もう50年ほど前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。



それにしても、あれが藤堂さんの怪我の血じゃないとしたら誰のなんだろう?
まさか沖田さんが喀血?
でも彼の着物はシミひとつ無いキレイな状態だったしなぁ・・。

「あいつ、とんでもないヤツだな」

斎藤さんは何故か笑顔だ。
気付けば、ふたりして縁側に立ったまま、幸の走り去った先をぼんやり眺めていた。

「とんでもないって?」

なんだか可笑しくなって、長火鉢の元に退散。
斎藤さんが後に続く。

「丸腰だったろ?あの姿で。どういう意味か判るか?」

フル装備-刀+血だらけ=?
判らん。

「沖田さんは二本差してたが争った様子も無い。もっとも、あの様子では斬り合いなど無理そうだし・・」

やつれた姿を思い出したのか、大きくひとつ、溜息をついた。

「どうやったのか知らないが、ここまであいつが平助を連れてきたんだろう。引きずって来たのか背負って来たのか・・。あの有様で暴れるものを。女だてらに大したもんだ」

女だてらに、と言われて、幸は喜ぶのか怒るのか(--;

「でも、良かったね。せめて藤堂さんが無事で居てくれて」

ようやく言えた。
何しろしっちゃかめっちゃかの大騒ぎで、喜んでいる暇が無かった。

「ああ・・」

言葉少なではあったが、斎藤さんも今はただホッとしているようだった。
長火鉢に手をかざし、伏せた目が微笑んでいる。

が、鬢からほつれた髪が頬にかかって、疲れの色が濃い。
夕べは寝てないんだもんな。
早いとこお風呂使わせて、この人も寝せなきゃね。

「それにしても、あの血の痕・・・。あれはおそらく平助のものではないはずだが・・」

火箸で灰をかき回しながら難しい顔になったのは・・・放っといて。
朝飯の支度でもしよ。



米を研いで、風呂に火を入れて、ようやく自分のことに気が行った。
夕べ浴衣の上に着物を着て、更に道中着を重ねて着たまま寝たんだった(^^;
お下げにしていた頭もくしゃくしゃだ。

なのでちゃんと着物を着直して、次は顔を洗おうと・・・斎藤さんの終わるのを、陽の当たり始めた縁側で歯磨きしながら待っていた時だ、ガツガツと下駄を鳴らして幸が戻って来た。
垣根の向こうにポニーテールがぴょんぴょん跳ねて来る。

「早っ」

房楊枝を口に突っ込んだままツッコミ入れちゃったよ。
斎藤さんも井戸端で洗った顔を手拭で拭きながら驚いている。

木戸を潜ってめちゃくちゃ焦りまくった顔でこちらを見た幸の第一声は、

「ヤバイ!」

へ?

「来る!」

何が?

「早く隠して!」

何を?

そのまま三段跳びで目の前まで迫って来た思ったら、

「副長が来るぅ~!ヤバイよ!まずい!証拠隠滅しなきゃ!隠蔽工作だ!早く!」

言いながら、彼女は先程自分で放って行った防具を拾い集め、納戸に隠そうと思ったか家に上がった。

「藤堂さんは?ここ開けて大丈夫?」

「たぶん・・」

それからもっと重大な事態を想像したのか、

「中で騒がれたらまずいよ!モロバレだ!」

と、悲壮な(でもちょっと笑える)顔になって耳を澄ました。

唸り声も聞こえなくなったから眠ったろう、とは斎藤さんの読みだ。
そろそろと戸を開ける。

どお?と窺ったら、OK!の合図。
そのまま戸口近くに荷物を置いて、元のように戸を閉めた。

「ねえ、これどうする?どうすればいい?」

納戸から出した刀箪笥は隠しようがない。
納戸へ戻すわけにも行かないし。

房楊枝を握り締めてオタオタしてしまう。

「斎藤先生に手入れを頼んだとか何とか、誤魔化すしかないでしょ!とりあえずアンタは普通にしてて。片付け物は私がする」

泥や血で汚れた縁側を雑巾掛けし、更に雨戸や障子戸の手掛かりが汚れていないかチェックをしながら、幸が斎藤さんに成行きを説明し出した。

「私が帰った時、夕べ出張った皆さんも帰り足で・・。きっと屯所で報告があったんだと思います。様子を見に行って来いと沖田先生に言いつけられて・・。ああ、沖田先生は大丈夫です。疲れて横になっては居ましたけど」

傷を洗う時、庭に流れた血も、更に水を撒いてなんとか誤魔化せそうだ。

「それで、その報告の席で何があったのか、副長が現場を検分すると言い出だして出張って行かれて。現場はほんの目と鼻の先です。何か不審を感じて戻って来るならもう・・・」

「不審?」

と、水を撒き終わった斎藤さんが問い質す。

幸は師の問いにハッとした表情で口をつぐみ、恐縮して縁側に畏まった。
手の中で雑巾を畳みながら俯くばかりだ。

斎藤さんには言いにくいこと、もしくは言えないことらしい。

「でもさー、ここに寄るとは限んないじゃーん?」

口を漱ぎ終えて、タライに張った水で顔を洗う。
うぉ~、冷てー。目が覚めるぅ。

「そのまま屯所に戻るでしょ普通」

私には、幸の不安の原因なんて判ってない。
とりあえず、斎藤さんの追及から解放させたかっただけ。

濡れた顔を手拭で拭いてから、お下げに編んだ髪を解いて、くしゃくしゃに癖のついたのをストレートに伸ばすべく、櫛に水をつけてー・・・・。

解いた髪が邪魔で周りが見えなかったんだよ。
井戸端でしゃがみ込んでてさ。
空気が変わったのも、判んなかった。

だって女の子が洗面中なんだもの!
つい夢中になったって仕方ないじゃんか。

後でシャリっと霜柱を踏む音が・・・今思えば確かにした(--;
それに気が付く前に、突然体がふわりと浮いて・・。

「馬鹿者っ!」

ぎゃ~!!!

「やめろと言うのが判らんか!」

帯を捕まれてずるずると引きずられる!

「何すんのよバカ!放して!」

こんなことする奴はアイツしか居ない~~!

「副長!」

「土方さん!」

外野が二人で声を揃えてる。
だがそれはきっと驚きの声で・・・。

驚いてる間に止めろよ~っ!

「この寒空に井戸で頭洗うなど正気の沙汰か!いい加減にしろ!」

縁側越しに座敷へ投げ込まれ、畳の上を転がって大の字になって止まった(う~)。

「病み上がりのくせに、これ以上手を煩わすな」

って、その病み上がりを投げ飛ばすか普通!
つーか、いくら私だってそんな冷たい水で頭なんか洗うか!

「頭洗ってたわけじゃないもん!」

と、起き上がったら、

「ゆんべは急に呼び出してすまなかったな」

と、既に斎藤さんを労ってるし(声色全然違うし(--;)。

こっちの話は聞いてねーし(--メ

なんだよ、ばーか!
斎藤さんと二人、縁側で話し込んで居るそいつに向って、勢い込んで文句を言おうとした時だ、

「不首尾か」

と、思いがけない言葉が聞き取れた。

不首尾、とは?

斎藤さんが不本意そうに俯いた。

気恥ずかしそうに、だろ?と、大分後になって幸がツッコミ入れたけど、この時は全然、そんなことには気付いても居なかった。

私はただただ、夕べの話の続きで、ここで伊東甲子太郎派の残党狩りが無かったことを問われているんだと思っていた。
なので慌てて、

「私、夕べ熱だして寝てたの。だから、何も無くて良かったのよ」

段取り通り、助け舟を出したつもり。

が・・。

鼻筋の通ったきれいな横顔が、ゆっくりと正面を向いた。
口のへの字はいつものことだが。
目を細め、きゅーっと眉が吊り上がった。

「ほぉ~。夕べ熱出して今朝は水垢離か」

あらっ?ヤバイこと言っちゃったかしら?((((^^;

「死にてぇのかてめぇはっ!」

・・・やっぱり(汗)。

つーかそれは誤解だ!

「違うったらー!熱はもう下がったし、頭なんて洗ってないもん!」

とたんにシッ!と幸がたしなめる。
口ほどに物を言う、その視線で。

あ!と、すぐにその意味に気が付いた。
納戸の中身が起き出したら大変なんだ。

しかし、そのやり取りを見逃す人ではなかった。

「何だ?」

私と幸に交互に視線が走る。
まずいという意識が働いて、その場が固まってしまう。

間を空けずに、土方さんはくんくんと鼻をうごめかして、

「血の匂いだな・・」

全身から汗が噴出す気がした。
咄嗟に言い訳が出てこない!
しかも、

「これはどうした?」

縁側の下は水浸しだし!

「ああ!・・えーと、あのう・・・」

なんとかしなくては、と思いながら冷汗が背を伝うばかり。

両刀を腰から外し、草履を濡らさないよう縁側の端の乾いたところから上がって来た土方さんは、しどろもどろになった私を横目に仁王立ちになった。

「お前等ここで何をやっていた?」

睥睨している。

「幸、こんな朝っぱらからお前はどうしてこんなところに居るんだ。沖田のところに居たのじゃないのか?」

水を向けられて、幸は悲壮な顔で何か言おうとした。
なので、

「朝ご飯食べに来たの!」

叫んでしまった。

「沖田さんの目の前ではご飯食べられないからって、だったらうちでお腹いっぱい食べればいいじゃん!て私が呼んだの!」

上手く、在り得そうなウソが口を突いて出た。

こちらを向いた土方さんの顔に、挑戦的な色が浮かんだのは・・・気のせいか?

「ほぉ。では庭が水浸しなのはどういうわけだ?」

突っ込まれて、脳ミソ焼ききれそうなぐらい回転させて出てきた言葉は、

「猫・・」

「なに?」

「猫よ。うちの猫がメス猫を縁の下に引っ張り込んでさ・・・。それで・・夕べそこで子猫を生んじゃってー」

ヨシ!いい具合だ!(←ウソが、ね)

「そこらじゅう汚したからー、今、二人に手伝ってもらって掃除したとこなの。匂いもそのせいじゃなーい?」

ふふーん、と、自分の出任せに満足して思わず頬が緩む。
が、

「そうかぇ。その割には鳴き声も聞こえねぇが、どうしたんだ?」

う。

再び窮地だ・・(焦)。

「あ、あの、えっとあのー」

「どうした?もう後が続かねぇか?」

ううっ・・。

「馬鹿め。そんな嘘が通じる相手だと思うのか」

・・・玉砕。




「副長はここへは何か御用があって来られたのでは?」

と、縁側に正座したままの幸が言葉を発した。

私が姑息な嘘などつく前から、彼女には覚悟が有ったのだ。
隠し遂せないならば、どうするかと。

その覚悟は素直に伝わる性質のもので、それだから土方さんもすぐにも本題に入りたかったのかもしれない。

「夕べ、伊東甲子太郎を討ち取った。その配下の者も今朝方。三名のみだが。後顧の憂い無きを期すため残党狩りは続けるが・・。夕べ逃げた奴等の足取りを追っちゃあ居るが、討ち取った者の遺骸も晒しといて誘き出すことにした」

と、一旦言葉を切った。
私達の反応を見ている。

その目線は多くは斎藤さんに注がれていた。

彼はさっきからずっと、縁側の脇に立ったままだ。
視線を向けられても俯いたまま、じっと口をつぐんでいる。
こめかみが微かに動いているように見えた。

「全員捕まえるまでは何時まででもやるぜ。犬に喰われようとカラスに突付かれようと、な」

惨い。
そこまでやる必要があるのかと、夕べの斎藤さんの言葉がそのまま自分の気持ちと重なる。

「酷い!死んだ人を道具に使うなんて信じらんない!」

「だろ?」

え?
と思った。

非難したのに、得意気な顔で返されたのだ。

どういう人なんだこの人は!
そんなことが面白いなんてどうかしてる。
人格が破綻してるとしか・・。

呆れて言葉が続かなかった。

縁側に立っているのは寒かったとみえて、彼は納戸から座敷に移して置いた手あぶりに覆いかぶさるようにしゃがみ込み、手にした刀を傍らに置いた。

「伊東の他に、晒して有るのは服部武雄、毛内監物、それと・・・藤堂平助」

・・え?

藤堂さんって死んだことになってるの?
逃げたとかじゃなく?

目を閉じて、犠牲になった人達の名を聞いていた斎藤さんの目が、かっと見開かれた。
そのまま縁側でうなだれる幸に視線を向ける。

土方さんの声は続く。

「全部で四人。仲間が引き取りに来るまで往来に晒しておこうというのだ。酷いとは思わんか?」

・・・ああ?
何言ってんだろ今更。
自分が決めたことなのに・・。

「他の三人は別にしてもだ、江戸から一緒だった平助が殺されて晒されると知れても、誰も文句を言わんのだぜ?おかしくはないか?」

あ!

と思った。
この人はそれで・・・?

「ゆんべの捕り手は原田と永倉が率いた。そいつ等が今朝屯所へ戻って来て言うには、見事藤堂をしとめたと。遺体を往来に晒すと決まったら、どうぞご随意に、だとさ」

うっわー・・。
それってほとんどバレバレじゃん!
ダメだよ、原田さん達ぃ~!

ていうか、・・・彼等も仲間だったんだ?

「今頃はとうに朝飯かっ食らって高イビキで寝腐ってる頃だ。手ずから平助を殺しておいてだぜ?これがおかしく無くて何だ。空から槍でも降って来るのか」

機嫌が良さそうに見えたのは最初だけで、声は次第に憮然としたものに変わっていた。
無意識にか、話しながら火箸で盛んに灰を突付いてる。

「伊東は夕べのうちに確認しているが、他は信用出来んから今しがた手前ぇで検分に行って来た」

うわ、やっぱりそういう理由。

「町奉行の手の者が検分に来ていて、服部はうつ伏せに斬り刻まれているのを仰向けて見た。さすがに遣い手だ、きれいな死に顔で存外容易く確認できた。ヤツのおかげでこちらは手負いの山さ。歯が立たなくて仕舞いには槍で突いたそうだが・・・」

うぁ・・・。

もう嫌。
聞きたくない。

「毛内は、あれはいくらも戦わずに倒れたようだが、新米どもの試し斬りにされたか、五体バラバラで目も当てられん有様だったな」

見て来たままに思い出したか、話しながら顔をしかめる。

「で、南部與七郎、・・もとい藤堂の遺体だが・・・」

南部というのは藤堂さんの変名らしい。

灰を突付く手が止まった。

「顔面が割られている」

え?

「ヤツラは全員、鎖も着ずに紋服で来たらしい。だから遺体は傷だらけな訳だが、他の二人に比べてこちらの傷は数えるほど。顔をやられているのも南部一人。傷口が乾いて開いているのと血だらけなのとで人相は容易に確認できん」

聞きながら、私は別のことに目が釘付けになっていた。

土方さんの後に立ったまま、険しい視線で幸を凝視していた斎藤さんの手が・・・握り拳を作って行く。
幸が、うなだれたまま青い顔をしている。

何?どうしたの?

「着ていた羽織の紋所は蔦。背中に裂け目と、血がべったり。仏の背中には傷ひとつ無いにも係わらず、だ」

ふふん、と鼻で笑う。

羽織といえば、藤堂さん、紋服の長着だけで羽織は着てなかったな。

「奉行所の役人が首を傾げていたっけが、手に握られたままの差料も確かに藤堂の持ち物、上総介兼重だ。他の誰である訳も無いから検死書に南部與七郎と記して帰って行ったな」

刀・・。
藤堂さんは丸腰だった・・。

「お前・・」

と、幸から目線を外さないまま斎藤さんが呻くのが聞こえた。
土方さんが聞き咎める。

「どうした」

と振り返り、その場に繰り広げられていた不穏な空気を読んだのだろう、

「齟齬でもあったか?」

普段と変わらぬ口調だった。
せせら笑うようでもあり、何かを見透かしているようにも、きついイヤミにも聞こえた。
ぐっと、斎藤さんが怒気を押さえ込むのが判る。
たった一言で斎藤さんの動きを牽制したのは、不本意ながらさすがだと思った。

それから、ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らしてこちらに向き直り、火鉢ににかざした手を擦り合わせ、

「さてそこでだ、前置きが長くなったが」

顎で納戸を指した。

「お前等はそこに何を隠してるんだ?」

お前等と言いながら、薄笑いの挑戦的な目は私を見据えている。
その後で、他の二人も拝むような表情をこちらに向けた。

どうしよ。

これって結構ピンチかも。


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