もう50年ほど前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。

表情以上に、斎藤さんの声は落ち付いてる。
というか、抑揚が無い。
感情が読めない。

どういうこと?
と、話の先が気になりつつも、障子戸を元の通りに・・・じゃなく、半分だけそろそろと閉めてしまったのはたぶん、見てられなかったから。

否、見られたくなかったから。

緊張感に居たたまれなくなった自分の情け無い顔を、見られたくなかったんだ。たぶん。
さっきみたいな、・・・あの、出会い頭に飛び退って逃げ出すような訳の判らない行動を、もしまたやっちゃったら。
そう思ったら、恐くて姿を隠したくなった。

だから、あの人から自分の姿が見えないように、でも話の続きは気になって、半分、障子戸を閉めた。

手にしたままだった飯茶碗を戸棚に片づける間にも、斎藤さんの話は続いた。

「才谷殺しの下手人が誰かは知らないが、新選組が疑われているのは知っています。一緒に殺された男が三条大橋の一件と絡んでいることも。それに、才谷と親しくしていた伊東さんが、新選組に繋がったままだったと取られているかもしれないし。下手人は左利きと言われて、それが私だと思われていることも・・・」

え?そうなの?

「才谷殺しの黒幕と疑われる三浦さんと、下手人と疑われる私を一つ所に置いて、あんたは何をしようと言うのです?それでは護衛どころか、逆に刺客を呼び込むようなものではありませんか?」

すると、こぽこぽと茶を淹れる音に被せて、ついうっかり笑ってしまったというような、まさにそんな声音で返事が聞こえた。

「嫌かね?」

なんだとぉ?
図星なのか!

思わず目の前の障子を睨む。
その向こうに居る男を。

「嫌なら・・・今すぐここから逃げても構わんぞ。姿をくらましてくれるなら後は追わん。今までの働きに免じて」

なんだそれ?!

「島津屋敷に逃げると言ったら?」

斎藤さんが珍しく冗談(だよね?)を言った。
すると土方さんは鼻で笑って、

「骸になって門前に転がることになるかもしれんな」

ちょ!

「お前程の男をみすみす仇にくれてやるほど人が良くは無いんでな」

「知ってます」

斎藤さんが笑いもせずに即答する。

無論「ツッコミ」などではない。素の返答なのだ。
場の空気が一気にヒヤリとする。

幸が戻って来て、障子戸を開けるなり私を見た。
冷たくなった両手を胸元で揉み合わせながら、障子戸に隠れて聞き耳を立てていた私を。
強張った頬をして一瞬見つめ、そのまま目を離さずに土間へ降りて、静かに障子戸を・・・全部閉めた。
あの会話をすぐ傍で聞きながら、取り乱さずにお茶を淹れて戻って来るって、その精神力って凄いと思った。


「アンタは伊東さんの残党を潰したいのでは?」

「それはそうだ」

「では何故、ここを放棄して別の罠を・・・いや、一度はバラした土佐浪士向けの罠を再び組み直そうというので?」

一度はバラした罠・・・というのは斎藤さんからの謎かけだったように思う。
そんな調子の声だった。

意味は判らない。
何がしか知っているかと幸を見たら、首を横に振られた。

しばしの沈黙を置いて、

「まあ、日々刻々と状況は変わるってこった」

何故か満足げな様子で(笑ってた?)土方さんが答える。

「いったい誰に気を使ってるんです?」

「さあ、・・・誰かな」

ふふっと笑った。

またしばし沈黙があり、

「判りました。ではこうしましょう。伊東さんを直接殺った人物は誰なのか、訊ねても宜しいか」

斎藤さんは何を考えているのか。

「大石鍬次郎だが」

聞いてくすっと笑ったのは斎藤さんの方で(謎)。

「それは残った御陵衛士達も知っていることでしょうか?」

「おそらく。もしくは・・・今から噂を流させても良い」

え?どういう意味?

「では大石くんも天満屋に詰めさせたらいかがでしょう?さすれば大分手間が省けるのでは?」

・・・え?

ええっ?

見合わせた幸の目にも驚きの色。

「なるほど。大いに」

平然と返事が返るのと、障子戸を開け放ったのは同時ぐらい。

「何言ってんの?斎藤さん!」

ついこの間、殺し合ったかもしれなかった人と一緒に仕事をしようだなんて!

自分の仲間を殺されてあんなに恨んでいたじゃない。
皆殺しにすることは無いと激怒してたのに。
ネズミ捕りの餌に甘んじる私を、そうさせる男を、なじってたのに!

今度は自分が、自ら望んで同じことするなんてどうかしてる!

「いいんだ。構わん。覚悟は出来てる。いや、出来たんだ」

こちらを見る目が、微笑むように穏やかだ。
穏やか過ぎて・・・意味不明だ!

彼の中では既に何かが切り替わっていたのかもしれない。

「覚悟」なんて、私には理解できない類の代物であることには間違いなくて、だから彼の胸の内なんて想像もつかなかったけど。
いつどこでどんな風に切り替わったかなんて、全然理解できなかったけど。

「アンタのおかげかもな」

え?
なにそれ?
判んないよ。
私、何もしてないよ!
なんで?

「お前、コイツに何かヘンなもの食わせたんじゃあるめーな?」

冗談とも本気ともつかないことを言って上座のオヤジが鼻で笑った。


訳が判らなかったのは・・・たぶん私だけだった。

幸は斎藤さんの復帰を喜ぶことはするけれど、意識的になのか話題に深入りするようなことは無く。

理解できない私がおかしいのか。
それとも、それは幸も同じで、単に今ここではそれには触れずに居ようということなのか。


戸惑ううちに、衣擦れの音をさせて土方さんが立ち上がった。

話は終わったということなんだろう(いつも勝手に判断するヤツ)。大刀を手にして縁側へ出て行く。
ここんとこずっと制服のようになってしまっている紋服の、新調したばかりのような縞の袴に冬日が当たって、絹地の照りが見てとれる。
大刀を腰にしながら、首だけ斎藤さんを振り返り、

「ああ、そういやぁ昨日お前の言ってた短筒な、監察に言って手配中だ。じき手に入るだろうから扱い方を教えてやってくれんか。天満屋へ行くのはそれからでいい」

「えっ」

と声が出たのは私。
斎藤さんは上座に向いて正座していた片膝をちょっと後ろへ引いて振り返ったぐらい。

明日からでも天満屋へ行けって、さっき言ってなかったっけ?
私にピストルの扱いを教えてからで良いって、しかもそのピストルはまだ手に入って無いって・・・。
それってまだかなり時間があるってことで。

散々意地悪く斎藤さんの復帰をせっついたくせに、ケロリと前言撤回してみせて・・・幸を苦笑させた。

〈試したな副長〉

って、あとから笑ってた。


「承知」

浅く会釈する斎藤さんの口元にも苦笑が見て取れたから、きっとその意図は伝わったんだろう。

ふん、と機嫌良く、満足げに鼻で返事をして雪駄を突っかけるのを呆然と見ていたら(だっていろいろ訳判らんし。斎藤さんのことが気になってた)ふいに脇を小突かれた。
幸がカール睫毛の瞼を見開いて、

〈ホラ!何してんの!〉

アゴで外を指してる。

外。
つまり・・・あの人のこと。

彼女が何を言わんとしているのかすぐに思い出しはしたけれど。

〈ええ?マジで?〉

と寸の間躊躇。
あわよくば、さっきのは冗談で済ませたかったのに、

〈まさか逃げるんじゃないだろうなー〉

と薄色の目が睨んでいる。
ヤダ幸ちゃんホンキ出すと怖い。

〈ほれ早く!〉

と小突かれつつ、勝手口から転がり出た。
その流れで・・・というか、そんなタイミングで呼び止めたら、相手がちょうど木戸を出たところ。

斎藤さんの居るところで立ち入ったことは聞けない、という気はするのでまあまずまずのタイミング。

・・・ていうか、そんなこと考えてる場合じゃない(汗)。
こちらも木戸を出る。

「なんだ」

こっちに向けた顔があからさまにムッとしてる。

さっきは機嫌良さそうだと思ったのに、なんで私にはそんな不機嫌そうな顔をするかなー。

うんざりして来た(--;

道の真ん中に立ちはだかる感じで立ってて。
腕は懐に入れているのか、着物の胸元が下に引っ張られて、肩が張ってるのが目立ってる。
紋付着てても足袋は紺足袋で、雪駄の鼻緒が白黒の細縞・・ってね。
袴とコーディネイトかね?

「な・ん・だ?」

と、せっつかれ。

あ。

と我に返る。
脳みそが現実逃避してたわ(^^;

慌てて喋ろうとして、

「・・・」

あれ?
なんだこれ?
なんか胸につっかえる。

と思って。

一瞬言葉が出なくて。

大きく深呼吸したのは・・・向こうの方だった。
聞えよがしに大きな溜息をつき、ふいっと踵を返してしまう。

ああっ!行ってしまう!
なんか喋れ自分!

「こないだのさぁ・・・」

わ!言うに事欠いてこの間のことかよ!

って、自分で自分にツッコミ入れたよっ!
何やってんだ私~!

案の定、相手はピタッと地面に張り付けられたように足を止めた。

・・・背を向けたまま。

やばい!やばいやばいやばい!

とは思ったけど、「こないだ」って言ったからには・・・こないだの話だ(滝汗)。

「あー、えーと。あの、大騒ぎしちゃった割には何でもなくてあの・・・」

なんだ?動かないぞ?
足を止めただけで、相手は振り返らない。
たっぷり髪油を使って結い上げた結髪の髻が、陽を受けて白く光って見える。
もう陽も高くなって来てた。

何もリアクションが返らないので言葉の後を継ぐ。

「山崎さんを寄こしてくれてありがとう・・・」

すると深呼吸をひとつするぐらいの間を置いて、何事も無かったように彼は再び歩き出し・・・。

「ちょ!」

と声を出したのは幸だ。
勝手口から木戸を透かしてこちらを窺っていたらしい。
その声に押されて、こちらも体が動いた。

「ま、待って!」

またピタっと相手の動きが止まる。

が、さっきからこちらを見ないのはなんでだ?

と、ちょっとムっとしたのがきっかけで。

「ちょっと酷くない?こっちはお礼言ってるのにそっちは何にも無しって」

つい言っちゃった。

そしたらようやくリアクションが返った。

「ふん」

と鼻を鳴らし、くるりとこちらを向いて、

「俺に土下座でもしろと?」

と来たもんだ。

ダメだ。

憎々しげな眉間の皺が。
憎々しげなへの字口が。
憎々しげな言い様が・・・。

ごめん幸ちゃん、もうダメだ。

どっかーん!(←怒気が噴火する音)。

「ちょっと訊きたいことが有ったんですけどー」

と頭に来て喋り出すのと、わー!やめろ!今はやめとけ!と脳内パニック起こすのとは一緒だった。

「今回の件でさ、たまたまこういう結果になったわけだけどー。最初はあなた、斎藤さんが私をここから連れ出すように仕向けたんでしょ?それってどゆこと?」

違うー!そんなこと訊きたいわけじゃないー!と思いながら、口が勝手に喋ってる。

「あ?」

と涼しい顔で(整った顔立ちがそう見えるだけかも)訊き返したのは、マジで私の言ってる意味が判らなかったのかもしれないし。
・・・でもとぼけてるようにも見える!

「だーかーらー。斎藤さんが自分の思う通りに動いた褒美に私をくれてやろうと企んだでしょ?って訊いてるのー」

やめろ!やめとけ!そんなこと訊いてどうする!

「なんだと?」

「とぼけないでよ。どういうつもりなの?勝手に何やってくれちゃってんのよ。なんでアタシがアンタの仕事の景品にならなくちゃいけないのよ!」

違う違う!そんなこと言いたいんじゃない!こんな展開は望んで無い!

「斎藤さんにだって失礼でしょ!私はモノじゃないんだから。この仕事こなしたらコイツやりますとか失礼よ。全く勝手なんだから」

「はあ?何の言いがかりだ?俺にはとんと判らねぇな」

「だからとぼけないで。証拠が出ないように上手く立ち回っただけでしょ?判ってんのよ。要領良いのは得意技よねぇ?ずる賢いとも言うわね」

わー。誰か止めて~!

「誰に向かってものを言ってる」

うわっ!
ほら見ろ怒り出したじゃないかー!

「勝手に話を作ってるのはお前の方だろ。駆け落ちしたかったのはお前の方ではねぇのか?籠の鳥から抜け出せるものな。だが残念だったな。ひとつ屋根の下に五日も暮らして何も無ぇとは恐れ入ったぜ。手前に気のある男一人釣り上げられねぇのかお前ぇは。いっそ情け無ぇ」

・・・呆然(ていうか、喋りが早過ぎて理解するまで時間がかかった・爆)。

な、なんだってぇ~!!

つい本気で怒る。

「そんなこと関係無いでしょ!」

「色気の無ぇにも程がある」

そこで初めて、くすっと笑った。

整った顔だけに、そんな笑い方すると性悪にしか見えない。
カーッと頭に血が上った。

「うるっさ・・・!何よ!今そんな話してるんじゃないでしょ!」

すると今度は矛先を変えて来て、

「やくざものでもあるめぇし、襦袢代わりに寝間着の上から着物着てんじゃねーよだらしねぇ。ババァみてぇに着膨れやがって。その妙ちくりんな頭も・・」

はっとして、頭に手をやる。
ぐずぐずになってる。
寝起きに適当にお下げにしたまんまだった。

ていうか、・・・朝ごはん食べたらちゃんと着替えて身支度するはずだったのに・・・。

「専属の髪結いまで付けてやってるってぇのに毎回毎回なんだそのザマは。前にも言ったが、お前の支度にゃ少なからず金がかかってる。それなりの格好をしてしかるべきだろう?ま、土台は器量の問題だからな。そこまでの期待はしないでやる。見れるような格好にはしとけ」

私の格好に金がかかってる、というのは、休息所の経費は新選組から出てるって意味だ。
確かに前にも言われてた。

器量云々は余計な話だが、ここまではっきり身なりについてダメ出しされたことは無かったので、・・・ちょっとショック。
じわじわ凹む。

「小夜さん?」

「大丈夫です!小夜は大丈夫・・」

言葉が返せなくて静かになったせいか、外野の声が聞こえて来た。
斎藤さんと幸が揉み合ってるっぽい・・(^^;

「小夜あんた何やってんの!そうじゃないでしょ!」

幸は小声のつもりだったかも。

でも土方さんにも聞こえてたんだ。
さっと顔を顰めて舌打ちをし、

「お前の声がでけぇからだろバカ」

話を聞かれていたのを私のせいにしてさっさと帰ろうとした。

どうしよう。
行ってしまう。

本当に訊きたかったことは、まだ訊けてない。

「ちょ、ちょっと待って」

物凄く勇気が要ったのに。
胸のつかえが邪魔をして、それを飲み込んで言葉を発するのが。
なのに。

「いったい何なんだ。鬱陶しい」

腹立たしげにそう言って、首だけ横を向いて立ち止まる。
横顔にさえ顰めた眉が見てとれて、投げた視線に険が有る。
拒絶感半端無い。

そんなに嫌なのか・・・。
そんなに・・・、そこまで嫌そうな言い方しなくったって・・・。

と思ったら。

なんだかもやもやして来た。
もやもやっていうかむしゃくしゃっていうか。

あれ?
なんか、・・・泣きそう?!

うそっ!
やばい!
なにこれ喋れない!

じれた相手が再び歩き出した。

「俺は時間が無ぇのだ。お前なんかに構ってる暇は無い」

ガツン!と音がしそうなくらい、言葉当たりがキツい。

でも、いつもならそうは思わないのに。
何故そう感じるかは・・・判ってた。

あの時。
あの時のことだ。
自分が傷ついたつもりでいたあの時。
邪険な仕打ちがショックで、悔しくて、涙が止まらないんだと思ったあの時。

本当は、傷ついたのは私ではなく、この人だった。
傷つけたのは、私だった。
それが、・・・怖くて。

取り返しのつかないことをしてしまった自分が情けなく、邪険な拒否反応が哀しくて涙が止まらなかったのだと、・・・斎藤さんに言われて初めて気が付いて・・・。

そう、あの時泣いたのは自分が傷ついたからじゃない、傷つけたからだ。
自分が加害者だったから。

だから。

今朝、顔を見たとたん胸が詰まった。
逃げ出してしまったのはそのせいだ。

なのに今、忙しなく他の話で間を詰められて、既にそんな事も無かったように振舞われてしまうのがなんだか威圧的で。
もうその話はするな、と、また言われてしまいそうで。
だから余計、言葉が胸につかえる。

躊躇する間にも、スタスタ雪駄を鳴らして行ってしまう黒い背中。

今更謝ったって無理だよね。
きっと忌々しくて、私の顔なんか見たくないんだよね。

私、どうすればいいんだろう・・・。

やっぱり居なくなった方がいいのかな。
ここはあの人の家なんだし。

「あたし、ここに居ちゃっていいのかな・・・」

独り言なら涙声にならずに言えた。

聞いてもらえなくとも、口に出して言ってみただけでも、ちょっとは気が済んで。


・・・ってあれ?

立ち止まった・・!?

「何?」

・・・!

聞こえてたーっ!(汗)。
もう7、8メートルも先に居るのにっ!(地獄耳?)。

でも振り返った眉がまだ顰められてて。

「なんだと?」

二歩三歩、戻って来ながら訊き返されてうろたえた。

「あ、・・・えっとあの・・・私はこのままこの家に居てもいいのかな?って・・・思って・・・」

しどろもどろ。

「だ、だって私、斎藤さんと一緒に出てった方が良かったんでしょ?ホントはそう思ってたんでしょ?でも斎藤さんは新選組に戻ることになったわけだし。だから私・・・」

出て行く、とは・・・自分からは言えなくて。
心に無いことを言葉にするのは、とてつもなく気力が要って。
胸がつかえて言えなくて。
だから、

「あたし、ここに居てもいいのかな?」

目を見れなくて下を向いてた。

黒い地面に、雪駄の先だけ見えていた。

・・・。

・・・。


・・・ん?


返事が無いんだけど・・・?

恐る恐る目を上げた。

細縞の鼻緒、両子持ち縞の袴、鉄色の平打ちの羽織り紐。
懐手は解いていた。
両手とも、黒羽二重の袖から出てる。

顔を見た。

ポカンとしてる(ように見えた)。

目は若干見開いて、困惑してるっていうか(目元の造詣が整っててちょっと見惚れる)。
眉はやっぱり、ちょっとだけ顰められてて。
口は、ちょっと開き加減で・・・?

って。

わ!
どーしよ。
固まってるよ、この人!

うそ!
なに?
それって・・・どういう意味?

こっちも驚いた顔になっちゃったのに違いない。
たぶんそれに気付いたんだな。

ふと瞬きをして、それからゆっくりと口が閉じられ、何か憤然とした顔つきになって行き・・・。

「勝手にしろ」

怒鳴られるかと思ったのに、構えたほどの音量じゃなかった。
むしろ静かな言い様だった。

ええっ?

と思った時には既に踵を返し、さっきよりもスピードを上げた歩調でスタスタ歩き出してて。

取り付く島が無かった。
途方に暮れた。

勝手にしろ・・・って。
そんな言い方されてもさー・・・。
どうしろって言うんだよー。
どうすりゃいいんだよ。
だって、だって「勝手にしろ」ってさぁ、それって出て行っても行かなくともどっちでもいいってことで、つまりは五分五分なわけで、それであんな投げやりな言い方ってことはさー、五割以上「出て行けー」なニュアンスなわけじゃん?

ていうか。

やっぱり怒ってたな・・・。

と、ぐるぐる考えてたらみるみる凹んで来て。
ほとんど泣きそう。

きっと後から幸が見てるに違いないので、まさか泣きはしないけど。

泣きそうな顔になってるのは自分でも判っていたので立ち尽くしたまま動けないで居ると、大通りへ曲がる手前で土方さんが立ち止まった気配がした。
おや?と顔を上げたら、鋭く舌打ちが聞こえて(凹)。

「オイ!」

うわ。今度こそ怒鳴られる。
身構えた。

「手前ぇはこれまでだとて勝手に居ついていたのではねぇか。これからだとて同じだ。何も変わらん!」

!?

え?なに?
と思う間に、忌々しげな溜息が聞こえ、

「好きにしたら良いだろ!」

えっ?

・・・えっ?

それって・・・どういう意味?

パニくった。

「そう神妙にされたら面喰うだろバカ!」

捨て台詞を吐いてプリプリ怒りながら、通りの向こうへ消えて行った・・・。

呆然。


「副長、何だって?」

うわびっくり!
幸が来てた。
後から掛けられた声が・・・笑ってた。

私は何が何だか・・・頭の中が整理出来てなく、

「怒られた」

確実に判ったことだけ口にした。

彼の去った跡から目を離せないまま。

「ばかって。好きにしろって。言われた・・・」

「ふふん。なるほど。素直じゃないねぇ。素直じゃないけど・・・正直な人だねぇー」

ポンと肩に手を載せて来たのを見れば楽しそうに笑ってて。

他人事だと思って面白がってんな。

「・・・何それ?どういう意味?」

ツッコミ入れました。
論旨が矛盾してるだろ。

そしたら。

「え?なに?まさかアンタ判んないの?」

わざとらしく驚いて見せ、それからからかうように、

「今まで通りここに住んでて良いってことでしょ?」

ニンマリ笑って見せた。

・・・。

まあ、そりゃそういうことかも、とは思ったけど。

「そう解釈していいのかな?」

イマイチ信じられない。自信が無い。

幸は呆れたように肩をすくめ、

「はー。ここにも居たか。素直じゃないヤツ」

踵を返して庭に戻って行く。

「・・・ていうかニブイ!」

とか言ってるのが・・・聞こえてんぞ(--メ

でも、それが私への心遣いだとは判っていて。有り難くて。

「どうでもいいけどそろそろ昼飯の準備始めないとなー。小夜アンタ何食べたい?」

普段と変わらぬ声音が庭に響いて、安心感がどっと押し寄せて来た。
泣きそうになるのを我慢して溜息が漏れそうになったのを、

「う~っさぶっ!」

っと誤魔化した。

身を縮こめて、冷えた二の腕をさすりながら、あの人が消えた路地の門口からいつまでも目を離せずに居た。


スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。

COMMENT FORM

以下のフォームからコメントを投稿してください