もう50年ほど前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。

徳川脱走軍の艦隊が、伊達領の半島に点在する小さい浜のひとつから蝦夷地に向けて出港した直ぐ後のこと。

烏組の細谷十太夫さんの口からあの人のことを聞いたんだ。

十太夫さんは徳川脱走軍のことがあまり好きではなく、土方さんのことも最初から・・・嫌ってたと言うか接触するのを出来るだけ避けてた風だったんだけど。

蝦夷地渡航のため石巻に集結していた脱走軍(&同行の諸藩脱藩兵)に、必要な物資を手配供給するのがその頃の彼のお役目で、その関係上否応なく土方さんと口を利く羽目になったらしい。

「アンタは行かんのか?」

と、思いがけず渡航に勧誘されたんだとか。

お互い、相手のことは人づてに聞いて知っては居たみたいだ。

唐突な誘いに、というか、いくら年下だからとて他家の歴とした家臣を捕まえて「アンタ」呼ばわりされたのにムッとして、

「武士が国を捨ててどうします」

とバッサリやり返したそうな。
会話する気は無かったみたい(^^;

無礼な言い方だったはずなのに、土方さんは気にする様子も無く、

「御同輩は行くと言ってるぜ?」

額兵隊の隊長のことを引き合いに出した。

額兵隊というのは新式の銃を装備した伊達藩の銃隊のことだ。
藩からの武装解除命令を無視して、蝦夷地へ逃走しようとしていた徳川脱走軍と行動を共にしていた。

「あの御仁は手前方とは違う。東照宮の神職が権現様を担ぐお人方に同調するのは不思議じゃない」

権現様って・・・徳川家康のことねv

「なるほど道理だ。だが、アンタの様な使える男を置いて行くのは惜しいことだな。どうだ、今はダメでも後で気が変わったら追いかけて来ないか?いつでも受け入れるぞ」

・・・ホントにそんな言いっぷりだったんだろうか・・・(--;
だとしたら土方さん、相当機嫌良さげなんだけど・・・。

この時点で細谷さんはその問いをしつこいと感じたようだ。

「有難いが余計な御世話ですな。先も言ったが、俺は自分の国を捨てる気は無い」

おお!
余計なお世話とは強気の発言v

「逆賊扱いされてるのにかね?」

伊達藩が明治新政府軍に降伏宣言してから既にひと月近く。
つまり、現時点で徳川家を脱走した家臣団を手助けする伊達藩士は逆賊ってことになる。

「生憎、藩庁に追われてはいても周りの百姓町人が味方してくれるんでサ。これまでだって散々迷惑かけてしまったものを、この先あいつ等がどんな扱いを受けるか判らんのに国を捨てて出て行くなんざ俺には出来ねぇ相談だ。無責任に過ぎる」

細谷さん、町の人達には人気があります。
特にこの石巻では特別知り合いが多いみたいで、町を歩くと必ず「良いネタ入ったから呑んで行きな」とか「今晩待ってるわv」とか(笑)、あちこちから声がかかる。

「羨ましいことだな」

と、言われたそうだ。

町方に人気だということに対して?

細谷さんはそれを皮肉と受け取った。

「徳川直臣が何を仰る。お家の事情に縛られて戦を続ける意気地も無ぇ小せぇ奴等だとでも思ってなさるんでしょう?だが俺等はね、この国の民百姓によって生かされて来たと思ってる。奴等無しには俺等は無いんだ。この国を潰す訳にはいかん。アンタ方の権力争いに巻き込まれるのは不本意です。陪臣には陪臣の生き方がある」

「だから羨ましいことだと言ったのさ」

思いがけず穏やかな物言いに、皮肉ではないと判ったと。
でも、どう反応して良いか判らずにいると、

「見ろ。禄を失った侍どもが行列して蝦夷ヶ島に逃げて行く。ザマぁ無ぇ」

沖に停泊する船へ艀でピストン輸送される兵卒達の群れを横目に見やって言うのを、

「アンタもだろ?」

って思わずツッコミ入れちゃったって。

明日には蝦夷地に発ってしまう相手。
もう顔を合わせることも無いし、今更機嫌を損ねても痛くも痒くも無い。

すると土方さんは苦笑しながら、

「まあな。だが俺は直臣と呼ばれるのもこそばゆいぐらいの俄だ。もとは武州は多摩の百姓さ」

って言ったって。細谷さんが驚いてた。
そうなのか?って。
知らなかったみたい。
なので、そうかも。と答えといた。
以前そんなこと聞いたことがあったような気はしたけど、私自身あまり気にしたことはなくてうろ覚えだったから。

それから土方さんは、

「アンタ等のように代々国を治めてきたと言う訳じゃあないが、自分の土地を荒らされる気持ちは判るつもりだ。侍同士の戦のせいで百姓町人が痛めつけられるのを見るのは、大概俺も嫌になっていたところだった」

ってしみじみと言ったって・・・。

百姓の気持ちが判る、と言っちゃう二本差しなんておそらくあまり居ないんだろう。
しかも俄と卑下してはいても、相手は徳川家の元家臣(=旧幕府の直臣)には違いない。
それまで相手に持っていたイメージと違っちゃて、戸惑いながらもつい、

「しかも田舎侍どもに気兼ねしいしい、だろ?」

イヤミで返した(っていうか自虐?笑)。

そしたら今度は、

「国を追われる気持ちも判る・・・」

と、徳川の旧臣達に感情移入する風で。

「捨てる」のではなく、「追われる」・・・。

そんなことは考えたことも無かった、と細谷さんが黙って居ると、気を取り直したように明るい口調になって、

「だがどうだ。治める国が無いなら作ればいいと言い出す御仁が居ってな。自ら国を作って民草を育てるのだと。俺は今まさにその御仁の尻馬に乗って、これから己が治むべき国を獲得しに行こうというところなのだ」

わざとらしく面白可笑しい言い様がウザくて、クサクサした気持ちで茶化したんだと。

「あー。榎本って人はただの山師じゃねーかって噂ですぜ」

笑。

土方さんも笑ってたらしい。

「そうだな。だが、面白そうだとは思わねぇかぇ?」

思わせぶりな笑いを訝しく思ったそうな。
そしたらば。

「思う存分戦えるんだぜ?お歴々に気兼ねも要らず清々とな。虫の好かねぇ薩長のイモ侍どもを良いだけ叩けるんだ。どうだ?心惹かれるだろう?」

って(笑)。

ニィーっと笑う土方さんのドヤ顔が・・・羨ましいやら憎々しいやらで、

「くそ~!」



・・・と、目の前の細谷さんが雄叫びを上げた。

「俺だってなー!武士と生まれたからには思う存分戦がしたいんだっ!笑い事じゃねぇ!白河口や相馬口での仇が取りたい!俺こそ取りたい!アイツ以上になっ!」

鼻息荒っ!

いや、気持ちは判るけども。

その場で口から出かかったそうだ。
でも、言わなかった。
我慢した(笑)。

だって、言ったら相手の思う壺だもの!

「行かねって!俺は行きませんぜ。代わりに星さんを可愛がってやってくんなさい」

苦し紛れに額兵隊の隊長さんを押した(笑)。

「忠狂ってぇ名前の通り、やることに度が過ぎて困りもんだが散兵の腕は確かですぜ。あの人の所は装備も良いし。何しろ我が殿松平陸奥守様の虎の子だ。大事にし過ぎて此度の戦じゃ出番は回って来なかったが。ナニ、体に似合わず胆の太い御仁だ。初陣で怖じけることも無いでしょう」

「世話になるな。米味噌醤油にサラの鉄砲隊までか」

からかいながら苦笑する、・・・あの人の表情が見える気がする。

良い感じで会話してる。

「微力ながら。まあこっちも早いとこ出て行ってくれっていうのが本音ですからな。別に感謝されるような話じゃあありません」

「いやそれも然り。聞くところによれば、此度の物資提供は慶邦公の密命だとか?」

おおっと。
うっかりイイカンジで会話していると思ったら怖い怖い。

細谷さん、とっさに言葉が出ずノーコメント。

「恭順派に牛耳られた藩庁を欺いてまで我が方に味方して頂けるとは有難い」

細谷さん、まだ無言。
ていうか冷や汗が出た、と。
そういうことは判ってたって普通言いっこなしだろ!と、私に言ってた。

「して、ここでの差配は貴殿一人に任されているとか」

どうも言葉つきが芝居じみてからかい口調になった、と苦々しく思いながら、

「あー。まあ、なんだ、こっちには知り合いが多いもんで」

とかなんとか誤魔化すと、土方さんはますます面白がって、

「大したもんだ。お若いのに頼もしい。・・・いや、勿体ない」

白々しく持ち上げやがってイヤな奴、とイラついていると、彼はこう続けた。

「お役目が済んだらどうする?藩の許可無く勝手に徳川家脱走家臣どもの渡航に加担したってんで死罪でも申しつかるんだろう?全部アンタひとりでやったことにされるんだな?細谷十太夫ひとりに罪をおっ被せて、主人の慶邦公は口を拭うって訳・・」

「違う!言うな!」

細谷さんは御屋形様=慶邦公命!の人ですv
ソコを突っ込まれると余裕が無くなっちゃうのv

ふふん、と土方さんは鼻で笑い、

「まあ、そうでもしなければ俺達はここを退かないし、そうなりゃここでドンパチやるしかない。それではアンタの大事な国土が荒れるってことだからな。慶邦公にしたところで、知らぬ存ぜぬを通さねぇことには薩長どもに立て付いたカドでどんな仕打ちを受けるか判らんし。そうなりゃ今度は仙台が戦場になるやも・・・」

判り易く煽って↑、判り易く怒る↓(笑)。

「黙れ。アンタ方が出港した後にここがどうなろうと、アンタには関係無い話・・」

「細谷サンよ、腹でも切る気か?それとも逃げるつもりなのか?逃げてアンタの大事な殿様は責められずに済むものかね?」

そこまで煽られると逆に冷静になるのか(開き直った?)、細谷さんそれには答えず、

「戦が終わって俺は己の隊を解散せねばならん。手下どもは侍じゃない。解散するには金が要る。ここには金を工面するために来た。用が済めばズラかるだけさ」

ふーん、そういう筋書きか。
拙いながらも一応台本があるのだな、と土方さんは微笑ましく思ったかもしれない(私がそう思うくらいだから・爆)。

「それならいっそ一緒に来れば良いではないか。手下もまとめて面倒見るぞ?」

あっけらかんとそこまで言われて細谷さん、キレた。

「俺は行かねって!何度言えば判るんだっ!慶邦公の、イヤサお家の行く末を見届けるまでは、百姓どもの暮らしが立ち行くのを見届けるまでは、俺はここを離れるつもりはさらさら無いっ!」



クスっ・・・て笑ったんだって。

土方さんが。



それが無性に腹立たしくて、頭にこびりついて離れないって言って。


細谷さんは、もう少しで江戸行きの船に乗り込まされそうになっていた私と幸を探し出し、自前の間諜を送り込むついでだからって言って(!)箱館行きの船に乗れる手はずを整えてくれたんだ。

まあ、実際箱館に向けて出港出来るまでにはちょっと時間が開いたんだけど。


「気に入らねぇ。姐さん(細谷さんは私のことをこう呼ぶv)、俺ぁアンタのダンナがどうにも気に入らねぇ。人をバカにし腐って!」

二階家の障子の隙間から表を覗き見ながら面白そうに話を聞いていた幸がポロっと、

「ていうか、可愛らしくて笑っただけじゃ・・・」

おそらくあの人がしてみせたであろうクスクス笑いをうっかり再現してしまう。

キッとばかりに、細谷さんがその印象的な大きな目を剥いて睨んだ。
幸が慌てて言い直す。

「あああ、たぶん土方先生は貴方の硬骨漢ぶりを好もしく思ったんじゃないでしょうかね」

それに対してまだ何か勢い込んで言い返そうとしたのをこちらに向かせるべく、訊いた。

「それで?なんで私等を箱館行きの船に乗っけてくれるわけ?」


私は先程から手甲脚絆の旅装を解かないまま、火鉢を抱えて暖まってた。
窓を開けた隙間から寒風が吹きこむのを忌々しく思いながら、でも我々の後を付けて来る者は無かったかと抜かりなく外の様子を窺う幸に文句を言う訳にも行かずにイラ付いてた。

「ふぇっ?」

と、十太夫さんが素っ頓狂な声を出したのは、私の言い様がいかにも不機嫌そうに聞こえたからだな、たぶん。

面喰ったか、もしくはびびったんでしょう。
あるいはそういう顔になってたかも。

だってさー、私だって不機嫌にもなるわそりゃ。

今しがた目の前でウチの「ダンナ」の人の悪さを云々していたその人は、その「気に入らねぇ」相手に手間賃まであてがわれて、私等を江戸に返送する役目を請け負ってた張本人なんだよ!
気が変わったか知らないけど、いけしゃあしゃあと今度は味方になるって突然言われたって、ねえ?

それに。
ていうかこれが一番気に入らないんだけど、

「あの人ってば、私の前だとこーんな顔して」

と指で眉間に縦皺を作って見せる。

「ガミガミ言ってばかりいるのにさ。なんであなたにはそんな楽しそうにするわけ?いつもいつも幸には笑うのになんで私には怒ってばっか居るのよ~っ!!」

不意を突かれて幸がキョどる(笑)。

「ムカツくぅ~!私にはあんな悲壮感たっぷりに話しといて~!人が変わったみたいにテンション低くて。それもついこの間よ?なのに何よ!なんで今になってそんなに明るいのよ!ふざけんな!頭来るわ!」

言ってるうちにだんだん血がたぎって来た(爆)。

「アンタだってねぇ!」

と細谷さんをアンタ呼ばわりしちゃったり。
思わず立ち上がった勢いで、久しぶりに島田に結ってた髷のてっぺんが低い天井の桟に触った感触があった(!)。

「アイツに金もらって私等を江戸に追い返す片棒担いどいてさー!今更何よ!恥ずかしくないの?もらったお金どうすんの?仕事しないで懐に入れちゃうつもりなの?」

「まあまあ。そんなわけないでしょ?」

と、細谷さんの胸倉を掴まんばかりにやり込めている私を(細谷さんは強面だけど私よりも身長は低い)幸ちゃんがなだめに入った。

「もらったお金は箱館行きの船代になるんですもんね?」

って何気に釘差して(笑)。

と、細谷さんの顔つきが渋くなり、

「決まってるだろ!俺がアンタ等から金をくすねてどうするよ。あーあ、情けねぇ。追いかけて行けるんだから有難がってくれていいようなもんじゃねぇか。それが望みだったんだろう?」

「ですよねぇー」

今度は細谷さん側に付く幸ちゃん(--メ

「そりゃあ・・・有難いわよ」

後を追って行きたくとも、移動手段が無かったのだ。
それに資金も。

諦めて、送り返された江戸で仕切り直すしかないと思ってた。
でも、それでは時間がかかり過ぎる。
無駄に時間を過ごす間に、あの人に何か有ったらと思うと不安だった。

・・・何か。

何か不安な、・・・何か。


日に焼けて藍の褪めた薄っぺらい座布団の上に座り直す。
火鉢の中で炭火が崩れ、小さな火花がひとつ、羽虫のようにふわりと飛んで消える。

「だからなんで急に気が変わったのか?って聞いてるの。小遣い稼ぎをふいにしてまでさ」

「だから小遣い稼ぎなんかしてねぇって。そもそも金のためにアンタ等を江戸へ送る手助けを請け負ったわけじゃねぇしな」

「じゃあなんで?」

「気の毒だったからだろ」

「気の毒?」

「自分の女を危ない所に置いとくわけにはいかんという気持ちは男なら誰でも判るだろ。しかも自分はすぐにでも蝦夷ヶ島に発たなきゃならない。窮状を見かねて手を貸してやっただけじゃねぇか。どこがいけないんだ」

自分の女・・・だって!
誰がよ?
うげー。

「余計なお世話!」

「なんだと?」

「まあまあ」

と、また幸が間に入って、先程から立ったままでいた細谷さんを火鉢の前に促した。

「人がせっかく手助けしてやろうというのに、ダンナがダンナなら女も女だ」

ぶつぶつ文句を言うのは聞こえていたが、幸の手前、相手にしないで聞き流す。

藩庁からの追手の目を憚り、普段より地味めな着物に身を包んでいた細谷さんは、頬かむりをしていた手拭を解き、寒さに赤くなった獅子っ鼻を擦り上げながら火鉢の向こうへ腰を下ろした。
伸びた月代は未だ結うには短く、後に撫でつけられたまま。
胡坐をかいた片膝に肘を置くと、もう一方の膝がイライラと上下に揺れ出す。

「清々して戦に精出されたんじゃ悔しくてならねぇ」

は?

「そう思ったら気が変わった。なんであんな気に障る奴の楽しみのために俺が働かなくちゃならんのだ。知るか。忌々しい」

ああ、気が変わった理由ね。

「後顧の憂いを断ってやる義理なんぞ無ぇ訳だからな。代わりに憂いを送りつけてやったら面白かろう?ザマーミロだな」

アゴ髭をジョリジョリ撫でて、ようやく嬉しそうにニタリと笑った。

言ってる意味が良く判らない。

ふぅん、と幸が意味深に鼻で笑う。
障子を閉め、冷えた指先を擦り合わせながら火鉢にあたりに来る。

「どういう意味よ?」

と睨んだら、

「察しの悪い姐さんだ」

「粋な計らいってことじゃないの~。有難いねぇ」

たちまち結託する二人。

・・・。

なんだか納得行かない。

いや、箱館行きをセッティングしてくれるのは有難いけど。

「何難しい顔してんのさ?追いかけるんでしょ?」

顔中ぐるぐる巻きにしていた首巻きを顎まで下ろして、幸がにっと笑う。
絵に描いたみたいに綺麗な笑顔。

っていうか。

一緒に行く気満々だなコイツ。

って思った。

彼女には、あの人を追いかけなきゃいけない理由なんて・・・基本的には無いはずなのに。

モノ好きと言ってくれと言わんばかりの、先行きへの不安を微塵も感じさせない、明るくて愉快気な笑顔。
それが私への気遣いであるとは、誰に言われなくたって判る。
でもそれを口に出して言ってしまえば、センチメンタルにキャラ崩壊して幸の気遣いが無駄になってしまう。

だから。

「決まってんじゃん!アイツがそんなにイケイケで蝦夷地に行くだなんて許せなーい!蝦夷地に日本とは別の国を作るなんて、そんな夢みたいなこと出来る訳無いでしょ!んなことして遊んでる暇があったら早く帰って来い!って言ってやる!おゆうさんを泣かせるな!って。首に縄つけて引っ張って来る!絶対連れ戻す!」

「ヨシ!その意気その意気」


障子戸を開けると、今にも雪になりそうな鈍色の空が広がってる。
川から吹きつける木枯しが顔に痛かった。

でも、負けないゾー!と思った。

「待ってろクソオヤジ!アタシが連れ戻しに行ってやるからなー!」

と叫んだら、

「ちょ・・・!」

速攻、口を塞がれ羽交い絞めにされ火鉢の前に引き戻された。

「もー!アンタんちの庭じゃないんだから。誰が聞いてるか判らないでしょ」

徳川脱走軍が居なくなった街中には、既に新政府軍の兵卒が溢れていた。






蝦夷地へ向かう直前。

私と幸とあの人と。
ようやく平常運転に戻った気がして嬉しかった。
ホッとして、はしゃいで居たかった。

季節はもう冬。
京の町を後にしたのも、冬。

また冬に戻ったから、またあの家に戻れるような気がしてた。
もうすぐ戻れる、気がしてた。

あの人を捕まえるのももうすぐだ、と。





でも。




蝦夷地で私達を待っていたのは、それまで経験したことも無いほど長く過酷な冬だった。






            ― 了 ―
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