もう50年ほど前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。


ふぅ~と息をついたのは四半刻も経ってからかな。
僅かばかりの肴も無くなり、酒はとっくに五合は開けてる勘定だ。

「誰にも惚れてるわけじゃなかったんだ」

ちょっとは酔いが回ってるよね?
女の話が続いてます(笑)。

「ようやく判ったんだ。バカだな俺も」

可愛いこと言ってます(^^)

私はちょっと寒くなって来たんで再び土方さんのどてらを拝借。
内掛けみたいに羽織って、火鉢に炭を継いで。
洗い髪も乾いたから、お下げに編んで。

「あんたを見て気がついた」

は?
と、髪を編みつつ顔を上げると、

「俺はどの女にも惚れてなんかいないって、さ。急にバカらしくなって、女どもとは切れたよ」

ほぉー。
そりゃあ、小遣いの節約になったね。

だから?

「小夜さんあんた、俺にウソをついたろう?」

えっ?何?
と思ってから、ああっ!あれか!と直ぐに思い当たる。

「うわっ。バレた?」

驚いた顔を作りながら、編み終わった髪を縮緬のリボンで結わえた。
顔が笑って来そう。

「バレた、じゃないだろ?良く言うもんだ。酷い人だな」

ぼやく様子が、怒っているというよりは・・腐っている感じ(^^;
やっぱ沖田さんとのことだー(笑)。

「やだー。いつ?誰に聞いたの?」

ぎゃははと笑ったら咳が出た。

「とっくにだ。あの人が島原から女を落籍(ひか)せたと聞いてピンと来た」

普段あまり表情の動かない斎藤さんの顔が、忌々しげにしかめられたのが可笑しくて、

「うはは。さすがー!鋭いね」

ささ、一杯行きねぇ、と燗鍋から酌をする。

「バカにせんでくれ。俺としたことがいい面の皮だ。あんたに巧く使われたわけだな」

そう言いながらも酌は断らないな(笑)。
杯(湯呑みです・笑)を持つ手はすんなりと指が長い。

「ちょっと待ってよ~違うでしょー?私は何も言ってないのに、そっちが勝手に勘ぐったんですからねー。おかげで変な噂立っちゃったし。迷惑したのはこっちなんだからー」

すっかり酒盛りモードになってはしゃいで言ったのに、

「・・・嘘だと判って苦しかった」

帰って来た声音が思いがけずドシリアスで、一気に怖気づく。

声のトーンが暗いよ!
だ、大丈夫?斎藤さん。

「身の回りを片付けたのにはそういうわけも有ったさ」

俯いて、湯呑みを見下ろしながら物思いに耽る風。

どういう意味だろう。

「そ、それで新選組を出たってこと?」

まさか、・・・もしかして私のせい?!

すると彼はふふっ、と声に出して笑ったんだ。

「まさか。その時にはもう、後へは引けなかったからな。むしろその方が良かったと思ったし」

・・・え?なに?
判んないよー!判るように言ってよ!

「あんたを見ないで済む」

真っ直ぐ、こちらを見た。

「へ?」

意味が判らないよ。
脳ミソが働かないよ~。


行灯のオレンジ色の灯りの中、黒紋付の羽二重と、鬢付けの乗った結髪の艶に縁取られて・・・斎藤さん、いつもよりカッコイイ。
黒のフォーマル感がそう思わせるのかな。

あれ?でも・・・。
もうひとり居たな、黒が似合うの。

ああ、・・土方さんだ。

あの人はもっとこなれて、着物と皮膚が一体化してる感じだけどな。
斎藤さんみたいなキチント感がイマイチ無いな(笑)。


「あんた、存外察しが悪いな」

鼻白んだ声に我に帰る。

やべぇ。
思考が飛んでた。

つーか、察しが悪いって言われたよ(凹)。

「沖田さんと何も無かったと判って心底安堵した自分が居た。嬉しかった。女に惚れるとはこういうことかと・・・初めて判った。だがあんたは既に他人のもので・・」

ちょ、ちょっと待って。
何言ってるんですか?この人は。

「目の前に居なければ忘れられると思ったんだ。現に今夜ここへ来るまでは・・否、ここへ来いと呼ばれるまでは、俺は正気だった」

え・・?
じゃあ、今は正気じゃないと?

「あんたと話してたら腹が据わったよ。なぁ小夜さん、俺と一緒に逃げてくれないか?」

・・・・(唖然)。

うそ・・。


なに・・これ?


私・・・TVドラマ見てるわけじゃないよねぇ?(爆)





「ここに俺を呼んだのは、あんたの旦那殿だ。だから、ここで俺とあんたが居なくなっても、誰に咎が及ぶわけでもない。それに今夜は・・」

アルコールのせいで饒舌になっているのだと思っていた。
なので、わざと黙ってた。
うっかりということもあるかと思ったんだけど、

「それは言えないが・・」

引っかかってくれないの。
ケチ。

「ともかく、今頃新選組は取り込み中だ。逃げるなら今だ」

今だ!・・・って、そんな急に言われてもなー。

「俺と一緒に来るのは嫌か。俺が嫌いか」

身を乗り出す。
そんな質問に今すぐ答えろだなんてどうかしてる。
でもそう言う斎藤さんの表情があまりに切迫していて・・・茶化せないよー。

「別に嫌いじゃないけど・・・。むしろ好き・・な方ではある・・・かな?」

期待されると裏切れないことって、・・・あるよね?
つい、ウケを狙っちゃうっていうか(こら)。

「それなら一緒に来てくれるな?」

目を輝かせた。

い、いや、そこまでの意味じゃないんだけど。

と言う間も無く、ばたばたと支度を始める。
あーあ、どうしよか。


火鉢の熾き火には灰を被せ、行灯の灯を落とし、行火も火鉢に空けて消し、

「あんた、その格好で大丈夫か?」

呆然と見ていた私を見咎め、当然の如くに言う。

「寒けりゃ仕方ないが。掻巻では動きづらくないか?」

圧倒されていた。
想像もつかなかった展開で、しかもそれがあまりに性急なので反論しそびれたというのが本当のところだが。
ちょっと面白くなって来ちゃった、てぇのもある(^^;

「斎藤さんも上に何か着た方がいいよ。紋服じゃ寒くない?」

「俺は暑いくらいだ」

そりゃあ、そんなに呑んでりゃな。と思った。




唯一残した箱行灯の灯りを頼りに、彼は納戸の隠し扉へ向おうとした。

「ちょっと待って。そこから出るの?」

斎藤さんはここへ来た時のように頭巾を被り、足元は監察係の道具箱から拝借した足袋草鞋がけ。
動きづらいからと、紋服の上には何も着ない。

「もう支っかえやしないだろ?」

さすがにどてらは脱いだけれど、綿入れの道中着やら襟巻きやらで相応に着膨れている私に、冗談ともつかないことを仰る(--;

到ってマジ目。

この人、もともと天然なんだよな(^^;
なので、こっちもイマイチ緊張感が湧かない。

「そうじゃなくてー。泥んこになるの嫌だよワタシ。これから出かけるっていうのにさー。そこ、ぬかるんでるんでしょ?表から出ようよ」

真新しい草鞋をいじくりつつ、ケホケホと咳をしてみる。


私は私なりに考えがあった。
逃げようと誘われて断らなかったのも、家を出るなら表から、というのも。

今夜何があるのか、という事の他に、この人はまだ何か隠していることがある。
だって、いくらなんでも話の展開が唐突過ぎるじゃないか。
色恋にカムフラージュしてもさ。
なにより、斎藤さんらしくないよ。
でも、直ぐには口を割らないだろうとは思ったので、とりあえず言う通りにしてみようと思って。
何より面白そうだし(爆)。

でも、納戸の隠し扉から出るのはちょっとまずい。
ここ、外からは開かないんだよね。
中に誰か居て、初めて入ることが出来る。
もしも、戻ることになったら表から入るしかないし、それを誰かに見られてたら、この家にカラクリがあるってバレちゃう。

それに、出て行った後の始末が出来ない。カムフラージュがね。
もしも、空家にして誰かに入られたら、すぐにこの扉の存在を知られてしまう。
それはなんとしても避けたかった。

空き家にするのは仕方ないとしても、扉の存在を知られぬようにはしておかないと。
普通の箪笥のように、引き出しを入れて置いとかないとね。


斎藤さんは、私がごね出したのが想定外だったのか戸惑ったようだった。
もちろん、彼はそんなことはおくびにも出さないけどね。

「ここに人が居ないと知れたら、荒らされるかもしれんぞ?」

余計な心配をして見せたので、アレ?っと思ったんだ。

「いいじゃん。こんなとこ、もう帰って来ないんだから。人んちの心配したって仕方ないよ」

当座の着替えも何も持つなと言われたけど、この何年かで貯まったお金ぐらいは懐に入れて見せた。
フクチョーには別れを言って、ネコマンマを置いといた。

なので私の啖呵を疑いもしない。
わがまま娘の説得を諦めたのか、溜息をついて勝手口に向う。

でもそこでいよいよカミングアウトしなきゃいけなくなって・・・。

「ごめん。私、草鞋って履いたこと無いんだけど。草履でいい?」

斎藤さんの視線が痛い(^^;




草鞋履かせてもらっちゃったー♪
今夜中には都を出るんですって。
草履じゃ無理だと言われたけど、でも草鞋も無理かもー。
歩く前から足が痛いよー。
だってこれ、まるで裸足だし。
つか、足冷たいしー(T-T)。

勝手口をそろりと開けたのへ、袖をつかむ。

「でも、どこへ逃げるの?」

咳が出そうになって、袂で口を押さえつつそう訊ねると、

「あんたは付いて来ればいい。行き先は着くまで判らぬ方がいい」

戸口から漏れる月明かりを頼りに、彼は紋付の袖口から何か引っ張り出す様子。

手甲だ、と思った。
それも鉄片の綴られた戦闘仕様の。
籠手と呼ぶのだとは後から知った。

「途中で俺に何か有っても、行き先を知らぬままなら誘拐(かどわか)されたで済むからな」

袖の中に織り込んでいたのを引き出して、指に掛けて留めている。

「斎藤さん・・」

それは途中で襲われたらってこと?
自分がやられたら私だけ助かれと?

それほどの覚悟が必要で、しかもちゃんと在るってことなのね?

「心配するな。あんたは放さん」

緊迫感に囚われていたのが判ったのだろうか。

大刀を腰に差し、その左手で私の手を、晒しの巻かれている右手をそっと握る。
温かい。

「痛むか?」

ううん、と首を振ると、

「放しちゃ事だからな」

手首の方に位置をずらして、今度はがっちりと掴む。

「これで良かろう?」

僅かに微笑んだ目が、・・・沁みるほど優しかった。

・・・や、やばい。
なんかキュ~ンと来ちゃったよ!
ど、どうしよ~。

と内心ジタバタしてたのに、斎藤さんの目が不意に素に戻って、こちらをしげしげと見たと思ったら、

「あんた、デカイよな」

(--;

わざわざ改めて言うことなのかい!

「何をどう喰ったらそんなに育つんだ?」

余計なお世話だ。

「米を縦に喰ったらだよっ!」

笑う。

「そんなこと斎藤さんに言われたくないよ。自分だってうどんを縦に食べたみたいな背丈じゃんか」

更に笑う。

「行くぞ。あんたは面白いな」

ふたりして笑いながら勝手口を出た。




肌を刺すような冷気に身を縮こめる。
乾燥した空気が喉に詰まって、咳き込みそうになる。
先の行程の判らない夜の道行きがちょっと不安に思えた刹那、足元の地面に影が出来ているのに気が付いた。
思いがけず濃い影で、思わず夜空を振り仰ぐ。

降るような月光夜だった。

満月から二日目の明るい月が、南西の空にあった。

「明る~い」

星も降るほど出てはいたが、なにせ月が圧倒的だった。
雲が風に千切れて流れていくのを眺めながら、無意識のうちに光の中に掌をかざしていた。
まるでシャワーでも浴びているような月明かりだったから。

ぎゅっと、手首を握る斎藤さんの手に力が入ったので我に帰った。
やばい。
これから逃避行だというのに何をうっとりお月さんなんか眺めてるんだ>自分!

「気が済んだか?」

青白い月影の頭巾から覗く目が優しい。

「うん」

私の気が済むのを待っていてくれたのだと判って、また心臓が勝手に反応する。

困った。
まともに顔が見れない。

咳き込むのを抑えるついでに、袖で顔を隠した。
手を引かれて、転ばぬように進むのが精一杯だった。

それから、斎藤さんの差料に当たらないように歩くのも・・・結構大変だったよ(^^;

利き手を空けておきたいらしいんだよね。
なので、左手で私の右手首を掴んでるわけだけど、刀って左に差すじゃない?脇差の鐺(こじり)に引っかかりそうになっちゃってさー。
道中そればっかり気にしてたわ(爆)。


月光浴には最高な夜だったけど、一目を忍ぶには不都合千万。
月影に紛れながらじゃないと動けない。

もう夜半を過ぎて、野良犬も歩いていないぐらいの時刻。
辺りを見回しても、風に流れる雲の影の他は、動くものなど何も無い。

なのに、どうも斎藤さんの神経の使いようが半端じゃなかった。
手首を掴む握力が・・・痛いくらいだ。

ウチは屯所に近いので、始めのうちはそのせいか?と思ってた。
でも、いくら歩いてもその緊張感が解けない。
物陰に隠れている時間の方が長いくらい。

「どうしたの?」

咳き込みそうになるのを抑えつつ、辺りの様子を窺う体の斎藤さんに訊いてみた。
寒くてじっとしているのが辛いのだ。
早く目的地に辿り着きたい。

「おかしい・・。何か変だ」

通りの両側を交互に見通している目は、瞬きするのも忘れたかのよう。

家を出た後、北東の方角を目指して進んでいるのはなんとなく判ってたけど、夜道のこともあり、手を引かれるがままに進んでいたこともあって、自分達が今どの辺りに居るのか私には見当がついてなかった。

で、斎藤さんが気にしているのは行き先とは反対の、たぶん西の方角。

「変・・って?」

「やたらに人の気配がする。人が・・多過ぎる」

人が居ることは承知していた口ぶりだ。
ただ、その数が多いといぶかしがっている。

「終わったのではなかったのか・・」

その言葉の意味は判らなかったが、おそらく今夜あるべき出来事のことかと思われた。

「どうするの?」

急かしてごめん。
でも、寒くて手足がかじかんでるんだよー。
凍えそうなんだ。

「見てくる。あんたはここで待っててくれ」

手を離そうとした。

瞬間、不安に駆られてその手を捕まえる。

「ヤダ。置いて行かないでよ。私も行く」

「無理だ。あんたを危ない目には合わせられん」

その言葉に、一瞬、今夜起こるべき事の全貌が見えた気がした。

が、雷の後の残像のように、全部が全部、頭の中に残ったわけではない。
今、自分がやるべき事だけ辛うじて判った気がしたのだ。

「直ぐ戻る。だからあんたはここにじっとして・・」

後の言葉は頭の上を素通りした。

放しちゃいけないのはこの人の方なんだ。
きっとたぶん、そうだ。

「駄目よ。うそつき。放さないって言ったくせに!」

腕に抱きついた。

「すまん。聞き分けてくれ。直ぐ戻るから。そう遠くまでは行かないさ」

宥めるようにひそめた声が切迫している。
でも、すぐそこに危険があると判って行かせられるものか。

「嫌だ。絶対駄目。あなたはそこに行っちゃ駄目なの」

その剣幕と言葉に何かを読み取ったのだと思う、暗がりの奥に引きずり込むように、私をしゃがませ、

「あんた、土方さんに何か聞いているのか」

こちらを見下ろす格好で訊いて来る。
責めるような声音を隠しきれていない。

「聞いて無いわよ何にも。さっきから訊いてるのはこっちじゃん。今夜何があるのかって。知ってるのはそっちでしょ?」

でも、彼の持つ情報に齟齬が有るのは見えてきていた。

「それなら何故止める?」

隣にしゃがみ込んで問い質す。
苛立ってる。

「だぁってぇ!この手は放さないって言ったのにぃ~!」

と、鼻声で駆け落ちの続きを演じてあげたのに、返って来たのは叱責で。

「そうじゃないだろ?何か知ってるんだろう?」

あら。
茶番を始めた方がボロ出しちゃっていいのかしら。

「知らないったら。そっちこそ私をあの家から連れ出してどうしようっていうの?惚れた腫れたの話じゃないんでしょ?」

そう言われてようやく我に返ったらしい。
慌て出した。

「いや・・!それは違う。俺はあんたの事を最初から・・・」

「いいよ。無理しなくったってー。ちゃんと事情を話してもらえば素直について行きますって。隠そうとするから話を作らなくちゃいけないんじゃないの」

「作っているわけじゃない。俺はあんたをあの家から出したかったんだ。あの家で、あの人に良いように扱われているあんたを見ているのがたまらなかったんだ」

そんなの見なきゃいいだろ。
余計なお世話だよ。

とも言えず。

「ふぅ~ん。それは同情ってことね?じゃあやっぱり愛情・・・色恋とは違うわけね?」

頭巾から覗く眼に怒気が宿った。
なので思わず、どういう言葉が返ってくるのか身構えたのだが。

何か気配を感じたのか、不意に斎藤さんが立ちあがった。
全身アンテナと化して辺りの気配を窺っている。

私はと言えば、こんな時に限って咳が出そうになって、苦しくて我慢するのが大変。
結構体力使うんだよね。
汗ばむくらい。
寒かったのが、いくらか暖まったりして(^^;
でも足は凍えそうだ。
早くなんとかして欲しい。

間も無く、足音が聞こえだした。
ごく低い、そろそろと潜めたような足音が。
複数だ、とは私にも判った。
無言なのが不気味だ、とも。

「駕籠・・?」

と、斎藤さんが呟くのが辛うじて聞こえた。
そして次の瞬間、目が見開かれるのも。

先程我々が通って来た道を、黒っぽい塊になった集団が東から西へと通り過ぎて行くのが、路地越しに見えたのだ。
遠目にも背格好が確認できるほどの月明かりではあった。

知った顔が有ったのだとは、切羽詰った目の色で判った。

飛び出しそうになった彼を押し留めるのには抱きつくしかなくて、自分の体格にこれ程感謝したことはない。
この時代の普通の女性の体格ならばきっと無理だった。

「駄目!出て行っちゃ駄目!お願い!静かにして!」

揉み合うだけでも物音が出る。
気付かれてしまう。

「放してくれ!あいつら・・・殺される!」

潜めながらも叫ぶ言葉に愕然としながら、自分の予感が外れていなかったと確信する。

「駄目よ!駄目!行ったらあなたも殺されるんでしょう?行っちゃ駄目だったら!」

引きずられるというよりは、おぶってしまってる感じ。
振り落とされないように必死に取り付く。

「放せ!今なら間に合う!やつらを逃がせるんだ」

「無理よ!逃げるくらいなら端から来ないわ」

斎藤さんの動きが止まった。
思い詰めた目が、肩越しにこちらを向く。

「あんた、判ってたのか・・」

搾り出すような声だった。

状況は察するに余りあった。
宥めるのは苦労だろう。

ううん、と首を振って腕の力を緩める。

「今、判った。・・・っていうか、たぶん。おそらく。・・・新選組が伊東先生の派閥を潰そうとしてるのね?」


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