくせに見れば判るとは笑止!」
藤堂さんが吼えた。
更に憎らしさを増すように、相手は整った顔に酷薄そうな笑みを浮かべ、
「ほほう。捕物装束で待ち構えていれば大人しく捕まりに来たとでも言うつもりか。高張提灯でお出迎えでもすれば良かったかね?」
「ふざけるな!」
「ふざけちゃいないさ。お前等のやっていることに比べたらな」
「うるさい!お前に何が判る!」
歯噛みをする藤堂さんの首筋に血管が浮いた。
「こんなヤツらに伊東先生は・・・っ!」
ぐっと閉じた睫毛に涙が滲むのが、側に居る私には判った。
「もうやめて」
とは土方さんに、
「もういいでしょ?」
とは藤堂さんに。
身も、心までボロボロになっていく姿を、これ以上見ては居られなかった。
「いい加減、横になったら?」
の言葉を合図に、幸も手伝ってくれて、怪我人(もう病人の域だ)を寝かせる。
藤堂さんには既に抵抗する気力は残されていなかった。
目を閉じたまま、息も荒く寝床に倒れこむ勢いだった。
うわ言のように小声でぶつぶつと何か唱えている。
「ちくしょう、殺せ!・・殺してくれ」
・・・また、死にたがってる。
この人達はどうして死にたがるんだろう。
月代は青々と伸びて来てるのに。
刀傷を治そうと、ちゃんと体は熱を発しているのに。
なぜ無理矢理、それを止めようとするんだろう。
自分の命のことだから他人が口を挟むなんて余計なお節介かもしれないけどさぁ・・・。
こんな展開で死んで終わりにしちゃって、それで気が済むんだろうか。
・・・だったら簡単でいいよな。
ってシビアにツッコミたくなっちゃう自分って、やっぱこの時代の人間じゃないんだと思う。
「小夜ちゃん・・」
藤堂さんが億劫そうに瞼を開けた。
目を閉じて大人しくなったので、てっきり貧血でも起こして気を失ったのかと思ってた(こら)。
何か言いたかったようなのだが、放心したように言葉の後が続かない。
熱に潤んだ目で、ぼうっと天井を見て居るばかりだ。
でも、言いたいことは、判った気がした。
潤んだものが、目尻から流れて落ちた。
なんと言葉をかけて良いのか判らない。
仕方ないので、額の手拭をたらいの水で絞りなおしてやりながら、
「ねぇ、アタシの手、結構役に立つでしょ?ヘシ折らないで良かったじゃない?」
私にはせめて、場の空気を変えるくらいしか能は無いんだと心得て。
もちろん、それが何の解決になるわけじゃないとは判っては居るけど。
頭の上で右手をヒラヒラさせて、いつものようにおどけて見せたら、よろよろと瞳が泳いで、
「すまん・・」
しょげた。
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