もう45年以上前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。

・暇つぶしにネタばらしブログもどうぞ→管理人ざんげ室 

古来、日本家屋は夏を旨として建てられることになっているらしいので、冬将軍に対しては全くと言って良い程無防備なんだな。
なんたって『ブー・フー・ウーの家』だし。

え?意味判んない?『紙と木の家』ってことだよ。
あちこちスカスカで、防寒とか暖房なんて端から考えてない造りなんだから。
部屋を明るくしようと思えば障子戸まで開け放たなくちゃならないし・・・。

それって屋外で生活してるようなもんだろがっ!(←キレ加減です・爆)
それがたとえ京都という底冷えのキツイ土地柄であっても、これから真冬を迎えようともだ。


私が早々と風邪を引いたからなのか、ただ単にそういう時期であったからなのか判らないが、ウチの冬支度は徐々にではあるが着々と進んで、台所の土間の隅の燃料置き場には薪や炭の他に炭団(たどん)まで揃った。
炭団、あの泥団子みたいなヤツね。

衣類にしても、筒袖の肌着や綿入れの着物類が行李に一式届いたし、寝具も綿の厚く入ったのが追加された。
火鉢等の手焙りは端から余分なほど納戸に置いてあったので、必要な時にはそれを出して使えばいいし・・・。

それにしてもだ、着込んで手焙りするしか暖をとる方法は無いのかね?
この冬、私は凍死せずに過ごせるのだろうかなどと不安に駆られていたら、待望の暖房機器がやって来た!
が、始めそれがそうとは知らず、監察の島田さんの担いできた黒い物体を前にして、

「ナニ?猫のトイレ?」

一緒にやってきた幸が爆笑。
背負って来た大きな風呂敷包みを降ろして広げながら、

「行火(あんか)だよ。中に炭団を入れてだな、これを掛ければコタツとなる」

真新しいコタツ布団は縞木綿。

「行火は道具屋で見つけた中古だけど、コタツ用の布団まで新しいの誂えてくれるんだからアンタってばイマドキ果報者だよね。感謝しなさいよー」

もったいぶった事を言う。

「誰によ」

「決まってんでしょ、オタクの御主人」

そうなんだろか。

大元の指示はともかく、実際に細々気を配ってくれてるのは山崎さんなんだもん。
それを全てアイツのおかげのように感謝するだなんて、筋は通ってるのか知らんが納得行かない。

「アイツがこの布団縫ったってんならまだしも、ここは本来役宅なんだから私個人のためにしてくれてるわけじゃないでしょ。そう有り難がらなくていいんじゃないの?」

「うわ、コイツったら罰当たり。ここでコタツに当たるの、アンタしかいないじゃん」

・・・そうかもな。

まあそんなことよりコタツだ(と無理やり話を替える・爆)。

「でもこれって普通のコタツと違うわけ?」

小さな火鉢を、側面に穴の開いた塗りの箱に入れ、そこに布団を掛けただけ。気をつけないと火傷しそう。

「これが普通みたいよ」

「コタツ板置けないじゃん」

「そんなもの有るわけないし」

「そうなの?不便だね」

「つーか、この時代まだテーブルっていう概念無いしさ」

ひとしきりしゃべっていじくり回してから、とりあえず使ってみることに。
縁側に立ったまま、私たちのやり取りをニコニコと見ていた島田さんに気付いてようやく部屋に入れて、教えてもらいながら火鉢に炭団をくべ、真っ赤になったところを行火に移す。

火の粉が飛ばないよう、コタツの燃料には炭団がいいんだって。
部屋の中央にセッティングして布団を掛ける。

「大丈夫なのかなぁ。火の入ってる上に布団掛けるなんて危なくなぁい?」

「カバーがあるんだから大丈夫でしょ。炎が出るわけじゃないから大丈夫だよ。誰かさんがお転婆して蹴飛ばさない限り」

上から触ってみる。ほんのりと暖かい。さっそく足を突っ込んでみると、

「うわーい、ぬくぬくぅ」

そこからはもう抜けられましぇ~ん(笑)。


持ってきてくれた御礼にコタツでお茶する。

島田さんは遠慮してコタツには当たらず、大刀を傍らに置いて縁側に腰を掛けた。
この時代の人にしてみれば、まだ寒いと感ずるほどの気温でもないのだろう。

濃紺の一揃いに濃茶の袖無し羽織。土方さんよりは年は上なのかな。一見してオジサンってかんじ。
身長は180センチも有るかなぁ。
体格が良い上に肩が張っているので余計上背が高く見える。
ラグビーの選手にでもしたいようなガタイだと言ったら幸がウケてた。
一緒に歩いてると誰も近寄ってこなくて良いってさ(笑)。

大きな鼻に大きな目が一見いかついけど、温和で静か。
気は優しくて力持ちってこういう人のことを言うのかも。
体格が目立つので変装しての探索活動は彼の仕事ではないらしく、ウチにも顔を見せるのはごくたまの事。

島田さんって甘いものに目が無いって山崎さんに聞いたことが有るんだけど。

「栗きんとんがあるんだけど、召し上がります?」

八木さんちから貰ったはいいが甘くて独りでは持て余していた栗きんとん、どんぶりでひとつ喰ったぞ(汗)。
見てるだけで胸がいっぱい・・・。
これから甘いものの処分に困ったら島田さんに声掛けよっと(爆)。



「私はこれで・・」

と島田さんが立ち上がったのは、きっと私のきゃぴきゃぴしたおしゃべりに閉口したから・・と、あとで幸が言っていた。
そんなこと無いとは思うけど、まあ寡黙な人ではある。
立ち上がると軒先に髷が届きそうで、すぐ前かがみになって庭へ降りた。
大きな背中に、傾きかけた日差しがさえぎられ、コタツがすっぽり影の中に納まる。

「ご馳走になりました」

と、腰に刀を差してから、

「山崎さんは明日には大坂から戻られると思いますよ。土産話をしに、ここへは必ず寄るはずだ」

山崎さんの話などひとつもしていないのに、なんだろう?と思っていたら、幸が横から小突いた。

「アンタがひとりでしゃべってるから気ィ使わせたんじゃないの?」

自分の話下手を気にしているんだろうと言うんである。
私が山崎さん贔屓なのも知っているから、自分が役不足であると思っているんだろうとも。

「うそー。そんなこと無いですってば。また遊びに来てくださいよー。また美味しいもの食べてお茶しましょうよ」

庭下駄をつっかけ、大きな体をかがめて木戸を潜るのに言いかけたらば、

「遊びに来るなど畏れ多いが、仕事なら来れます」

「じゃあ、甘いもの食べるのも仕事のうちってことで」

垣根の向こうににょっきりと首を出し、笑顔で会釈を返した。

「熊みたい」

と呟きながら手を振ってたら幸も噴出しながら見送っている。

「森の熊さんて感じだよね」

一緒に帰らないのはまだ日課をこなしていないから。

彼女の日課=筋トレ。

いつぞや斎藤さんに筋力不足を指摘されてから、時間を見つけてはウチに来て(つまりは屯所の人達に見つからないように)筋トレやってんの。
軽く大根ほども太さのある木刀で素振りから始まって、スクワット、腹筋、それから物干し竿にぶら下がって懸垂。
お風呂の水汲みやら薪割りまで筋トレついでにやってくれて、私としては大助かりなんだけど、でもちょっと心配。

「アンタさー、そんなに筋肉つけてゴリラみたいになっちゃったらどうするよ?」

「女はねー、毎日鍛えてないとすぐ落ちちゃうんだよ、筋肉」

私の心配など何処吹く風。
井戸に下げておいた貧乏徳利からスぺシャルドリンクを湯呑みに汲んで、喉を鳴らして飲んでいる。
トレーニング後に飲むプロテイン代わりの豆乳。毎日お豆腐屋さんから分けてもらって常備しているのだ。

「豆乳って飲みにくくねぇ?」

「気合」

あそ。(--;
何にせよ、目標に向かって打ち込むってことは美しいことですなぁ・・・(←他人事)。

そんな彼女に私がしてあげられることと言ったら血肉になりそうな食材を用意することぐらいかな?
まあでもこれは自分のためでもあるんだけどさ。

幕末京都、動物性たんぱく質は確保しにくいのであります。
料亭でも行かない限り魚らしい魚は食えない。
有って佃煮くらいですかねぇ。

せめて卵くらいは常備しとけばいいのかな。鶏肉だったら手に入りそうだし。
山崎さんに相談しとこ。
豆腐だの湯葉だの植物性たんぱく質ばかり食ってるのも飽きるしな。


「そろそろ来ても良い頃なんだけど・・・」

お風呂の焚口で薪をくべながら、幸がぶつぶつ言っている。
おさんどんしながら何のことかと訊ねようかとした時だ、木戸の向こうに足音がした。足駄の音だった。

「あ、来た」

幸が木戸を開けて招きいれたのは、

「遅くにすみません」

沖田さんの声だ。

珍しい。
きっとウチの敷地内に入る(笑)のはこれが初めてじゃなかろうか。

「出がけに捕まってしまいまして・・・」

私は今夜のメインディッシュの仕上げにカマドに杉葉を目いっぱいくべたばかりだったので手が離せない。

「縁側から上がっていいんですよー。ちょっと待ってね、今行くから」

と言ってから、

「あ、せっかくだからご飯食べて行ったら?」

今だったら間に合うぞ。3人前作れる!

「・・・ってアンタ何作ってんの?」

沖田さんを案内して座敷に上がった幸が、障子を開けて後から聞いてきた。

「チャーハン♪」

残り物の漬物とネギを細かく刻んだのを冷ご飯と炒めただけ。もちろん卵入り。

返事が無いので振り返ったら幸のヤツ、

「・・・喰うかよ、そんなの・・・」

だぁって冷ご飯余ってたんだもん。
・・・結構上手くできたと思うんだけどな。

大皿に盛って、3人でつつこう。
平茸のお吸いと、・・・それだけだ。
あうう。
沖田さんが来るって判ってたらもっとちゃんとしたご飯にすれば良かった!
幸のヤツ、なんで黙ってたんだよぅ。

人知れず凹みながら上がり框にチャーハンのお皿を置いたら不意に、

「にゃあ」

と聞こえた。
野良猫でも入ってきたかと土間を見渡すがそんなものは居ない。

顔を上げると座敷の二人と目が合った。
二人ともやけにニンマリ笑ってる。
なんだろ?

意味深な笑いを怪訝に感じた時、沖田さんの懐がもぞもぞ動いて、胸元から何か出てきたではないか!

「あ!」

猫だ!
しかもちっちゃい!!!

「あ!こら」

と、今度は沖田さんが叫んだ。
仔猫が懐を飛び出して、山盛りのチャーハンに突進してきたのだ。

「かわいい!」

目の前で顔をご飯粒だらけにして夢中でお食事中の仔猫は生後1ヶ月は過ぎてるかも。
生まれたてというほどではない。
抱き上げると、食事を中断されたのが不本意と言わぬばかりに一声啼いて、細く尖った牙を見せた。

「だーめ。アンタにチャーハンはしょっぱすぎるよ」

軽くてふにゃふにゃした抱き心地が可愛らしく、すりすりしちゃう。

「かわいーい!これ、どうしたの?キレイな猫だね」

トラ猫だった。
鼻の周りから顎、喉、お腹、お尻まで、体の下側が真っ白で、四肢の先もハイソックスを履いたように白かった。
尻尾の先と耳の先が黒く、縞の入り方の加減なのか、額の縞がくっきりとアルファベットのMの字になっているのが可笑しくて可愛らしい。

「そうでしょう?巡察の時拾ったんです。野良猫にしては毛並みが良いんで。屯所で飼ってたんですけど、みつかっちまって。捨てて来いと言われて来たんですがね」

ははぁ。

「土方さんに?」

返事はせずに頭を掻く。
それでここに連れてくるんだから、この人って面白い。

「この前、毎日退屈だって言ってたのを思い出して。小夜さんなら貰ってくれるかなぁと思ったんです」

「貰っていいの?」

「貰ってくれますか?」

「ってか、欲しい!可愛いもん。そのつもりで連れてきたんでしょ?捨てて来いと言った人の家にわざわざ」

と突っ込んでみる。
彼は頭を掻きながら顔を赤らめた。

「ああ、申し訳ない。小夜さんが貰ってくれるならあの人はきっと文句を言わないんじゃないかと思って」

はぁ?それってどういう意味?

「猫、嫌いなわけじゃないんですよ。だから・・・」

意味が良く判らない。
隣で噴出している幸を見ても首をすくめただけで何も教えてくれない。


まだ名無しだった仔猫に名前を考えながら食事。

すぐ横で猫マンマを食べている姿に骨抜きになっちゃって、名前を考えるどころではなかったけどな。
猫と遊ぶのに夢中になっていて、食事の後片付けも幸がお風呂を使ったのにも気付かなかったし。
コタツの上で丸くなってる仔猫ってなんて可愛いんでしょ♪


「ちょっとぉ、もう帰るよ。寝床入ったら?」

言われて我に返ると部屋の中は寝るばっかりになっている。
灯りもついてるし布団も敷いてある。雨戸も立ててあった。

・・・てことはそんなに夜?私もしかしてコタツで寝てた?

「ごめーん。気持ち良くって・・・。アンタ泊まって行かないの?」

幸は既に両刀を手挟んで立ち上がっている。

「うん。やばそうだから」

「?」

「明日辺り大坂から山崎さんが戻ってくるって、島田さんが言ってたじゃん。そしたら絶対屯所に帰る前にここに寄るし、ってことは副長が来るに決まってるもん」

どんな用件なのか判らないけど近頃監察方は頻繁に大坂に行き来しており、更にウチは屯所の南に位置し、帰営の道筋に当たっているので出張者が山崎さんである場合、行きも帰りも必ず寄って行く。

だからと言って“副長が来るに決まってる”と彼女が言う根拠までは知らない。
半月ほど前、体調不良を押して出勤してからはここには姿を見せていないのだ。
仮にここで山崎さんと落ち合う可能性があるにしたって、

「そんなの明日のことでしょう?」

「あの人のことだから先に来て待ってる筈だ」

山崎さんが来るより先にということらしいが、

「それにしたって朝っぱらからじゃないでしょうに」

寝込み、否、寝起きを襲われるでもあるまいし。

幸は僅かの時間口をつぐんで思案してから、

「いや、やっぱりやめとく」

縁側から庭へ降りる沖田さんに続いた。



幸って勘が良い。
翌朝遅く起きて猫と一緒のブランチ中に、かの人はやってきた。

挨拶も無く困惑した顔で見下ろしているのは、家に猫がいたからなのか、私の食べていたチヂミ(チャーハンの残りに京ニンジンとニラとシラスを加えてうどん粉で平たく炒めた)の何たるかを知りたかったからなのか・・。

「・・・おはようございます・・」

「もう昼だな」

とりあえず挨拶してから説明しようと思ったのに、そう切り返されては二の句が継げない。

・・・そうだった。コイツとコミュニケーション取ろうと思うのが間違いだったな。
いいや、無視してやろ。
構わず食事を続ける。
が、いつまでも見ているし確かに昼も近いのでつい、

「食べます?」

「そんな得体の知れんものは喰わん。喰いながらしゃべるな」

・・・やっぱ気ィ使って損した。

だが言った割には視線を外さず、刀を奥の間の刀掛けに置いてから、衣擦れの音をさせてコタツをテーブル代わりにしている私のすぐ横、と言うよりは長火鉢の脇に腰を下ろした。
自分でお茶を淹れるみたい。

「その猫はどうしたぇ?」

膝元でシラスご飯を食しているのは昨日まで屯所に居たという猫ではあるのだが、この場合、

「野良猫。迷って来たから飼う事にしたの」

あながち嘘でも無い。

「見たような猫だな」

「そうお?まぁどこにでも居るような柄だからね」

横に視線を感じつつ、食事を続ける。
知らんフリしながらも、飼うのを反対されたらどう反論するか考えている緊張感は相手に伝わっているのだろうか?

きっとこういうシチュエーションを嫌って、幸は頑なに帰って行ったのだね(苦笑)。



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