もう45年以上前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。
・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。
・暇つぶしにネタばらしブログもどうぞ→管理人ざんげ室
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夜中に寒気がして目を覚ました。
眠気で体が鉛のようだったが、家のことを放り出して眠り込んでしまったのを思い出し、全身に思い切り力を込めて気合で起き上がる。
ぼうっとした頭で目を閉じたまま(なかなか開かなかったのだ)気配を窺う。
静かだ。
薄目を、片目だけ開ける。
暗い。
おやっと思って見ると、雨戸が立ててある。
あれっと思って辺りを見回すと土方さんが寝床ごといない。
確か眠気に負けて同じ部屋に布団を伸べたのに。
まさか屯所に戻ったんじゃあないだろうな。
八畳間の襖を開けると、
「・・・なぁんだ、ちゃんと不可侵条約守ってたんじゃん」
襖の向こうに寝床を移して、彼は眠っていた。
てことは、夕方、私がダウンしてから彼は家の戸締りをして、自分の寝床を隣室に移して寝たというわけか。
「感心感心」
これも日頃の躾がいいからよね。
などと独り言ちて、そうっと襖を閉め直し、押入れから掛け布団をもう一枚引っ張り出して再び熟睡。
翌朝、雨戸を開ける音と、喉の痛みで目が覚める。
まずい、こりゃ完全にカゼひいちまったわい。
と、うんざりしつつ、それでも病み上がりの主人に雨戸を開けさせる訳にもいくまいと思い、起き上がりながら、
「雨戸なら私が・・・」
と言ったつもりが、声が出ない。
もう一度言ってみるが、口がパクパク言うだけで、かすれ声さえ出てこない。
ムキになってアーアー言ったら、猛烈に喉が痛んでゲホゲホと咳が出た。
「みろ、言ったではねぇか。やたらと頭洗ったりするからだ」
朝陽に照らされて明るくなった障子の向こうで、迷惑そうな声がした。
縁側を回って八畳間の戸障子を開け放つ音。それから寝床を畳む音がして、襖が開けられた。
冷たい風が入って来て、クシャミが出た。身震いも。
「熱はあるのか?」
“無い”と口ばかりパクつかせる。“喉が痛い”と舌を突き出してエーエー言ってみせた。
すると彼は襖の向こうに姿を消し、粉薬の包みと、湯呑みに水を持ってきて、
「飲みな」
有無を言わせぬので飲んだら、とてつもなく苦かった。
うげーっとしかめ面をしてみせたら、
「今日は大人しく寝てるこったな」
首を振る。熱なんか無いんだから。
“あなたは大丈夫なの?”
口パクで通じるんだか判らないが、声が出ないので仕方ない。
「ああ・・・」
と彼は曖昧に答えながら寝床の側にしゃがみ込み、私の手から用済みの湯呑みを取り上げ、もう一方の手を伸ばして額だの頬っぺただの、私の顔を触りまくり、
「熱っぽい」
と言う。
“触んないでよぉ!”とその手を振り払う。
ふん、と鼻を鳴らし、
「その分なら心配無ぇか」
ニッと、そこで初めて笑った。
長い睫が影を作る程。
熱は下がったらしいが、顔色はまだ悪く青白い。
髻(もとどり)が解けた髪は意外に長くて肩より下に毛先があった。
髭も薄いらしくて、昨日からあたってないはずなのに顎の先と鼻の下に薄っすら。
どう見ても20代半ばにしか見えない。
昨日昼間のうちに山崎さんが用意したのだろう、絹物の白っぽい襦袢の上に、起き抜けで丹前を着込んでいるのだが。
見れば見るほど男前ではあるんだな。
だけど、こんなキレイな顔でにっこり微笑まれて・・・ムカつくのはなぜ?
“具合がいいなら屯所でもどこへでも早いとこ行っちまいなさいよ!アンタのせいでカゼ引いたんだからねっ!”
と言いたいのを、声が出ないのでイラついて、思い切りあかんベーをしてしまう。
すると彼はふふんと、さも可笑しげに鼻で笑って、
「こいつぁ静かで余程具合がいい」
井戸端へ立って行った。
くそー、面白くない。
漱ぎを使った後、彼は私の鏡台の前に座って、自分で髪を結い始めた。
傷が痛むらしくて腕が上がらず、苦労していたので手を貸すことにしたのだが・・・。
「ばか。へたくそ。何やってやがるのだ」
それが手伝っているものに対して言う言葉か。
手先の器用さに関して、この時代の人間と現代人とではレベルが違う。
元結が上手く結べず、何回もやり直すのをボロクソにけなされて、もうこんなヤツの頭なんかグーで(つまり拳骨で)ゴキリと殴りつけてやろうかと思ったほどだ。
しかし相手も自分の腕が言うことを利かないものだから妥協したらしく、何度目かでOKを出した。
「間が抜けてやがる」
髷なんて結えないので髻を結わえただけの、つまりはポニーテール。
五つ六つは若く見える。
見た目20代半ばのまま。
それが気に入らないらしくて、仏頂面になっている。
加えて元結がきっちり結べていないのも気に食わないらしい。
鏡を見ながら舌打ちをした。
舌打ちは嫌いだと何回言ったら判るんだろう、コイツ!
もうやーめたっ!
こんな注文の多いヤツになんか付き合ってられない。
屯所に戻ってから結いなおせば済むじゃんか、ばーか。
大体こっちは髪油まみれのオヤジの頭なんか触りたくもねーやい。
腹立ち紛れに側に畳んであった夜具にボスッと蹴りを入れて、井戸端に下りる。
口を漱ぎ、顔を洗う。
もうあのうるさいクソオヤジのことなんか無視してやるもんね。
夕べ、髪が乾かないまま寝たのでくしゃくしゃになっていた。
プリプリ怒りながら、髪を洗おうと井戸水を桶に汲み、頭から被ろうとした時、
「おい!」
見咎めて、土方さんが縁側から飛んできた。
が、余計なお世話という気持ちもあり、これ見よがしに水を半分ほど被ったところで、
「やめんか!」
髪を前に下ろし、下を向いていたのでどんな状況だったか良く判らない。
手から桶が吹っ飛んで、地面に転がったと思ったら、後から抱きすくめられた。
「何すんのよ!離してよぉ!」
思い切り叫んだら、強烈なハスキーヴォイス。
喉から血でも噴きそうだった。
「ばか。無茶するな」
言いながら抱え上げられた。足が宙に浮く。
「嫌だー!」
ゲホゲホと咳が出て息が切れ、涙目になる。
彼は私を寝かそうと、家に入れようと考えていただけらしいのだが、私にしてみればそんなことは余計なお節介でしかない。
足をばたつかせて抗っていたら、ふいに相手の動きが止まった。
ほとんど取り落とした形で、彼は私を解放した。
理由はすぐに判った。
突き放そうと押しやった掌の下に、熱を持って腫れ上がった刀傷が有ったのだ。
痛みで声も出ないらしい。
目を閉じて、歯を食いしばっている。
“土方さん・・?”
声が出ない。
大丈夫かと言おうとして、咳き込んだ。
彼はまだ動かない。見る間に、額に汗が浮いてくる。
「・・・ごめん・・さい、わ・た・・」
気合を入れて言うのだが、かすれてしまう。
「しゃべるな」
咳き込みながら、ハスキーヴォイスを振り絞って話す私を制し、ようやく彼は目を開けた。
肩で息をしている。
「こじらすぞ」
そして忌々しげに舌打ちをし、
「癇癪持ちめ!」
有無を言わせず、寝床に押し込められた。
その後、かれは台所で何かやっていたようだったが、しばらくすると手拭を細く丸めたものを持ってきた。
プーンと・・・ネギの臭いがするんだけど。
“何これ?”と私。顔をしかめる。
「喉に効く」
手ずから首に巻いてくれる。
先程の負い目があるので嫌とは言えぬ。が、ネギの臭いが凄まじい。
でも暖かいのが意外にも気持ち良かった。
「大人しくしてろよ」
彼は紋服に着替えて、刀を差して出かけようとした。
刀、いつものではない。拵えが違っている。
訊ねたかったがなにしろ声が出ないので、きっと雨に濡れてダメにしたので取り替えたんだろうと思った。
縁側で履物を履く様子。
うるさいオヤジが出かけたら起きて髪を洗いなおそうなどと企んでいたら、頭の上から声がした。
「フカシンジョウヤクたぁ何だぇ?」
・・・喉を痛めてしゃべれないのにどう説明しろと言うんだろう。
筆談するには筆が・・・墨が要るし。
そんなこと悠長にやる程でもないので、起き出して庭に下り、地面に棒切れで、
不可侵条約
と書いて見せた。
「侵すべからざる・・・約定、か」
独り言のように言い、それから私の側にしゃがみ込み、わざわざ目線を同じレベルに持ってきて、
「そんなもん、どっから覚えて来たのだぇ?」
黒目がちの目は、なんとなく視線に重みが有る。
これが被疑者には圧迫感となるんだな(爆)。
ぐっと詰まった。
うう。
まずい。
なんて誤魔化せばいいんだ?まさか社会の授業で、とは言えない。
とりあえず咳き込んでみたり。・・・ごほごほ。
彼は不信げに覗き込んでいたが、
「まったく妙なガキだぜ。まあいいさ。ほら、もう寝てな」
私を寝床に追い立てて家を出た。
危ない危ない。また幸に叱られるとこだった。
しかし、あの夜中の独り言を聞いているとは。
寝たふりしてたのか。やっぱ食えねぇオヤジ。
じゃこ山椒のお茶漬けを掻き込みながら、私の顔を触りまくったあの人の骨っぽい手の感触がやたら思い出されて、なんだかいつまでもくすぐったくて閉口した。
寝不足で感覚がオカシイのかもしれん。
寝よ。
髪はまた起きてからにして。
ネギの臭いにまみれて寝たら、ネギのぶつ切りを山ほども火で焙っている土方さんが夢に出てきた。
ちょっと笑えた。
-了-
眠気で体が鉛のようだったが、家のことを放り出して眠り込んでしまったのを思い出し、全身に思い切り力を込めて気合で起き上がる。
ぼうっとした頭で目を閉じたまま(なかなか開かなかったのだ)気配を窺う。
静かだ。
薄目を、片目だけ開ける。
暗い。
おやっと思って見ると、雨戸が立ててある。
あれっと思って辺りを見回すと土方さんが寝床ごといない。
確か眠気に負けて同じ部屋に布団を伸べたのに。
まさか屯所に戻ったんじゃあないだろうな。
八畳間の襖を開けると、
「・・・なぁんだ、ちゃんと不可侵条約守ってたんじゃん」
襖の向こうに寝床を移して、彼は眠っていた。
てことは、夕方、私がダウンしてから彼は家の戸締りをして、自分の寝床を隣室に移して寝たというわけか。
「感心感心」
これも日頃の躾がいいからよね。
などと独り言ちて、そうっと襖を閉め直し、押入れから掛け布団をもう一枚引っ張り出して再び熟睡。
翌朝、雨戸を開ける音と、喉の痛みで目が覚める。
まずい、こりゃ完全にカゼひいちまったわい。
と、うんざりしつつ、それでも病み上がりの主人に雨戸を開けさせる訳にもいくまいと思い、起き上がりながら、
「雨戸なら私が・・・」
と言ったつもりが、声が出ない。
もう一度言ってみるが、口がパクパク言うだけで、かすれ声さえ出てこない。
ムキになってアーアー言ったら、猛烈に喉が痛んでゲホゲホと咳が出た。
「みろ、言ったではねぇか。やたらと頭洗ったりするからだ」
朝陽に照らされて明るくなった障子の向こうで、迷惑そうな声がした。
縁側を回って八畳間の戸障子を開け放つ音。それから寝床を畳む音がして、襖が開けられた。
冷たい風が入って来て、クシャミが出た。身震いも。
「熱はあるのか?」
“無い”と口ばかりパクつかせる。“喉が痛い”と舌を突き出してエーエー言ってみせた。
すると彼は襖の向こうに姿を消し、粉薬の包みと、湯呑みに水を持ってきて、
「飲みな」
有無を言わせぬので飲んだら、とてつもなく苦かった。
うげーっとしかめ面をしてみせたら、
「今日は大人しく寝てるこったな」
首を振る。熱なんか無いんだから。
“あなたは大丈夫なの?”
口パクで通じるんだか判らないが、声が出ないので仕方ない。
「ああ・・・」
と彼は曖昧に答えながら寝床の側にしゃがみ込み、私の手から用済みの湯呑みを取り上げ、もう一方の手を伸ばして額だの頬っぺただの、私の顔を触りまくり、
「熱っぽい」
と言う。
“触んないでよぉ!”とその手を振り払う。
ふん、と鼻を鳴らし、
「その分なら心配無ぇか」
ニッと、そこで初めて笑った。
長い睫が影を作る程。
熱は下がったらしいが、顔色はまだ悪く青白い。
髻(もとどり)が解けた髪は意外に長くて肩より下に毛先があった。
髭も薄いらしくて、昨日からあたってないはずなのに顎の先と鼻の下に薄っすら。
どう見ても20代半ばにしか見えない。
昨日昼間のうちに山崎さんが用意したのだろう、絹物の白っぽい襦袢の上に、起き抜けで丹前を着込んでいるのだが。
見れば見るほど男前ではあるんだな。
だけど、こんなキレイな顔でにっこり微笑まれて・・・ムカつくのはなぜ?
“具合がいいなら屯所でもどこへでも早いとこ行っちまいなさいよ!アンタのせいでカゼ引いたんだからねっ!”
と言いたいのを、声が出ないのでイラついて、思い切りあかんベーをしてしまう。
すると彼はふふんと、さも可笑しげに鼻で笑って、
「こいつぁ静かで余程具合がいい」
井戸端へ立って行った。
くそー、面白くない。
漱ぎを使った後、彼は私の鏡台の前に座って、自分で髪を結い始めた。
傷が痛むらしくて腕が上がらず、苦労していたので手を貸すことにしたのだが・・・。
「ばか。へたくそ。何やってやがるのだ」
それが手伝っているものに対して言う言葉か。
手先の器用さに関して、この時代の人間と現代人とではレベルが違う。
元結が上手く結べず、何回もやり直すのをボロクソにけなされて、もうこんなヤツの頭なんかグーで(つまり拳骨で)ゴキリと殴りつけてやろうかと思ったほどだ。
しかし相手も自分の腕が言うことを利かないものだから妥協したらしく、何度目かでOKを出した。
「間が抜けてやがる」
髷なんて結えないので髻を結わえただけの、つまりはポニーテール。
五つ六つは若く見える。
見た目20代半ばのまま。
それが気に入らないらしくて、仏頂面になっている。
加えて元結がきっちり結べていないのも気に食わないらしい。
鏡を見ながら舌打ちをした。
舌打ちは嫌いだと何回言ったら判るんだろう、コイツ!
もうやーめたっ!
こんな注文の多いヤツになんか付き合ってられない。
屯所に戻ってから結いなおせば済むじゃんか、ばーか。
大体こっちは髪油まみれのオヤジの頭なんか触りたくもねーやい。
腹立ち紛れに側に畳んであった夜具にボスッと蹴りを入れて、井戸端に下りる。
口を漱ぎ、顔を洗う。
もうあのうるさいクソオヤジのことなんか無視してやるもんね。
夕べ、髪が乾かないまま寝たのでくしゃくしゃになっていた。
プリプリ怒りながら、髪を洗おうと井戸水を桶に汲み、頭から被ろうとした時、
「おい!」
見咎めて、土方さんが縁側から飛んできた。
が、余計なお世話という気持ちもあり、これ見よがしに水を半分ほど被ったところで、
「やめんか!」
髪を前に下ろし、下を向いていたのでどんな状況だったか良く判らない。
手から桶が吹っ飛んで、地面に転がったと思ったら、後から抱きすくめられた。
「何すんのよ!離してよぉ!」
思い切り叫んだら、強烈なハスキーヴォイス。
喉から血でも噴きそうだった。
「ばか。無茶するな」
言いながら抱え上げられた。足が宙に浮く。
「嫌だー!」
ゲホゲホと咳が出て息が切れ、涙目になる。
彼は私を寝かそうと、家に入れようと考えていただけらしいのだが、私にしてみればそんなことは余計なお節介でしかない。
足をばたつかせて抗っていたら、ふいに相手の動きが止まった。
ほとんど取り落とした形で、彼は私を解放した。
理由はすぐに判った。
突き放そうと押しやった掌の下に、熱を持って腫れ上がった刀傷が有ったのだ。
痛みで声も出ないらしい。
目を閉じて、歯を食いしばっている。
“土方さん・・?”
声が出ない。
大丈夫かと言おうとして、咳き込んだ。
彼はまだ動かない。見る間に、額に汗が浮いてくる。
「・・・ごめん・・さい、わ・た・・」
気合を入れて言うのだが、かすれてしまう。
「しゃべるな」
咳き込みながら、ハスキーヴォイスを振り絞って話す私を制し、ようやく彼は目を開けた。
肩で息をしている。
「こじらすぞ」
そして忌々しげに舌打ちをし、
「癇癪持ちめ!」
有無を言わせず、寝床に押し込められた。
その後、かれは台所で何かやっていたようだったが、しばらくすると手拭を細く丸めたものを持ってきた。
プーンと・・・ネギの臭いがするんだけど。
“何これ?”と私。顔をしかめる。
「喉に効く」
手ずから首に巻いてくれる。
先程の負い目があるので嫌とは言えぬ。が、ネギの臭いが凄まじい。
でも暖かいのが意外にも気持ち良かった。
「大人しくしてろよ」
彼は紋服に着替えて、刀を差して出かけようとした。
刀、いつものではない。拵えが違っている。
訊ねたかったがなにしろ声が出ないので、きっと雨に濡れてダメにしたので取り替えたんだろうと思った。
縁側で履物を履く様子。
うるさいオヤジが出かけたら起きて髪を洗いなおそうなどと企んでいたら、頭の上から声がした。
「フカシンジョウヤクたぁ何だぇ?」
・・・喉を痛めてしゃべれないのにどう説明しろと言うんだろう。
筆談するには筆が・・・墨が要るし。
そんなこと悠長にやる程でもないので、起き出して庭に下り、地面に棒切れで、
不可侵条約
と書いて見せた。
「侵すべからざる・・・約定、か」
独り言のように言い、それから私の側にしゃがみ込み、わざわざ目線を同じレベルに持ってきて、
「そんなもん、どっから覚えて来たのだぇ?」
黒目がちの目は、なんとなく視線に重みが有る。
これが被疑者には圧迫感となるんだな(爆)。
ぐっと詰まった。
うう。
まずい。
なんて誤魔化せばいいんだ?まさか社会の授業で、とは言えない。
とりあえず咳き込んでみたり。・・・ごほごほ。
彼は不信げに覗き込んでいたが、
「まったく妙なガキだぜ。まあいいさ。ほら、もう寝てな」
私を寝床に追い立てて家を出た。
危ない危ない。また幸に叱られるとこだった。
しかし、あの夜中の独り言を聞いているとは。
寝たふりしてたのか。やっぱ食えねぇオヤジ。
じゃこ山椒のお茶漬けを掻き込みながら、私の顔を触りまくったあの人の骨っぽい手の感触がやたら思い出されて、なんだかいつまでもくすぐったくて閉口した。
寝不足で感覚がオカシイのかもしれん。
寝よ。
髪はまた起きてからにして。
ネギの臭いにまみれて寝たら、ネギのぶつ切りを山ほども火で焙っている土方さんが夢に出てきた。
ちょっと笑えた。
-了-
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