もう50年ほど前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。
・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。
ご笑覧下されば幸いです。
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・但し最新作は先頭に。
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今までの流れから言って、そうではないのか。
伊東派のところへスパイとして送り込まれた斎藤さんを脱走させたってことは。
夜中に屯所が騒がしかったってことは。
新選組と対峙しているのは、切羽詰まった斎藤さんの顔色から言っても伊東派ってことになるだろう。
伊東派と新選組が今夜、対決しようとしているのだ。
しかもきっと人ひとりじゃなく、一網打尽にしようというシフトなのだ。
人が多い、という斎藤さんの先程の言葉はそういう意味ではないのか。
ただ、彼はそれを知らされずに居たらしい。
「伊東さんを暗殺することは判っていた。それを今夜決行することも。だが・・皆殺しとは・・!」
目を伏せた。
眉間に寄せられた皺が、発せられぬ悲鳴のようで。
ああ、と、暗澹たる気持ちになる。
暗殺・・・!
そんなことが許されるのか。
新選組って・・・やぱりそういうこともするの?
こんなに優しげな斎藤さんでさえ、”暗殺”を否定はしないのね?
ここはそういう世界なのね?
そんな世界で、私はいったいどうすれば?
ぐるぐる考えていた私の頭の中に、斎藤さんの声が響く。
「頼む。行かせてくれ。今なら間に合う。後を追える」
両肩に抱きついていた私の手を解いて、こちらに向き直る。
「何言ってるの?そんなことさせられないよ。土方さんに叱られちゃう」
この人を私のもとに送ったのは彼だ。
伊東派と新選組の抗争から斎藤さんを遠ざけようとした意図は何だ?
斎藤さんの顔色が変わった。
「何?」
聞き返す声に険が有った。
それでその名前を出したのが失敗だったと判った。
その後の説得も言い訳めいて聞こえたかもしれない。
「考えてもみてよ。あなたは伊東さんのところを脱走してきたんでしょ?相手は裏切られたと思ってるわけじゃない?逆に新選組の人達は、あなたをまだ伊東さんの派閥だと思ってるわけでしょ?今出て行ったところで両方からやられるだけじゃないの?頭冷やして考えてみて」
思えば、そんな理屈は彼も充分承知しているはずのもので。
「だから人が殺されに行くのをみすみす見逃せと?それも土方さんの指示なのか!」
彼らしくない高ぶり方は土方さんへの反感なのか。
だとしたら、私はどうすればいいんだろう。
「ごめんなさい。怒らないで。違うんだ。指示なんて受けてない。ただ、斎藤さんを引き止めるのが私の役目だと思っただけ。あなたを現場に近づけないように、土方さんはあなたをウチに送り込んだんじゃないかと思って・・」
黒い頭巾に切った窓から覗く目だけが、相手の気持ちを読む手掛かりなのだけど。
呆然と見つめる目が、今は読めない。
「だって、今までかくまわれていたところは自由に抜け出せるような所だったんでしょ?それじゃあ意味無いもん。私をお荷物として背負わせることで、あなたを動けないようにしたかったんじゃないのかしら?」
「皆殺しを止められないようにか!」
即答した語気の荒さに身が縮こまる。
敵意に満ちた視線は土方さんに向けられたものだ。
彼の苦悩の元が、見えた気がした。
痛んだ心も。
「違うわ」
と言いながら、彼の言う通りかもしれないと、心のどこかでは思っていた。
でも。
それだけではないかもしれないじゃないか!
「あなたを死なせないためよ」
私はそう思う。
だって・・・そういう意味も有るではないか。
確実に。
斎藤さんは怯んだかに見えた。
でも、激情を静めるほどのものではなかったようだ。
「そんなんじゃない。あんたは知らないだけだ。あの人はそんな人じゃない」
嘲るように言い捨てて、通りへ出ようとする。
すがりつく。
引きずられる。
「でも少なくとも、あなたを死なせるつもりは無いって事よね?」
この人を無くしたくないのだ、土方さんは。
それだけは判る。
そこにどんな意図が有るかは判らない。
けどそんなこと、今はどうだっていい。
私だってこの人を死なせたくはないから。
斎藤さんは一旦言葉を飲み、
「狙った獲物を殺るだけじゃない、報復されないように根絶やしにしようという魂胆だ。あの人はそういう人だ。あんた、そこまでする必要が有ると思うか」
そんなことは・・・。
ごめん。
私には判らない。
・・っていうか、
「報復?」
「伊東さんを殺されれば、仲間が黙ってはいない。現にこれから弔い合戦だ」
それは判るが・・・。
なんだろ、何か引っかかる。
報復?
報復報復・・・。
報復に・・・来る?
ちょうどその時だった。
人影の塊が行った先で物凄い気合が・・・!
とたんに目の前にフラッシュバックして来たのは、自分に向けて振り下ろされた刀!
灰神楽が舞って、雨戸が倒れて・・・!
ビクっと反応したのを、
「大丈夫か」
取りすがっていたはずの人に、逆に抱き支えられた。
そうする間にも斬り合う声が聞こえて来る。
斎藤さんは、今にも私を捨てて駆け出しそうだ。
「帰らなくちゃ」
「え?」
「私、帰らなくちゃ、あの家に」
フラッシュバックして来たのは、三年前のあの事件。
新選組の副長を狙って、襲撃犯はウチに来た。
「ばか!やめろ!あそこは・・!」
言いかけた言葉を飲み込んだのが決定的だ。
「報復に来るのよね?ウチにも来るかも知れないんでしょ?そう言われて来たんでしょ?」
局長の近藤先生が自宅のように用いている醒ヶ井の家は、屯所とはほとんど隣同士(お向かい)のような位置関係にある。
報復を狙う襲撃者には到底攻め難い。
それに比べて、ウチは屯所に近いとは言え、何かあった場合に騒ぎが伝わるほどでもない。
仕事上の出入りの多い家だし、新選組の誰もがウチを副長の休息所と認識しているはずだし。
狙われやすいし襲撃しやすい。
屯所を本陣とすれば、ウチはその前哨みたいなものなんである。
局長の休息所ほどではないが、副長の妾宅が襲われたら、そこそこのインパクトだろうし。
報復の動きが有るとすれば、ウチを狙って来る可能性は充分ある。
「違う!俺はあんたを連れて逃げるつもりで・・」
私を傷つけないようにという配慮なのか、ここまで来てもまだ真実に近づけるまいとする。
「嘘言わないで。じゃあどうして納戸から入って来たの?表から来れば良かったじゃない」
「それは・・・俺の所在が知れぬように・・・」
「つまり私がひとりで居ると敵に思わせておくためでしょう?」
「違う。追われるこの身を隠し遂せるためだ」
そこでやめれば良かったのに、きっと癇癪を起こしたのに違いない。
余計な一言を加えた。
「もう言うな。あそこは危険だから連れ出したまでだ」
やっぱりね。
それが本音だ。
「戻るわ」
「何?」
「戻らなきゃ。私が居なきゃ意味が無い」
今度はこっちが飛び出す番。
でも一歩も前に走り出せない。
今更手首を掴まれた。
「何言ってるんだ。襲われるのが判っていて何故戻る。あんたを囮に敵を呼び寄せるなんて酷いとは思わんのか」
・・・言った!
ようやく言った。
「やっぱりそうなのね?」
しまった、という顔は頭巾に隠しても、声の動揺は隠せなかった。
呻くような声で白状した。
「そうは言わん。そう言ったのではない。万一のことがあっては困るからアレを頼むと・・。行く時は納戸から入れと。その指示の意味に気付いたのはあんたのところへ行ってからだ」
頭巾に隠れた口元がきっと歯噛みしていたと思う。
私を傷つけまいと黙っていたのを、まんまと口を滑らせてしまったんだから。
「あの人はずるいな。自分の意図は言わずに仕向けるだけなど」
そして私のためにイライラと怒ってくれてる。
「ありがと、斎藤さん。優しいのね」
息を飲んだ彼の顔が赤かったかどうかは、・・頭巾の下じゃ確認出来ないな(笑)。
「俺は腹が立ったさ。あんたは立たんのか。餌扱いされてるんだぞ」
餌・・・って!
オレは置き餌か~!(--;
ナントカホイホイの誘引剤ってヤツだな?(凹)。
「あんなところへは戻らなくていい。俺と一緒に逃げるんだ」
手首を引き寄せ、思い詰めた目で見下ろしている。
それを振り払う。
「良いんだったら。それが私の仕事なの。最初からそういう役割なのよ。あなたは余計な心配しなくていいの」
振り払ったつもりの斎藤さんの手は、そんなに簡単に離れてくれなかった。
それどころか、簡単に捻り上げられてしまう。
「余計な心配だと?」
「痛っ!何すんのよ!放して!」
「余計な理屈こそもういい。あんたは俺と逃げるんだ」
懐に引き込まれそうになる。
やばい!このまま連れて行かれる!
「そもそもどうして逃げるのよ!そんな必要無いじゃない。伊東さんとこも新選組も、どっちからも抜けたんでしょ?新選組からは表向きにも合法的に。伊東さんの派閥は解体されるんだし」
ジタバタともみ合いながら指摘すると、
「副長の手掛けを横取りしようっていうんだ。逃げなきゃ膾(なます)に刻まれる」
また子供だましの言い訳をする。
それとも思い込みなのか?
「横取りじゃないじゃない。保護してるわけでしょ?この場合、危険回避が目的でしょ?戻れば許されるんじゃないの?」
「あんたなぁ、ひとを馬鹿にするにもいい加減にしろ。本当にそれだけだと思ってるのか。俺が芝居をうってるとでも?」
「違うの?いつもひとりぼっちで可哀想な上司のお手掛け殿を、あの家から出したいっていうさー。それってただのお節介焼き・・・」
一瞬、何が起こったんだか判らなかった。
急に喋れなくなったと思ったら、目の前に斎藤さんの顔が有ったんだ。
首の後ろに彼の手があって、仰向かされて、目の焦点が合わないくらい間近に彼の顔が有って。
頭巾で隠していたはずの口元は、いつの間にか開いてたらしく・・(←反則だよね?)。
びっくり。
なので目、開きっ放しだったわ。
初キスなのに(爆)。
そう!
キスだよキス!KISSしたの!
反則だよぉおおおぅ!
マイ・ファースト・キスじゃんかぁああっ・・!!(倒)
頭ン中、まっしろ・・・。
ゆっくりと離れて行く斎藤さんの表情は目に映っていたはずだけど・・・記憶に無いわ(爆)。
「・・・大丈夫か・・?」
と問われて意識が戻り始めると同時に脱力感が・・。
ああ。
こんな夜中に、寂しい京都の路地裏で、心の準備も何の感動も無く・・・(滝涙)。
「あんた熱が有るじゃないか」
・・・。
・・・へ?
熱?なにそれ?
「気付かなかったな。これじゃ動かせん」
あ、寒気がしてたのはそれ?
もしかしてこの脱力感もそれなのか?
何?手を掴んでたのに判らなかったの?
キスしないと判らなかった?
寒さを感じないぐらいにアルコール回ってても、燗の温度だけは判るってか?
・・・(--メ
ふざけんな!
と怒鳴ろうとして、不意に咳が出た。
それを抑えようとして、余計にむせる。
「小夜さん?大丈夫か」
喋れない。
咳が出そう。
声を潜めて喋っていたのが負担だったのか、冷えて乾燥した空気が悪かったのか、とにかく思い切り咳がしたかった。
苦しくて堪らない。
頭から被っていたストールの端を口に当てて、音を抑えようとしても無駄だった。
咳込む音は、深夜の街に異様に響く。
まずい。
今ここで咳込んではまずい。
ここに人がいるのを教えているようなものではないか。
それでも堪え切れなくて、喉の奥からコンコンと苦しい息がむせて出る。
斎藤さんは懐に私の頭を抱え込んで、咳が治まるのを待ってくれる態勢だが。
我慢に我慢して出た咳は容易に治まってくれない。
思い切り咳き込みたいのを抑えているので苦しくてならない。
それでも音が漏れる。
早くこの場を離れなきゃ。
と思った時、
「判った。仕方ない。戻ろう。あんたに無理はさせられない」
頭巾を元のように直しながら斎藤さんが言った。
酸欠で足元のおぼつかなくなっていた私の体を抱えるようにして移動を始める。
思わぬ怪我の功名だった。
闇の奥で斬り合いは続いており、そのおかげでこちらの気配に気付く者は居なかったと思う(気付いていても手が回らなかっただけか)。
だが、後ろ髪を引かれる思いなのだろう、斎藤さんは悔しそうにまっすぐ前を睨んで、ずんずんと大股で歩いて行く。
唇を噛んでいるのが、頭巾越しにも判る。
言葉をかけたかったが、咳はまだ治まらない。
青く海の底に沈んだような街の中を家まで戻る途中、彼は一度歩みを止めた。
「ここらなら大丈夫だろう。落ち着くまで咳をしてしまうといい」
私の咳が治まるのを待ってくれる。
だが、優しい、という言葉だけでは表しきれない。
「空き家に誰か入り込んで居るとも限らん。まだ休めん」
侵入者に咳を聞かれてはやりにくい、ということだろう。
彼らしい用心深さになんだか安心する。
「戻ればまたひと騒動あるかもしれん。それは覚悟しといてくれ」
言いながら、抜かり無く辺りに目を配っている。
あれだけ嫌がったのに、既にお仕事モードに入っているのが頼もしい。
まあ、・・・誘引剤と一緒じゃ仕方無いか(^^;
「・・・ありがと」
ようやくなんとか咳は止まってくれたが、まだ息が切れてる。
もうふらふら。
「喋るな。また難儀するぞ」
うん。
そうだね。
ふうっと溜息をついて、
「でも、斎藤さんと戻れて良かった」
「当たり前だろう?あんた一人じゃ・・」
「餌だけ在っても食い逃げされちゃう。あなたが居ないとこの罠は成り立たない」
私が誘引剤で斎藤さんが粘着材?(笑)。
あの家がナントカホイホイならそういうことになる。
息を飲んだのは判った。
辺りに散らされていた鋭い視線を、今度はこちらに向ける。
そういう反応は予測がついてたけど、実際自分に向けられるとキツイキツイ。
ヒリヒリするような敵意を孕んだ視線だった。
「あんた、俺に仲間を討てと言うんだな?そのつもりで戻ったと」
嫌悪感をみなぎらせている。
私が相手でも、そんな顔するんだね。
私を嫌いになってもいいんだよ。
彼の怒りと悲しみの深さをもう一度確かめたくて、ちょっとの間、言葉を継がないでいた。
ちょっと意地悪だったかな。
「旦那殿の教育はたいしたもんだな」
皮肉を付け加えるのを忘れない。
教育なんてされたこと無いけど、そんな風に見えるんだな。
「馬鹿ね」
と、私は可笑しくて笑い出してしまう。
「あなただったらいくらでも手加減できるじゃない」
この人って、基本的に真面目なんだな。
もっと自分に都合良く解釈してもいいんじゃない?
「仲間を討つも逃がすも、どうにでもできるじゃない」
斎藤さんの(細いけど)くっきりとした切れ長の目が、徐々に見開かれていく。
「だってあなたはウチに居ろと言われただけで、その先のことまでは何も命じられなかったんでしょ?だったら何でも好きにできるじゃない」
力の入っていた眉間が徐々に緩んで行く。
「だから斎藤さん、私と一緒にあの家に戻るのは、あなたでなくちゃ駄目なの」
月は煌々として、彼の上に光を注いでいる。
風は轟々として雲を千切り、彼の上に時折影を走らせる。
先程からこちらを見据えていた目が、今は戸惑いの色を映して、
「・・・だが、それではあんたの立場が」
「大丈夫よ。なにせ私は熱出して寝てるんだからね。今夜ウチで何があったかなんて、全然知らないの」
肩をすくめてウインク。
斎藤さんはまるで呆けた様子で固まっちゃってて、なんだか可愛い。
ちょっと、からかってみたくなっちゃって。
「それとも他の人を呼んで来た方が良かった?あ、屯所から人借りて来るか」
そこで初めて泣き出しそうな、なんともいえない表情になった。
「うそうそ。もう意地悪言わないから。そんな顔してないで、早いとこ帰って飲み直したら?それともお腹空いた?ご飯炊こうか?私、寒くて堪んないわ」
早く行こ、と手を取った。
斎藤さんの掌は、熱の有る私の手よりもずっと温かだった。
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