もう45年以上前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。

・暇つぶしにネタばらしブログもどうぞ→管理人ざんげ室 

紋服ではないが良い着物を着ている。
濃紺の蚊絣のお対。絹物だ。仕立て下ろしっぽい。
袴も紺地に細かい黒縞の仙台平。紺足袋。

新選組って金回り良いんだろうか?

そんな姿でありながら茶を淹れるのは頓着無いらしい。
つーか、茶葉の蒸らし方から湯呑に注いだ茶の切り方から、手馴れた様子ではある。

お茶は濃い目が好きと見たね。
先日最後に見たときより顔色は良いので、敵ながら(?)安堵したり・・・。

食事の片づけを終えて、座敷に上がろうと振り返ったら、長火鉢の縁板に肘を突いてお茶をすすりながら仔猫と遊んでいるのに気が付いた。
仔猫の尖った牙で自分の指を齧らせ微笑んでいる。

そこで初めて気が付いた。
猫、嫌いなわけじゃないんですよ・・・って沖田さんが言ってたの、この人のことだったのか。

でも、だったら屯所で飼ったっていいじゃんか。
猫なんて「飼う」って言ったって手がかからないのに。
この時代の猫ならネズミ駆除の役に立つだろうし、残飯やっても文句は言わないでしょうに。
その辺で適当に寝るんだし。

それにしてもこの人のこんな顔、初めて見たな。
そんな風に素直に微笑えば優しげなのに。

私が相手の楽しげな様子に見とれていたのはほんの一瞬のことで、別に咎めたわけでもなんでもない。
なのにいきなり私を睨んだ顔と言ったら・・。

・・・喧嘩売ってるんじゃないだろうな(--;。

いったい私が何をしたと言いいたいんだろ?思い当たることは何も無いぞ。
もしかしてあんたの行動を黙って見てたのが悪いってか?そうなのか?
それとも仮にそれが目を上げただけであると言うなら同情に値するぐらい目つきは悪い。

ああもうコメント不能だ。
どういう態度に出たらいいのだ。

上がり框で固まっていると、表に足音。

「失礼仕ります」

山崎さん。
気配を察して武家言葉。
それでも地獄に仏には変わりない。


奥の座敷に手あぶりを置いてお茶を淹れ、下がっては来たけれど・・・(居室は)二間しか無い家だもの、話し声が聞こえるのは仕方ないじゃん?
それを、

「そんなとこで聞き耳立ててやがると痛い目見るぞ」

あーくそ!腹立つ!
なんで私があんた等のつまらん話なんか聞くかぁ!!!

・・・と怒鳴ったら山崎さんが叱られそうなので我慢。
ついでにコタツを蹴り付けても火事になるので我慢。

この場に居られないんだし、留守番(ヤツラ)が居るんだし、猫を連れて外へでも遊びに行って来りゃストレス解消になるかな、と仔猫を呼ぼうとした時だ、コペルニクス的名案が頭に閃いた!

猫の名前、「トシ」にしよう!

ぎゃははは!私ってなんて頭が良いのかしら!

「トシィ、どこ行ったの?出ておいでー」

ガタっと奥の間の襖が鳴った(ような気がした・笑)。

「外に遊びに行こうよ。トシってばぁ」

話し声が途切れてる。いい気味!

ウチの主人である土方歳三が、ごく親しい仲間内でトシとかトシさんとか呼ばれてることは幸から聞いて知っているし、私も一度だけ近藤局長がトシと呼んでいるのを聞いたことが有る。

そんな名前を猫に付けてどうするかって?

「あら?トシったらここに居たの?きゃー!ダメじゃん!トシってばそんなとこにオシッコしちゃ!うわ!くさっ!もうやだー」

オシッコ云々はもちろん嘘。
これぐらい楽しまなくちゃストレスは解消しないもんね。

「トシったらもうお痛しちゃダメでしょ。こんなにカワイイのに」

きょとんと首を傾げる仔猫の姿はほんとにかわいいので、

「トシってかわゆーい!」

抱きしめてくしゃくしゃにしてたら、

「うるせぇ!!!」

スパーン!と勢い良く襖が開いて、真っ赤になった土方さん、仁王立ち。

「あら?聞こえてました?」

と私、にーっこり。
予想通りの展開。

が、そう上手く行かないこともある。

「そんな猫捨てて来い!」

「やだー!私の猫なんだから」

「貸せ!俺が捨ててやる」

まあまあと山崎さんが後からなだめるのを振り払うように、悪魔の(?)手が伸びてきた。

「ちょっとナニすんのよ!」

畳に伏せるようにして猫をかばう。
が、怯えた猫が暴れた。

懐から飛び出したのを、魔の手がつかんで、あろうことか庭に向けて高々と放ったではないか!
思わず悲鳴をあげたが、子供でも猫は猫、体勢を整えて着地・・・したまでは良いが場所が悪い。
井戸の縁。

「信じらんない・・・」

何てことをするんだろう。
先程微笑みながら猫をじゃらしていた人のやることなのか。

「猫だぜ?」

フンと、相手は私の非難を鼻で笑っている。

だがとりあえずこっちはそれどころじゃあない。

「ひー。やだー。アンタそんなとこで足なんか滑らせないでよ」

驚かせないようにそろそろと井戸に近づく。
仔猫は無邪気に井戸の縁を軽やかに渡って来るが、多少ヨタヨタしているのは目を回しているからなのか。

「きゃー、じっとしてて!」

ぴょん、と猫が跳んだ。
心臓が止まりそう。
危ない!と思って最後の一歩を私も跳んだ。
井戸の中に子猫が落ち込むのをかろうじてキャッチ!

眼下に暗い水面が見え、吊り下げられた豆乳入れの貧乏徳利が揺れている。
全身から汗が噴出した。

「あーもう、しーんじらんねぇ・・・」

げっそりしながら半身を起こそうとした時だ、体勢が悪かったらしく下駄が滑った。
腰から上、上半身を井戸の中に突っ込み、井戸端にぶら下がるようにして足を踏ん張っていたのだからたまらない。
地面から足が浮いたんである。
井戸の縁につかまろうにも両手で猫を抱いていた。

「ひぇぇっ!」

バランスを崩しながらもとっさに猫を外に放り、その手で釣瓶をつかんだのだが、なんの頼りにもなりはしない(当たり前だ)。
多少の反動で体が仰を向いただけだった。

仰向けにひっくり返っていく時、一緒にガラガラと滑車が回るのが見えた。

落ちる!

思わず伸ばした手の先に、黒い影が見えたと思ったら体が止まった。

「・・・っこの馬鹿!」

土方さんは怒りまくっていた。

腕を捕まえても既にまっさかさま状態で重心は井戸の中。
腰から下までもがズルズル引き込まれていくので焦ったのかもしれない。
自ら井戸の中に身を沈め、すくい取るようにしてかろうじて抱き止めたのだ。

瞬間、しがみついた分厚い肩がほうっと溜息をついたように思うが定かではない。
安心して涙腺が緩むにまかせて泣き出してしまったからだ。

「オイ!馬鹿!やめろ!こんなところで泣くな!」

って言われたけど、止まらなかったんだもん。
確かに井戸の中で大泣きしたら共鳴して自分でも耳がキーンとなったけどな。

「やかましい!耳元でびーびー泣くな馬鹿者!」

助け起こされて地面にへたり込みながら泣いている私に、彼は悪態をつきまくり、その後小言を嫌と言うほど食らったが、負けずに泣き続けてやったので最後はあきらめて放って置かれた(^^)v




「幸はん、小夜はんの様子、見たってや」

副長と時間差で屯所に顔を見せた山崎さんが申し訳無さそうに耳打ちして来たのは、もう日もとっぷりと暮れて、八木さんちへ引っ込もうと屯所を出てから。
なので経緯は大体聞いていたのだが、翌日本人の口から有体に聞けばこれもなかなかすさまじい(^^;。
私は居なくて正解だったな。
騒ぎに居合わせた山崎さんは気の毒と言って良い。

「そりゃ大変だったねえ」

「そりゃもう大騒ぎってヤツよ」

と、小夜のヤツったら山崎さんの手土産の粟おこしをボリボリ食べながらケロリと言ってのけたので、呆れてお茶を噴きそうになる。
大泣きしたと言う割には泣き腫らしたような顔でもない。

「でも、猫は飼っても良いことになったんだね」

仔猫はコタツの上。
小夜のお下げの先っちょにじゃれついている。

「うん。私がびーびー泣いたからさー。あきらめたみたい」

「それって確信犯じゃん?」

「そうとも言う」

ひでぇ。
笑っちゃう。

「副長カワイソー。沖田さんの言う通りだったな。ってか副長、あんたには文句言わないんじゃなくて言えないし!」

「何言ってんの。私だって始めっからウソ泣きしたわけじゃないんだから。ホントに恐かったのよ、落っこちるかと思って」

抱き止められた時は井戸の縁から裸足の足しか出てなかったって、山崎さんが言ってたっけ。
さすがの副長も肝を冷やしたか、座敷から足袋のまま跳んで出たらしい。
足をつかんで引き上げた時、湯文字の赤が眩しかった・・・ってそんなドサクサに山崎さんたらもう(^^;。
白くてキレエな脚やったなァって鼻の下伸ばしてたんだが・・・小夜には言わずに置く。

彼女は口の周りをおこしだらけにして、興奮気味に喋り続けた。

「だからホッとして泣いちゃったのよ。・・・最初はね。でもそのうちなんか雲行きがヤバくなったんでそのままわんわん泣き続けたってわけ。叱られるのヤダしー」

肝を冷やした、否、冷やされた副長が腹いせに怒り出すっていう状況は想像に難くない。
てか、目に見えるよう。

あー、おっかねぇ。
マジで居なくて良かったわ。

それにしてもそんな人の前でウソ泣きしたあげくケロっとしてるんだから、小夜ってたいしたもんだな。

つーか、わざと泣けるなんて女の子だなぁ。
私にゃ一生できそうもない。

「それに、こっちだって譲歩してるのよね。この子の名前、他のに変えろって言われてさ」

そりゃそうでしょう。
猫と同じ名前なんてあの人が我慢できるわけがない。

「そいで?なんて名前にしたの?」

「あんまし変わんないよ。副長だもん」

・・・へっ?

「フクチョー。かわいいでしょ?」

・・・それってなに?
・・・マジ?

同意を求める彼女のクリクリしたいたずらっぽい目がひどく御満悦で・・・何も言えない(爆)。
願わくは副長同意のネーミングであると信じたいが・・。

・・・んなわけ無ぇよな!!!

「フクチョー・・ねぇ・・・」

またひと波乱有りそうではある(タメイキ)。


コタツの上からぴょんと跳ねて、タトタト近づいてくる仔猫は毛並みもキレイで可愛らしいけど好奇心旺盛。
人の指をかじる仕種はなかなかきかん気。

「でも結構似合いの名前かもしれないね」

近藤局長もそろそろ江戸から戻る時期らしく、新入隊員の受け入れ準備で副長は当分ここへは来れそうもない。
その間に既成事実にしちゃうって手もあるしな。

何にしろ、小夜が気に入ったのならそれで良いのかも。
彼女が寂しくなくなるのなら当初の目的は達成。
名前なんて何でもいいさ。

私が来れない時はお前が小夜の相手をしてくれよ、フクチョー。

「頼むぞフクチョー」

にゃあとタイミング良く返事をしたのが可笑しく、小夜とふたりで大笑い。


この後長く小夜のルームメイトとなる、これがフクチョー推参の話である。




                 了
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