もう50年ほど前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。

三日ほど連続して沖田さんが顔を見せなくなったのは、それから程無く。

いつものように小夜の持ってきた朝飯をお腹に詰めてから、屯所に沖田さんを訪うと案の定、先日の松蔵さんとやらのグループが彼をマークし始めたらしい。
彼はそれに気付いて通うのを自重していたのだったが、

「ちょっと様子を見ようかね」

余裕の笑顔で、左程深刻でもない様子。

せっかく囲った人に会いに行かないのは無意味だ、とも思ったけれど、それならそれで病気の伝染る可能性も低くなるわけだし・・・。
と、コメントを迷っていると、

「お前近頃やけにスッキリしないね。稽古してないだろ?なんか悪いもん溜まってるんじゃないかぁ?ちゃんと毎日クソしてんのかぃ?」

・・・(--;
こういう状況でそういうこと言うかい!

「そりゃあ苦労してますからね。世話の焼ける師匠のおかげで、出そうなモノも引っ込むようなことばっかりで」

こんな話題に平気で応酬している自分がちょっと悲しい(自爆)。

わははは!と彼は声高に笑った後、

「そういやぁ、さっき副長がエラくご機嫌そうに出かけて行ったっけが・・・」

むせてゲホゲホ咳き込みながらも顔は笑っている。

「山崎さんが京に戻って来たそうだ。まだ屯所には顔を見せてないが・・」

なんだって~っ!?
それってもしや・・・!

つーか、それを早く言え~~!

話を半分聞いて踵を返し、ダッシュしかけた背中に、

「待て幸・・・」


振り向く前から気配が違った。

冗談を言って笑っているときのものとは全く違う。
え?っと思って振り返ると、

「照葉を・・・帰そうと思う」

黄色く色づいた銀杏の大木をバックに、沖田さんの微笑った頬が死人のように蒼ざめて見える。

「既にやってしまったことだ、知れたら知れたでいい。だが、事が公になる前に照葉は帰す」

副長の耳に入ったとしても、店側ともめる前に事を収めればなんとかなる、ということなのか。

「そんな・・」

突然のことで、なんと言っていいのか判らない。
小夜が聞いたらなんと言うのか。

「申し開きは私がする。お前と小夜さんには何も関係の無いことだ。お夏さんにもそう言って置いてくれ。山崎さんには知らぬふりをしておいてくれと」

お夏さんはもとより我々の味方だが、

「関係無いなんて言われたら、小夜は怒りますよ?」

それだけは確実だ。
この件に関しては彼女が一番思い入れてるんだもの。

「いや、関係無いさ。私が迷ったのがいけない。悪いのは私だからな」

そんなことを言ったら、迷わせたのは自分だと小夜は自分を責めるかもしれない。
でもそれをこの人に今言うのも話がくどい。
それでも恨み言は言いたかった。

「沖田先生が悪者になって、いったい誰が納得するんですか」

黙った。
黙って溜息をひとつ吐き、

「もう・・潮時なのさ。店の者が捜し回ってる。仕置きしようと言うのではない。身内の無事を気遣っている。・・・捨てては置けんだろう」

風に巻かれてバラバラと音をたてながら銀杏の葉が降って来る。
目の前を斜めに落ちて行く黄色が目に沁みる。

「あれは島原に育った女だ。最期はあそこに帰すのがいい」


もう、この人の腹は決まっているのだった。

金の話でないことは始めから判っていた。
請け出す金が用意できないから返すというのでないことは。
連れ出したのは、やはりいけないことなのだと言っているのだとは。

その結論がこの言葉なのだとしたら、誰が反対できようか。


最後に良い思い出が出来たろう、と沖田さんは言った。
生まれて初めての少女らしい時間だったかもしれないと。
転地が効いて、一時的にとはいえ想像以上に元気になったし。
だから後悔しているわけではないと。

こんな機会をくれた小夜には感謝をしていると。

それを半分、上の空で聞いた。

そんな風に感謝をされて、小夜が喜ぶとは思えなかった。
何があったとしても、照葉さんを帰すことを望むとも思えなかった。

だって小夜の望みは、照葉さんの最期を沖田さんが看取ってあげることだったんだから。



だが、

と、小夜の家に向いながら、私は自分自身に言い聞かせていた。

仮に小夜の望みがそうだとしても、当人達がそう思わなければもはや外野の手出しは無用ではないか。

残念だと思う心の裏側で、ほっとしている自分も居る。
これで沖田さんが病人と接触することは無くなる。
在ったとしても今までほど頻繁ではなくなるのだ。

これで安心だ。
小夜には悪いけど。
小夜にも照葉さんにも沖田さんにも悪いけど、なんだか胸を撫で下ろした。


問題は小夜をどう納得させるかだが。

それも丁子屋の松蔵さんとやらとのやりとりで、頑なだった気持ちがぐずぐずになっている今なら無理ではないかもしれないし。
なにより当事者の沖田さんが「申し開き」をしてくれるんなら納得するより他は無いのだろうし。

・・・落胆ぶりは目に見えるようだけれど。



足音に身構えたのか、開け放した縁側越しに鋭い視線と目が合った。
副長は平服に紋付黒羽織。
入って行ったのが私だと気付くとすぐまた正面の相手に視線を戻す。

こちらに挨拶しかけた町人体の山崎さんも、上司が放してくれないので、会釈したぐらいでまた会話に戻って行く。

家主の居ない家で、二人は歓談中だった。
とはいえ密談らしいんだけどね(笑)。

全く、この人達は仲が良いというか気が合うというのか、傍目に見ても副長の表情が・・・やけに楽しそう(キモ)。
楽しげな表情と言ったって、常人とはだいぶ違うけど。

幸い、火鉢の上の鉄瓶にはつんつんお湯が沸いていたので急いで茶を淹れると、

「何時からここは空き家になったんだぇ?」

・・・来た(--;

山崎さんにおかえりなさいと言う間も無く、敵は先制一発。

「近頃度々無人だな」

度々来ていたらしい(汗)。
リサーチ不足だった。

「それはたぶん、小夜が気を使っていて・・・」

この間の大喧嘩の後、この人はまだ小夜と会ってないんだ。
なので小夜が拗ねて会わないように仕向けていると思わせようという・・・苦しい返答。

山崎さんは二人の喧嘩の状況を島田さんから報告されているのかもしれないし、屯所へは顔を出していないらしいから、まだ知らないでいるのかもしれない。
いずれにしろ、副長としてはそんな恥ずかしいことは山崎さんの前では話題にしたくはないだろうという読みだ。

案の定、ふん、と鼻を鳴らして、彼はそれ以上追及しなかった。

「私が留守にしている間に、だいぶん様子が変わったようで」

山崎さんがにんまりと笑う。

私に向って言ってるからには新選組の内部のことではなくその周辺、私や小夜のことを言ってるんだ。

つまり、自分が居ない間、お前等良いように遊んでいただろう、という「脅し」だ。
汗が吹き出た。

「島原で何か御座ったようですな」

そのまま鋭いところに斬り込んで来る。
こちらとしては防戦したいところなのだが、

「ええと、あの・・・」

ヘタに話せない。
副長の顔を見やると、

「総司の件は話した」

喧嘩の場面は抜きだろうな(苦笑)。
山崎さんはもちろんもう笑ってはいない。

「いえ、それは済んだはずのこと。私の言っているのは今の今のことです。今の今、島原とその周り一帯、何か落ち着かない様子で」

なんでそんなことが判るのだ。
虫の知らせというのだろうか。
それとも職人のカン?

「それから、屯所の中の誰かに見張りが張り付いておりますようで」

げ。

恐ろしい人が戻って来ちゃったよ、オイ!(泣)。

副長が山崎さんを見、それから私を見た。
視線を外さない。
つまり・・・睨んでる。

私に何を白状しろと?(--;


「小夜はどこへ行ったんだ?」

山崎さんの言っていることと何か関係がある、と、この人なりに勘が働いているのかもしれない。

手強いぞ。
この攻撃をかわせるか?

「さあ・・。なにしろ気まぐれなヤツですから」

「お前・・・」

や、やばい。
突っ込まれそう(油汗)。

「近頃顔つきまで斎藤に似てきたな」

・・・。

へ?(--;

山崎さんがたまらず吹き出した。
くっくっくと顔を伏せて堪えに堪え、丸めた肩を揺らして(≧ー≦)こんな顔。

つられて副長まで口元が笑って来ている。

「顔に色が出ねぇってのはどうなんだ?女子としちゃあ」

・・・。

余計なお世話だよ(--メ



小夜を捜して連れて来いと言われ、追い出された。

目的は何なのか量りかねた。
ただ単に留守がちを叱ろうということなのか、それとも・・・?

そんなことにも気がつかないなんて、全く私は子供だった。


話の様子からして未だ照葉さん誘拐事件は知られていないみたいだし、沖田さんが彼女を島原に帰すのにはこの状態をキープするのが得策。
怪しまれてはいけない。
早く小夜に知らせなくちゃ、早いとこ交代して家に帰さなくちゃと、それしか頭に無かった。
うかつにも。


「お帰りぃ」

と、縁側で照葉さんと仲良くお針して遊んでいた小夜が、風に揺れるツワブキの向こうで笑顔のまま固まった。
目をぱちぱちさせている。

何のリアクション?と歩みを緩めて間も無く、スッと視界の横を何かが通った。

「・・・あ!」

驚いたというよりゾッとした。

尻をからげてパッチを履いた旅装のままの山崎さんが、腰の煙草入れを揺らして前を歩いて行くではないか!

いったい何時の間に!?


尾行を撒くことだってある。
今だって充分周りには気を配って歩いてきたはずだ。
ずぶの素人ではない。
この何年かで培った、そんな私のちっぽけな自信をあざ笑うような仕打ち。

こめかみに汗が流れるのを感じて立ちすくむ。


・・・いや、この際そんなことはどうだっていい。

沖田さんが居ないのなら、私が迎え撃たねばならない。
混戦必至の第二ラウンドはこれからだ。




「ごめんっ!つけられた!」

慌てる幸の叫びを背中に響かせて、月代に手拭を乗っけて縞木綿の尻をからげた山崎さんがスタスタ歩いて来る。

秋明菊が風に倒れ掛かるのを紺の股引が無造作に蹴って、白い花びらが飛んで行く。

「しばらくです」

口元は笑ってはいるが、東言葉だった。
顔が締まって見えるのは痩せたのか陽に焼けたためか。

「お帰りなさい。・・・いつ戻ったの?」

久しぶりに顔を見れたのは嬉しいんだ。
本当なら抱きつきたいくらいなのに、・・・悦べない。
それどころか、この人に見つかるなんて、と、がっかりして来る。

嬉しいのにがっかり。
相反する感情がぶつかり合って、自分でも今どんな顔をしているのか判らない。

私の質問に彼は答えず、縁側に座っていた我々の前に陽の光を遮るように立ちはだかって、

「またこんなおイタしやはって。小夜はん、あんたはまぁ・・・」

子供を叱るような口調で上方訛りにはなったけど、逆光の中で目はまだ笑ってない。
私を見ていない。

「あんたが照葉さんやな?」

山崎さんの問いに、へえ、と小さく答えるテルちゃんの声でようやく正気に帰った。

「この人は何も悪くないからね!私が勝手に連れて来たんだから!」



先制パンチは小夜から(汗)。

山崎さんも小夜もふたりとも、それぞれの頭の中に自分なりの人物相関図が出来上がっていて、それに基づいた立ち位置から闇雲にぶつかろうかという場面。

とりあえず危ないので、針持ったまま騒ぐな!と縫いかけのカラフルな紐を針ごと小夜の手から取り上げ、山崎さんを家に上げる。
照葉さんの寝床も縁側から部屋の中に移動。

その間も、

「テルちゃんは帰さないからね。あんなところに帰したら死んじゃうんだから!」

小夜が吼え続けている。

山崎さんは呆れたように、さも聞く耳を持たない風情で、煙草入れから煙管に刻みを詰め始めた。
勧められないうちから火鉢の脇に陣取って、煙草を吸い付ける仕草がふてぶてしい。

それに何か言い訳をしようとしたテルちゃんに小夜が駆け寄り、寝床に横にしてしまう。
山崎さんを見返す目は敵意満々。


このふたりの頭の中にある図式を打ち壊して、沖田さんの意向を知らせて、できるだけいい方向に話をもって行かなければならない。

考えただけで骨が折れそう。

まずもって小夜を大人しくさせることが一番大変そうだし(--;

「山崎さんは私等が何をやっているか知りたいだけだ。副長はまだこのことには気付いてない。だから今すぐどうこうと言うことじゃない」

小夜に言い聞かせながら自分の頭を整理する。

「幸はん、そりゃ私があんたらの肩持つかも判らん、ちゅーことかいな?」

煙を吐きながら山崎さんが苦笑した。
決め付けられた勝手さを笑う。

「ごめんなさい。とりあえず今はそういうことにしておいて下さい。でないとこれからの話がややこしくなるので」

山崎さんはまだ、「敵」と決まったわけじゃないんだ。
話をする余地はある。
問題は小夜の方なのだ。

「私は小夜に話をしに来たんです。先に話をさせてください」



小夜は既に身構えていた。
矛先が自分に向いたのを不審げに見ている目に覚悟がある。
予感があったのかもしれない。

「テルちゃんは帰さないからね」

先手に釘を刺してきた。
判ってるんだ、こいつは。

「沖田さんは自分で話すつもりだと言ってたんだけど、こんな展開になっちゃったから。彼が来るのを待ってられないから私が言うけど・・・」

「テルちゃんは帰さないよ」

照葉さんを寝床に押し付け、私を睨んでいる。
臨戦態勢の猫みたい。

先日私が無理矢理着せられた紅葉の着物に黒繻子の帯が良く似合ってる。
半襟は梔子色。
濃地の着物は大人っぽく見えるけど・・・副長の趣味なのかな。

と、一呼吸置いて、

「あのさぁ・・」

と、冷静に話しかけたのに、

「帰さないったら帰さない」

ああ・・・(--;。
子供みたいになってる。
どうしようか。
誰の言うことも聞かない構えだぞ。

溜息が出た。

山崎さんは私の背後で気配を消して、様子を窺っている。
頭のいい人だから、ここまでの我々のやり取りで既に状況を把握しているはずだ。

小夜も話せば判ってくれるだろう。
今は頑なだけど、もともとそんなヤツじゃないし。
それを励みに、嫌な役回りをこなすしかない。

「沖田さんは照葉さんを島原に帰すと言ってる」

「うそ」

「アタシがアンタに嘘ついてどうするの」

黙った。
視線が宙を彷徨った。
口がへの字になった。

「店の人たちが照葉さんを捜してるんだよ。心配してるんだ。帰してあげよう」

「だってあんなとこに帰したら・・」

「あんなとこって私等は思うけど、テルちゃんにはあそこが一番良いのかもしれないじゃない」

再び小夜は言葉に詰まった。
一生懸命突破口を探しているようでもあった。
そして最後には、

「そんなこと、有る訳無いじゃん!」

感情のままに叫ぶ。

ね?ほら、強引にそう思い込むしか無いと判ったでしょ?
でもそれは、答えが出れば簡単に覆るものだよ。

「じゃあ、本人に聞いてみたら?」

松蔵さんという人が自分を捜しに来たと判った時、照葉さんは息を潜めながら、障子戸の向こうを見つめていた。
今にも名乗り出しそうだった。
その後だって帰りたそうなことを言ってたじゃないか。

追い詰められて、小夜は激した。

「なによ。そんなの意地悪よ。そんなこと聞いたら誰だって帰るって言うに決まってるじゃない。こんな状況じゃ、私等に遠慮するのに決まってるじゃない」

寝床から照葉さんが何か言おうとするのをも黙らせてしまう。

確かに小夜の言っていることは間違ってはいない。
でも、

「アンタがそうやって強引に決め付けちゃうから、テルちゃんが自分の正直な気持ちを言い出せないで居るとは思わないわけ?」

私は怒っていたのかもしれない。

小夜の屁理屈に対してではない。

いつかは見つかるこんな所業、バレる可能性が無いわけではなかったのに、今更ながらの彼女らしからぬ取り乱し方が腑に落ちないのだ。

自分ひとりが空回りを始めていることに気付いていない訳が無い。
なのに何故、そこまで頑なな態度を続けるのか。
何がそれ程までに小夜を狂わせているのかが判らない。

「彼女にとって一番いいのは、誰にも心配かけずに安心できる場所で、ちゃんとした治療を受けて養生もして、その上で沖田さんとも自由に逢えることでしょう?だったらそれを目指せばいいんじゃないの?」

「どうやって?島原には沖田さんは入れないんだよ?逢うのを妨害されてるんだよ?だったら外しかないじゃない。隠れて逢うしかないじゃない」

それは判るが、

「その沖田さんがテルちゃんを帰すって言ってるんだ」

「それは何?もう逢わないつもりなの?」

声に怒気がこもってる。
そうじゃないよ、と首を振った。

「自分と居るより、親しい人たちに囲まれていた方が幸せだと思ったんじゃない?」

幼い頃から一緒に暮らした島原の人々は家族同然。
その人たちと引き離してまで、照葉さんを側に置きたいとは思わないんだろう。

冷静に考えれば、至極当然。
沖田さんは優しい人だから。

だが、小夜から返った言葉は真逆だった。

「冷たいのね」

寄せた眉根に嫌悪感を隠さない。
私が優しいと思った沖田さんの分別を、小夜はそう処断したのだ。

「私はそんなの嫌」

口元を真一文字に結んでこちらを睨んでいる。
嫌でもなんでも、もう山崎さんに知れる所となったからにはこんなことを続けてられるはずも無い。

「そんなこと言ったってもうどうにもならないよ。もう無理だよ。充分じゃない?諦めよう。当人達が諦めてるんじゃもう私等は手出しできないよ。これ以上はただの余計なお節介だ。却って迷惑だよ」

すると小夜は表情を変えぬまま、すっくと立ち上がり、

「山崎さん」

話し相手を変えた。
話かけようとしても、もう私を見ない。
私と話しても無駄だと判断したらしい。

「あの人どこに居るの?」

え?と思った。
あの人とは副長のことじゃないのか?
それはいったい・・・。

山崎さんは口から煙を吐き出しながら、

「私の戻りを待ってはるか、それに飽いたら屯所へお戻りかも判りまへんな」

私と小夜との言い合いを聞いていたにも係わらず、平然とした返答。
この人の腹も読めない。

「私の家に居るってこと?」

「左様です」

ありがとうと言うなり、小夜は縁側から外に出ようとした。
慌てた。

「どこ行くの!ちょっと待ってよ!副長に事が知れたら、私等もテルちゃんから離されちゃうんだよ?今バレたらまずいよ!」

沖田さんだけでなく、私等とて照葉さんとの接触を許されるはずなど無い。
だからこそ、バレないうちに照葉さんを帰して口をつぐんでしまおうと思ってるのに!
我々という連絡手段だけは確保しておかねば!と。

そんな思いを知ってか知らずか、

「バレるのに遅いも早いもあるもんですか!」

小夜は捨て台詞を吐くのももどかしく、ひとつ結びの帯を翻して駆けて行く。

まるで自分の考えの姑息さを指摘されたようで、凹みそうになるところへ、

「もうバレてますがな」

敵わんなぁ、と山崎さんの苦笑が聞こえた。
彼も自分の存在を無視されて、笑うしかなかったらしい。
笑いながら、小夜の後を追おうとする私を引き止める。

「やめとき。あんたは行かん方がええ」

「だって事が公になったら沖田先生はただじゃ済まされませんよ!私等だってどうなるか・・・」

「ないない。それは無い」

煙管をくわえたまま、頭のところで手を振って見せる。

「そんなことはさせまへんから。まあ、焦らんと待っとったらよろしいわ。存外面白い目ぇが出るかも判らんさかいにな」

くすくすと笑っている。
どういう意味か判らない。

判るのは、この人はあの修羅場を見ていないということだけだ。

副長と直接対決、再び。
仲裁は居なくて大丈夫なのか?

小夜は無事で居られるのか?


「そんなことより、なぁ幸はん、もちっと詳しう話を聞かせて下さりまへんかな?」

やば。
・・・こっちの方が無事じゃないかも(--;
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