もう50年ほど前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。

「斎藤さん、新選組に戻るんだね」

ついこの前まで一緒に暮らした人達を皆殺しにされかけて、新選組のやり方に憤って居たはずのこの人が、どうやって自分の気持ちに折り合いをつけたのかと、まさか腹に一物あっての妥協なのかと不安には思いながら、きっとその複雑な心の内を説明されても私なんかには到底理解できないだろうと思っていて。
だから半ば諦めで、ただ確認のみで言った言葉だったんだけど。

「ああ。逃げずに待ってるって言っちまったからな。平助に」

って、斎藤さんは言ったんだ。

ああ、そうか。

と思った。
勿論、たったそれだけのことにそこまで妥協出来るのか、とか、理屈で言ったら全然納得行かないレベルではあるけど。
でも、なんだろう。
彼の穏やかで静かな言葉に、物凄く得心が行って安心したんだ。
その約束を守るためには、新選組への恨みも飲み込んで、周りからの風当たりも気にせず先へ進める・・・ということなのかも、と思って。



「斎藤先生、カッコ良過ぎる」

と、幸が頭の悪い私のために解説してくれたのは翌日。
調達して来た大豆を水の入った桶に空けながら。
斎藤さんは納戸で睡眠中だった。

「斎藤先生はさ、アンタの荷物、背負ってくれたんだよ」

かつて仲間だったはずの斎藤さんが、新選組に戻って居るのが判れば、伊東派残党は裏切り者を許さないだろう。
それが他の新選組隊士とともに目立つ場所に屯して居ると判れば、薩摩藩という後ろ盾を得た今、彼等は副長の休息所を襲うなんてまどろっこしい策は弄せずに的を絞って来るだろう。
つまり、私をネズミ捕りの籠から解き放ってくれよう、という・・・。

「いじらしいねぇ。よっぽどアンタのこと好きなんだね」

「そうかなぁ?だったら駆け落ちした方が早くね?」

「何言ってんの?アンタが乗り気じゃないのが判ってるから諦めたんでしょ。その上、自分をフッたその相手が望み通りここで何事も無く暮らせるように、自ら犠牲になろうっていうんだ。少しは申し訳なく思いなさいよ」

なるほど。
私のことは諦めてくれたってことなのか。

「・・ったく。斎藤先生ってばなんでこんなのが良いんだか・・・」

ブツブツ聞こえてるぞー(--メ
でもそれには突っ込まないでおく。

「なんで半分しか入れないの?」

大豆は一升程も(豆腐屋さんから)貰って来たのに。
手拭を縫って作った袋にはまだ半分残ってる。

「最初から成功するとは限んないでしょ?まさかの時の保険にね」

幸ちゃんの用心深さは師匠譲り。
いや、それとも性格か?(爆)。

と思ったのが顔に出たのか、

「ちゃんと出来上がったならもう半分をまた同じように作れば良いでしょ?だいたい納豆を一升も一気に作ってどうやって食べる気なんだよ」

・・・はい。
そうです。その通りでございます(汗)。
私が馬鹿なだけでしたごめんなさい(凹)。


大豆は一晩水に浸けておかなきゃいけないので放っといて。
その間に、近所の農家から分けてもらった稲藁で、藁苞(わらづと)を作る。

適当に長さを揃えるのに、まな板の上で青菜を切るみたいに藁を切りながら、でも待てよ?と、ふいに気付いた。
斎藤さんの提案にあの人がアッサリ乗ったってことは・・・。

「それって斎藤さんの「惚れた弱み」にまんまと付け込んだってこと?なにそれ!酷い」

付き合いが長いだけに、唐突な私の独り言も幸はちゃんと理解してくれて、

「あの人、身内には容赦無いからなぁ。てゆーか、つまりは利害が一致したってことでしょ。で、手を組んだ、と」

うんうんと、切った稲藁を一握り分づつ分けて上下を結わえながら自分で自分に相槌打ってた。

え?
利害が一致したってだけ?
信頼関係ってわけじゃないの?
それってどうなのよ。

と思っていた。・・ら。




藤堂さんがウチを出て三日目、山崎さんがかねて依頼していたブツを持って来てくれた。

「斎藤先生ってさー、武器マニアだよな」

苦労して手に入れたと山崎さんが懐から出して見せるのを待ちかねたように、あちこち弄くり回して見てる。
それを襖の陰から、幸はお茶を淹れつつ小声で論評中。

「刀の目利きとか言われてるけどさ、アレは刀だけってよりは武器全般が好きなんじゃないかと思う」

横目で師匠を見やる目が珍しく呆れ気味。

「異種競技好きだしさー。自分でやるのは剣術一辺倒だけど。あれはやっぱ武器マニアだとしか・・」

確かに拳銃一丁に凄い喰いつきようだ。
横から山崎さんが何がしか説明しているのを、聞いてるんだかいないんだか上の空の風情で、・・・ああっ、もう分解?しちゃってるよ!
分解しちゃって元に戻せなくなったらどうすんの?
って、斎藤さんに限ってそれは無い・・・よね?

「今日はなんやら気合入ってまんねんな」

お茶を持って行ったら、山崎さんにからかわれた。

そりゃそうだよ。
ボスにダメ出しされたんだもん。
なので綿入れの引っ張りはやめ、ちょっと派手目の小紋柄の長着(これも綿入れだけど)に色ものの帯締めてますよん。
紅樺色に白の線描きで掌ほどの大きさの蔦が描かれた小紋に、濃紺地に銀で笹に雪輪文様を細かに織り出した、無駄に立派な丸帯をね。

「髪も結ったばかりだしー」

前日にお夏さんが来てくれて、今回は銀杏返しにしてもらった(こっちでは蝶々と言いマス)。
帯が立派過ぎて髪型とちぐはぐ・・・って幸に言われた(凹)。
珊瑚玉の根掛けをしてみたんだけど、ダメだったかしら。

「飾りを変えてみようかな?何か良いもの見繕って下さいな」

今日の山崎さんは小間物屋さんの格好してますv
何故か判らないけど、今後ウチへはお武家の格好で出入りしちゃだめと言われたんだそう。
ちゃんと道具箱も持っているので(ていうかウチの納戸から本物を持ち出して居るので)、

「お代は主人の付けでねv」

ってウインクしたら、横から幸に叩かれた。

「ひー!うそー。後でちゃんと返しとくから今日だけ貸してー」

山崎さんが遊んでくれるので楽しくてついキャピキャピしちゃったら、横から突然、

「うるさい」

うおっ?
斎藤さんが怒った?!

と見ると、言った本人の方が驚いたように私等の顔を見回して、

「あっ、すまん」

赤くなった。

笑っちゃった。
目新しい玩具に夢中になって辺りが見えなくなるとか、子供みたい。
なので、

「どーれ、見せてみて。私の護身用なんでしょ?これって」

ちょっと付き合ってやろうかなー?と思っちゃったのが運のつき。
そこから夕方まで、ほとんど休憩も無しに拳銃の使い方講座でした(TーT)。


武器マニアの男の子?に付き合うってタイヘン(--;
とりあえず火薬の説明から始めたのを、現物の扱い方だけで良いと説得するのに苦労したわ(爆)。

「誰に習ったの?こんなこと」

以前、新選組に居た時には砲術の習練にも出てなかったような気がして訊いてみたら、

「伊東さんの仲間に詳しい人が居た」

と答えたので、それ以上訊くのは遠慮しとこうと思ったんだけど。

「あっちに居た時はコレの話を聞くのが唯一の楽しみでな。とはいえ今やその砲術の師匠に狙われる立場になっちまったが」

ってことはその人はこの間の殺し合いで犠牲にはなってはいないってことか。
なんかちょっとホッとした。


元から女性の護身用に作られたというその拳銃は、ウチの刀箪笥に有ったのと比べるとだいぶ小型で、長さも重さもだいたい半分ぐらい。
練習すれば片手でも扱えるって。
・・・どこで練習すんのよ(^^;

最新式の連発銃だと聞き、きっと高価で探すのも大変だったろうと・・・訊こうとした時には既に山崎さんは姿を消してた。

斎藤さんも扱うのは初めてだったようで(勿論説明書なんて物も無い)、ああでもないこうでもないと弄くり回して理解して行きながら~の、私に教え~のだったので、二人でつい夢中になってて、帰って行ったのに気付かなかったのだ。

「これ、置いてったよ」

幸が私の後ろに回って、黒塗り蒔絵の櫛を前髪に差してくれた。

「根掛けは奉書紙とか白い切り紙で結んだだけのが大人っぽいってさ」

珊瑚玉のを外して紙で結んでくれてる模様。
髪を弄られながら手の中ではピストルを弄ってるって、かなりシュール。
そんな自分の姿は自分では見えてないけど。

「これって・・・全部撃った後に弾を入れ替えるのが面倒臭過ぎ!」

レンコン型の弾倉に詰まった薬莢を捨てるのが。
一気にバラバラと落とせるのだと思ったら、そうではなく。
一度弾倉を外してから、銃身の下に付いてる棒で一個一個押し出さないとダメって!
ダル過ぎる~!

「そうだな。全部撃ったらあとは諦めるのが良さそうだ」

斎藤さんも思案顔。

「それにしたって、あのデカい単発銃よりは格段に使い勝手が良い。一発ごとに火薬を詰める手間が要らん。手も汚れんし。弾と火薬が一緒になってるのは楽だな。凄いもんだ」

前のヤツは一発撃つごとにいちいち火薬を詰めて弾を詰めて、・・とやるのが面倒らしい。
私はその作業を見てはいないので判らないけど。

これでも便利な方なんだー、と気を取り直してもう一度レンコンにカラシ・・(^^;じゃなくて弾を込め、二つ折りになった銃身に弾倉を装着して、と。

「凄いと言えば、アンタの旦那も相変わらず大した御仁だ」

「?」

目を上げると、相手は私の手元を見たまま。

「逆」

「え?」

「弾を自分に向けてどうする」

「あぁ・・!」

弾倉を前後逆に入れそうになってた。

ぷっ!と背後で幸が吹き出す。
が、髪を弄られてるので後ろを振り向けない。
くそー!と思いながら弾倉を入れ直す。

斎藤さんは気にせず話を続けた。

「兵は拙速を尊ぶとは言うが、これほど使い手に合った得物を探して来るとはな。しかもこの日の無いところを」

「優秀なのは山崎さんでしょ?監察が優秀なんですー」

実際手配するのは監察の仕事だもんね。
あの人は命令するだけでしょ。

「金の出所は土方さんだろ?アンタのものなんだからな。しかもこのご時世だ。この弾一発で酒がどれだけ買えるのか・・・」

酒に換算すんな(--)。

パチン、と銃身を元の形に戻して。

うん。女の目から見てもカッコイイねv
細身で。
弾を込めると見た感じよりも結構重いけど。
中古で買ったのか新品なのか、見た所どこにもキズもスレも無くて、木製の柄の部分がテカテカしてる以外は使用感は無いな。

膝前には弾の入っていた小さな革製のケースが置かれてる。
黒い箱型で側面にベルト通しが付いてる。

バラ売りだったのか、弾は全部で18個あった(1.5ダースってこと?)。
そのうち7個を今込めたんだから、残りはあと11個。
これっぽっちで大丈夫なんだろか?

「こら。こっちを向けるな。まだ撃つなよ?練習は明日からだ」

ついつい銃口を前に向けちゃって、向かいに座った斎藤さんが体を横に倒して弾道を避ける動き。
これって安全装置無いんだっけ?(汗)。
撃鉄起こして引き金引いたら即発砲?
こわー!

「練習って、・・・これだけしか弾が無いのに使っちゃって大丈夫なの?」

「そうだな。弾はこれしかない。しかしだからとて撃ってもみないではイザという時使いこなせまい」

そりゃそうだろうけど。

「護身用なんだから命中精度は気にしなくていいんじゃないの?そんなに数撃たなくても大丈夫でしょ」

幸が頭の上から言って来る。
そうなの?と斎藤さんを見たら、

「俺が居なくなったらアンタはこれで自分の身を守らなくてはならんのだからな。そのつもりで使いこなしてくれ」

微笑んだ。

・・・って。

あーっ!
これって・・・!
そういうことなのね?

斎藤さんが居なくなった後、私のことを考えてるって・・・!
あの人が言ってたのって!
このことかぁー!

「だったら余計、使い手に合った拳銃探すのなんて当たり前じゃん!つーか、もっと弾数用意しとけ!って話じゃん!」

「うわ!こら!降り回すな!下へ置け!こっちへ向けるなって・・・!」

焦って縁側に逃げる斎藤さん。
幸に羽交い絞めにされる私(爆)。




「あの人は凄い人だな」

その夜のことだった。

あれから新しい布団も届き、拳銃もあることだし、一人暮らしに戻ってからの練習の意味もあって、斎藤さんの寝ずの番は止めにして、初めて布団を並べて寝た夜のこと。

「どこがどう凄いって?」

フクチョーと一緒に寝床に納まるのに、私は掛布団を微調整するのに忙しかった(借りて来た布団だったので)。
なのでそんな話題はどうでも良かったんだけど。

「覚悟の在りようが」

箱行燈の僅かな灯りで、敷居を挟んだ隣の部屋に仰向けに寝ている斎藤さんの横顔が辛うじて判る。
目は閉じられてる。

「己を百姓と言い、素浪人と言い、武士であることにこだわりは無いと言う」

それがどうした。
んなこた全くどうでもいい。
そんなことより、なんでか今夜はフクチョーの奴がもぞもぞと収まりが悪いんだよね。
慣れた布団じゃないからかなぁ?
ちゃんと背中側に落ち付いてくれないと寒くて寝れないんだよな。

「新選組で「士道」を謳っておきながら、だ。全く酷い」

目を瞑ったままふっと鼻で笑った。

「近藤さん一人が真の武士で、他は十把一絡げでどうでも良いんだからな。あれじゃ下から憎まれて当然だ」

「それが覚悟の在りようなの?」

「いや・・・」

ちょっと言い淀んだのは、私が理解できるように表現するのに苦労したんだと思う。

「俺には出来ん業だと思った。と言うより、武士には出来ぬ業、か」

ってどういう意味?

「あの人の出自を云々する気はないが、武士と言うものを一歩引いた所から見ることができるのはそのせいなんだろう。良くも悪くも「侍たるべし」と生まれ育った者には出来ぬ業。内からも外からも良く見えてるんだな、武士と言うものを。士道というものを」

なんかちょっと感動してる感じだったな。言葉つきが。
寝床の中だけに、深く静かな声音でさ。

「内だけしか知らぬ者なら失望も諦めも出るはずなのだが、あの人は武士というものに諦めが無いんだな。どこまでも高めて行けるのだ。そこが凄い」

それってもしかして・・・思い入れが激しいってだけじゃん?
と、思った時、寝床からフクチョーが飛び出しちゃって!
いや、あの、背中側に落ち付かないから懐に抱こうと思ったんだけどね。
押さえ付ける格好になった結果、それを嫌って。

「こら!何処行くの」

飛び出したと思ったら、斎藤さんの布団の上へ。
胸の上に乗っかって、顔を覗き込んでる。

斎藤さんが目を開けた。

「そのくせ己は武士にこだわりは無いと言うのだから・・・」

言いながら、掛布団を開ける様子。

「滅私奉公で近藤さんを真の武士にしようという覚悟なんだろう」

フクチョーを寝床に招き入れて、

「その為には手段を選ばぬので敵は多いし、近藤局長にしても大変な人に見込まれて荷が重そうだが」

ゆったりと目を閉じた。
口元が笑ってる。

てゆーか、

「ちょっと待ってよ。行火も猫も無しじゃ寒くて寝れないよー」

私にとってはそっちの方が重大事項。
寝床の上に片肘をついて体を起こす。

行火は納豆作りのため昨日から納戸で使用中なのだ。
納豆って一定時間保温しないと出来ないの。

「アンタ、人の話聞いてるのか?」

あっ!ごめん、聞いてない。
・・・とは言えない。

「聞いてますぅ。その覚悟の程に観じてあの人のこと許すつもりなんでしょ?」

いいから早く猫返せ。

「許す・・・というのとも違うが、な。面白いから見てみたいと思ったのさ」

「何を?」

「あの人の言う、真の武士というものを」

チラリと一瞥をくれ、ニッと笑ってまた眼を瞑る。

「ちょっとー。猫返しってってば」

思わず上半身を起こして顔を覗くと、二カッと笑って、

「寒くて眠れないなら俺がそっちに・・」

「来なくていいから(--メ」

からかってるのは判ってる。
本気で私をどうにかしようと思うならば、これまでの寝ずの番の間にどうとでも出来たはずだから。

それにしても(そういう意味で)刺激したくは無いので、諦めて手拭の首巻き(冬場、結髪&箱枕で寝る時の必需品デスv)を巻き直し、一人で寝る体勢に入ると、ふふっと笑い声がした。
ナンカ悔しかったので、

「妙なことしたらアタシの連発銃が火を噴くんだからね~」

敷布団の縁に忍ばせていたのを取り出して見せる。

自分専用の武器があるって、なんか嬉しいよねv
しかも最新式ってのがちょっと優越感。

「過信は禁物だぞ。不発や弾詰まりは良くあることだし。それに」

斎藤さんが顔だけこちらに向けて、

「アンタよりも俺の方が早く動ける」

キラリ~ンと、目が光っていた!・・・かどうかは暗くて判らないけど、それがどういう意味かは判った。
身の危険を感じて一瞬固まる。

クスクスと彼は笑って、

「撃たんでくれよ?弾が勿体ない。アンタやっぱり・・」

「可愛いって言わないでよ。それ反則だからね」

こんな場面でそんなフェイント掛けるのってズルイでしょ。
コイツってホント曲者!

う~!と布団の中で拳銃から手を離さずにいたら、

「やっぱりアンタ、ここに居たかったんだな」

・・・あれ?
話が変わった?

ていうか・・・。
なに?今の、私が早とちりしただけだった?
いや~ん。恥ずかしい(赤面)。

手にした拳銃をもぞもぞと敷布団の下に押し込める。
斎藤さんはまた仰向けに戻って、横顔をこちらに向けてる。

「勝手に居ついたって言ってたな、土方さん」

あー。
あれね。
あれ、聞いてたんだね。
てか、勿論聞こえてたよね。

・・・。

恥ずかしーわ!

「だ、だから何度も言ったでしょ・・」

と、私が指摘する前に、

「俺は勘違いしていたようだ。旦那に振り向かれもせず放って置かれてたわけじゃないんだな」

「そうよ!そういうことよ!」

「それなら良いんだ」

は?

議論になるのかと思ってたら、たった一言でスッと引かれて肩透かし。
目を凝らしても仰向けの寝姿に変化は無い。
閉じられた瞼も。

なんか・・・モヤモヤした。

「それでここから出ようと思ってるんじゃないでしょうね?」

返事が無い。
もしや当たり?

「出なくちゃいけないとか思ってないよね?私に気を使ってるんじゃないよね?てゆーか、あの人に気ィ使ってるとか無いよね?」

深呼吸ひとつ。
目の前の寝床の山がゆっくり上下した。

「それだけじゃないさ。新選組に戻るのは、己のため・・」

目を開け、天井を見つめ、続けた。

「先がどうなるのかは俺にも・・・誰にも判らんから。それなら好きな方へ・・・」

口元がうっすら笑ったように見えた。

「どこへでも行けるとなれば、あの雪虫みたいに、好きな方へ飛んで行っちまう。死ぬかもしれぬと判って居ても、な。まぁ運が良ければ長らえるだろう」

雪虫・・・て。

だからあの時あんなしつこく訊いてたのか・・・。

えっ!?
もしかして、私のお陰で覚悟が出来たって・・・あのこと!?
うそ!あれっぽっちのことで?

判り辛い!
話が判り辛いよ斎藤さん!
てゆーか過大評価も甚だし過ぎ!

「師匠を殺された藤堂だとて遺恨は在りながら新選組を許した。その苦衷を強いた俺が新選組に身を委ねることになっても、それは至極当然の報いではないか」

報い・・・って。

「・・とは思いながら、新選組に戻れるのは・・・正直嬉しい。半年ほども衣食を共にして気心も知れていた人達を殺されたというのに、な。俺は人非人なのかもしれん」

いろんな思いがあるよね。
単純には割り切れないし、迷いがあって当然だよ。

「将棋の駒のようなものかもしれんな。伊東さんと新選組とが戦をして、新選組が勝って。俺は分捕り品なのだ。手駒だな。次の戦には勝った者の駒として使われる」

私のために判り易く噛み砕いて説明してくれてるんだろうと思ってた。
聞いているうちに、自分自身に言い聞かせてるんだと気が付いた。

「本来、侍というものはそんなものだろう。戦国の世であれば己の近しい者達を殺した相手にその後仕えることなど珍しいことではなかったはず。ならば・・・。将棋の駒なら盤上で働くことこそ使命ではないか・・」

ちょっと言い訳めいているのも、迷いの表れなんだろうなと思った。
「迷いの多い男」と言われて、無言ながらコンプレックスを刺激された様子だったのを思い出した。

なので、

「いいじゃない、そんな難しい理屈なんて。雪虫みたいに好きなとこ行くんでしょ?生き延びるかそうでないかも運まかせなんでしょ?いいじゃんそれで。好きなとこ行って好きなことすればいいよ。やらないで後悔するよりやっちゃって後悔した方が納得するもん」

ごめん。
いい加減で根拠の無い励ましで。
あと、眠くなっててちょっと投げやり入っちゃってて(^^;

斎藤さんは何も答えなかった。
天井を睨んでいた目を閉じて、口元は引き結ばれて。

次の言葉を待つうちに、斎藤さんの寝床からフクチョーが這い出して来たらしい(追い出されたのかも)。
うつらうつらしていた私の布団の襟元をカリカリ掻くので中に入れてやって・・・。

そこから先の記憶が無いので、寝ちゃったんだな。



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