もう50年ほど前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。


あの日、木戸を潜った時感じたのはやっぱり殺気だったんだよな。
と、今になってつくづく思う。

「いいこと考えたぁっ!」

と、帰った私の顔を見ながら小夜が叫んだ瞬間、背中にイヤーな汗が流れた。

大体コイツの考え付く「いいこと」なんて良かったためしが無い。

・・・少なくとも私にとっては。



そもそも沖田さんが島原の遊女を身請けするなんてことからして気に入らなかったんだ。

・・・妬きもちなんかじゃないさ(つっこまれる前に言っとくけど・爆)。
本当にその人を好きなのかどうか、疑問だったんだ。

沖田さんはいつもと変わらなかった。
そりゃあ、毎日島原に通ってはいたけどね。
それ以外、何も変わりゃしない。
女に惚れたような様子ではなかったんだ。

それが突然身請けだなんて。
どうも納得が行かなかった。
何か間違っている気がした。
その「何か」が何なのか判らなくて副長に報告した、つまり判断を求めたわけなんだけれど。

だから小夜に「これは人助けだ」と言われた時は、逆に納得が行ったもんだ。

照葉さんってかわいそうなのよ。
病気なのに寒々した暗い部屋に押し込められて、あんなんじゃ治る病気も治らないよ!
だから請け出してあげたくなる気持ち、判るでしょ?

と彼女は言った。

労咳は治らないよ。
とは言わないでおいた。

殊更言わなくたって、知っているだろうと思ったし。
そんな揚げ足を取って、冷たい人間だと思われるのは誰だって嫌だもの。

ていうか、沖田さんに伝染ったらどうするんだ。
とは言った。

そしたら小夜のヤツ、なんて言ったと思う?

「沖田さんには世話させないから大丈夫」

と来た。
じゃあ誰が?とおそるおそる訊いてみたら、

「私等なら大丈夫でしょ?BCGやってるもん!免疫あるし!」

((((--;
私「等」なのかい。
私もかい。

「ていうかさぁ、アンタはなんで照葉さんの押し込められてる部屋のことまで知ってるわけ?」

と突っ込んだらば、沖田さんから聞いた話だと言う。

ほんとかよ。
あからさまにしどろもどろだぞ(苦笑)。



実はこの時、おおよその見当はついていた。
沖田さんが通っていた店は、あの時小夜が遊びに来て風邪を引いて行ったあの店だったからだ。

あれから彼女の様子はおかしかった。

気付いても何も言わなかったのは彼女自身がそれを隠そうとしていたから。
友達が隠そうとするものを暴いてみるほどの勇気なんて、私には無いし。

でも、だから、副長の頼みに応じたのかもしれない。

そう、命令というものじゃなかったんだ。
そもそも上司でもなけりゃ部下でもない。
私はただの便利屋で、手間賃で用を足すだけの役割なのだもの。

異変を感じていながら、仕事に追われて自ら動けない副長に代わって、沖田さんの様子を窺っていただけだ。


「これは人助けなの。判るでしょ?」

小夜が何を隠そうとしていたのか、判った気がした。
そんなことなら、彼女の鼻息が荒い理由も判った気がした。
この間の大騒ぎの理由もね。

なのでうっかりホッとしちゃったんだな。
魔が差したんだよ。

・・・。

だってこんなの犯罪じゃないか!

島原から遊女をひとり、盗み出すなんて~っ!!(憤然)。


いや、・・・詐欺かもしれない。

絶対詐欺だ!

私が、・・・この私が、こんなこんな~っ!!!



「やだー、幸ちゃん島田似合う~♪(悶絶)」


女装させられるなんてっ!!!(憤死)。


と、ふいに、体が持ち上がるほど元結を引っ張られた。

「痛ででででで!」

「これ!動かんといてっ」

まったく、こんな人までいつの間に抱き込んだんだぁー!

「お夏さん、こんなことして山崎さんに叱られないんですか?」

呼ばれていそいそと現れた髪結いのお夏さん。
先ほどから私の短い髪に付け毛を足して島田を結うのに苦労してます。

「心配おへん。ここまで放って置かれてますのえ?義理立てする義理も無うなってしもうてますぅ」

・・・怒ってる。
深く静かに(怖)。

山崎さん、お正月からこっち、帰って来てないからなぁ・・・。

それにしたって、彼が居れば絶対許すはずの無い暴挙。
加担したら後から面倒なことになりはしないか。

「あんなぁ、へぇ、女子いうもんはなぁ、男はんと違うて義理と人情秤にかけたら人情が重いことになってますのえ。女子はんの大事と聞いたら、ウチかて同じ女やもん、見ぬふりなんぞでけしまへん。沖田センセの大事やし。ウチの人のことなんぞ、もうどうでもええんどす」

悔しかったら今すぐ帰って来てみなはれ!と・・・私の後頭に向かって吼えてるんだが(--;。


着る物には不自由は無かった。
小夜のサイズで着物は丈も裄もぴったり。
だが着慣れない女物の着物、どうしてもよちよち歩きになってしまう(--メ

小夜が笑いながら、

「そのまま一度、四股踏んでみなよ。ぐわーっと股開いて・・・」

ええっ?
こ、こうか?
うひゃあ!緋の襦袢が恥ずかしいよぅ(T~T)。

「そうそう。それでも歩きにくい時は、着物の下前、腰紐のところで折り返しておくといいよ」

言われた通りにやってみる。
なるほど、裾捌きがいい。

「ね?」

小夜は先程から上機嫌で荷造りを始めている。
あの大喧嘩から十日も過ぎて、手首の捻挫もなんとか完治に近い。
脱いだばかりの私の普段着と履物を風呂敷にまとめている。

どう工夫しても刀は持ち込めないので、帰りは丸腰になる(ていうか女装の時もだけど)。

それもなんだか不安で気が進まない。

最初の予定では沖田さんも一緒に行くことになっていた。
でも、万が一この計画が失敗に終わった場合、彼が島原に入るのは後々リスクが大きいので、結局我々だけで決行する事にした。

我々といっても私と小夜だけではない。
髪結いのお夏さんも一緒に行ってくれることになっていた。

ここら辺の小夜の計画はなかなか良く出来ていると思う。

お夏さんが島原に入るのは職業柄、極自然なことなのだ。
機転が利くし融通も利くし、サポート役としては申し分ない。

何より京都弁が強みだよ。
私等二人じゃ、誰かに話しかけられたらアウトだもんね(^^;

我々は彼女のお供として大門を潜ることになっていた。

でもそれでどうして女装させられているかといえば・・・、まあそれは後々判る。



新選組の隊士は外泊禁止となっていたので、遅い時間であれば郭内で出くわす確率も低くなる。
だがそれでは髪結いの仕事時間ではなくなってしまう。
大門で見咎められる可能性が出てくる。
なので、時刻は暮れ時と決め、危険回避のためには決行期日を吟味した。

まず副長が屯所から動かない晩というのが大前提。
この間のようなこと(「戎舞」参照)があってはならない。

それから、島原で何らの会合も行われないこと。

特に幹部には顔が割れてるので、鉢合わせなんかしたら事だ。
ただ、個人で遊びに来る隊士については防ぎようが無いので、あとはなんとか見つからぬように上手く凌ぐしかない。

それから最後に、沖田さんの自由が利く日だということ。

島原には入れないが、彼には受け入れ準備を担当してもらわねばならなかった。
盗み出した照葉さんの受け入れ準備。
まさか小夜んちへ連れてくるわけには行かないので。

なので沖田さんが早番の日の午後遅く、ひっそりと計画は実行に移された。




お夏さんが乗り気になったのには訳がある。
彼女はどうやら前々から幸をいじり回したかったらしいのだ(笑)。
幸を女姿に拵えて、と言ったら、

「いやぁ、ほんま?嬉しわぁ。ウチの好きにさしてもろうてええのん?あん子はきれいにならはるえ。楽しみどすなぁ」

剃り跡の青々した眉を下げて、見事なおかめ顔になった(笑)。
照葉さんのことを話したら意外にも彼女のことを知っていて、

「きれぇな姐さんやったんどっせ。まだ年も若いしなぁ。そやし、近頃病がちで店に出んようんなったぁいう話は聞いとったのやけど・・・」

京女の典型というのはどういうものか知らないが、この人は山崎さんのカノジョだけあってなかなか気風がいい。
そういう事情なら、と言って手を貸してくれることになったのだ。



髪を京風の島田に結って、私の持っている中でも地味目の(というより普通の)柄の着物を着せた幸は、どこから見ても正真正銘の美人というやつ。

後から合流する予定の沖田さんに、幸の女装を見せられないのがいかにも残念!

見たらきっと惚れるよ~v
まるで男装の麗人・・・違った(^^;女装の美少年だよv(それも失礼・笑)。

「ちきしょ~~っ。なんで私がこんな格好・・・!」

と、時々思い出したように吼えながらこちらを睨むという問題行動(笑)はあるけどね。

お夏さんも私もキャアキャアはしゃいじゃって、これから必要とされるはずの緊張感のカケラも無い(^^;

「こんな赤い着物なんて嫌だよぉ」

蘇芳地に紅葉の線描きが散らしてある綿服に、ほとんど黒に近い深緑の帯。

赤いと言っても地味なんだけどな。
強いて言えば茶色というか紫というか。
大人っぽい雰囲気に仕上がって、薄い水色の半襟が絶妙に似合うなぁコンチクショー!ってな具合なんだけど(^^;

幸を女姿に作ろうなんて、こんな夢みたいな企画(笑)はめったに無いので、ほんとはもっと着飾らせたいんだけど、今回は髪結い見習いという設定なので高価な着物は着せられない。

もっとも、そんな派手な着物を着せようなんてことになったらコイツは暴れ出すかもしれないけどな(^^;

そうでなくても化粧無しと判るまでは頑なに拒否し続けたんだ。
ここまで漕ぎ着けるのは大変だったんだよ、もうホントに。


でも、幸が居ないとこの筋書きは成り立たなくなる。

だから、お婆さんじゃあるまいし、これくらいの赤味は普通だよ!とか、地味すぎるくらいだ、とか、言いたいことは全て飲み込んで・・・幸のボヤきも無視して(爆)スタンバイに専念。

島田は結ったが地毛と付け毛(髪文字じゃないよ)の色が違う幸に、顔隠しと一石二鳥の手拭を被せ、髪結い道具を持たせる。
彼女の着替えを風呂敷で抱え荷物にし、これは私が担当。
お夏さんはお師匠らしく手ぶらで。

イザ行かん、島原へ! 



前を行く幸の後姿を見ていたら、つい、

「アンタさぁ、ちょっと鍛え過ぎじゃない?女の子にしてはちょっと首が太いよ。せっかくきれいなのにさー。勿体無いなぁ」

「うーるーさーいー。私はきれいになるために鍛えてるんじゃないの。文句があるんだったら今すぐにでも着替えるけど?」

おおっと、幸ちゃんご機嫌斜め。
歩きながらゆっくりと振り返った目が美人なだけにこわっ!

「やーめーよーしっ。ほれ、もう島原どっせ」

目立つ島原東側の大門を避けて、西門から閣内に入る。
お夏さんは出入りの業者用の許可証を持っているので、番人小屋に軽く会釈をして、

「すんまへんけど今日はウチ、連れがあるんどっせ。こん子ォ・・・、ウチのお弟子どすねや。どうぞよろしゅうになぁ・・」

お夏さんの後に控えて、手拭を目深に被った幸が手足を縮こめ、前かがみに頭を垂れている。
いくらかでも体を小さく見せようということなのだが、後ろから見るとその無理な姿勢がやけに色っぽかったり。

番人小屋のおじさんが出入り許可証の木札を渡しながら、首を伸ばして幸の顔を覗き込むという時を狙って、

「すいませぇ~ん!私も中に入りたいんだけどぉ!」

私の出番v
お夏さんの鼻先をかすめて、間に割って入る。
ほとんど体当たりしたので、

「痛っ!なんやの?騒がしい」

「あら、ごめんなさい」

つまりは他人のフリ。
幸の正体を誤魔化すために、顔を確認されないよう小芝居打ってます(笑)。

「おじさん、アタシにも木札ちょうだいよ。何か書かなきゃいけないの?届け物なの。知り合いが中に居るのよ。着物汚しちゃったとかで着替え持って来たの。そう、この風呂敷包み。ええ?何これ?書き方判んないよ。おじさん代わりに書いてよー。ダメ?やだー、あたし字なんか書けないよ?」

まくし立てている間に、お夏さんは手を伸ばして辛うじて木札を受け取って、

「ほんなら、ウチはこれで。おやかまっさんどした」

無事、島原潜入。



番人小屋でつい時間を食ってしまった。
女一人では店に上げてもらえないかな?と不安になりつつ、暖簾を潜ると割りとあっさり入れてもらえた。
私の顔(というより身長・笑)を店の人間が覚えていたのだ。
人捜しという言い訳も、新選組がらみの人間ということで不思議に思わなかったらしい。

ホントはこの時点でおかしいと思わなきゃいけなかったんだけどね。
そこまで鼻が利くほど、私は玄人じゃないってことで。


驚いたことに、照葉さんは沖田さんという馴染みが付いても、未だに納戸暮らしをしているらしい。
じゃあ逢いに行く時も?と訊ねたら、その時は座敷に呼ぶんだそう。
沖田さんが入り浸る理由が判った気がした。


人目に隠れて納戸にたどり着いた時、幸はもうバタバタと着替えにかかっていた。
襦袢ひとつで髪を崩し、付け毛の島田の髷をボコッと外して、

「遅いぞ~。私の着替え~」

笑わすな。
誰かに気付かれたらどうすんだ!

照葉さんは納戸の奥でお夏さんに事の次第を説明されていた。

「沖田センセェのお言いつけやし。な、心配せぇへんでもよろしおすえ」

私等に喋る時より優しげな声だな(^^;

「けど・・そないに大それたこと、ウチ・・・」

ひっきりなしに咳をしながら・・・ぐずっている。

元結を解き前髪も解いて、髪結い道具から梳き櫛を取り出して本格的に髪を結い直し始めた幸が、

「そりゃ、事前に何も聞いてなきゃ戸惑うわな」

首に下げていた木札を外してよこす。
それを受け取って、声のする方へ。

薄暗い納戸の奥には、寝巻き姿の垂髪の・・・。

「照葉さん?」

手前に居たお夏さんが振り返りながら場所を開けてくれた。
積み重ねられた朱赤や金糸の入った布団の壁に縁取られて、まるで古い肖像画のような佇まいでその人はそこに居た。

やつれてはいたけど、きれいな人だった。
色白細面で目がパッチリと大きく鼻筋が通っていて口元の品の良い、薄暗い中でも顔立ちがはっきりと判る。

沖田さん、面食いかぁ?(苦笑)と思ったのを覚えている。

なで肩で見るからに小柄。
なだらかな弧を描く眉がやさしそうで、もの寂しげで薄幸そうな・・・京美人というヤツ。

「驚かせてごめんなさい。沖田さんの名代で来ました・・・」 


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