もう45年以上前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。

・暇つぶしにネタばらしブログもどうぞ→管理人ざんげ室 

正直、絶望しかかった。
私の気持ちを、少しは判ってくれたと思ったのに。

「どうして判ってくれないの?沖田さんのためなのよ?もうこんなことは無いかもしれないのよ?判ってよ!お願いよ!」

頼み込むことしか、現状を覆す手段はもう何も残ってはいない。
必死だった。
その必死さが、相手に疑問を抱かせることになった。

「判らんな。当人が要らぬと言うものを、どうしてお前がそこまで言える?どうしてそんなことが判る?」

「どうして・・って」

それは彼の命が限られたものだからだ。

限られた命の中で、僅かな希望も諦めさせてはならないと思うからだ。
今を逃せば、もうテルちゃんとは二度と逢えないかもしれないからだ。
今しかない、今しかないんだ。
状況が好転するのを待つ時間は無い。

でも、それは誰にも言えない。

言ってしまえれば簡単なのに。
そしたらみんな、協力してくれるに違いないのに。
この人だって納得するに決まってる。

でも言えない。
誰にも言えない。
言えやしないじゃないか!



「最後は泣き落としか。そんなものが俺に通用すると思うのかぇ?」

吐き出すように浴びせられた言葉に我に帰ると、自分でも情けないぐらいぐちゃぐちゃに泣いていた。

お前みたいな役立たずのためになんか、涙一粒、鼻水一筋流してやるもんか!

と言ってやりたかったのに、泣き声にしかならない。

紙は無いかと懐や帯の間を探していると、膝の上に懐紙の束が飛んで来た。
見るとアゴで「使え」と言う。

「汚ねぇ面をこっちに向けるな」

ぶーぶー洟をかんむのを見て顔をしかめる。
ちくしょう!と呼吸を整えてから、

「沖田さんが自分であなたに頼めばいいのね?」

我ながらひどい鼻声だ。

「なに?」

聞き返された。

「沖田さんの気が変わって、どうしても照葉さんを手放したくないから、身請けできるように交渉してくれと頼みに来たら、受け入れてくれるんでしょ?」

「さあな。そんな約束をした覚えは無ぇが」

くそ!と思ったら手が勝手に動いた。
洟をかんだ紙を投げちゃった。
だってあんまり憎らしかったから。

「馬鹿!やめろ!」

汚ぇ!と慌てて飛び上がる姿が滑稽で、ちょっとだけ胸が晴れる。

へへっと笑ったはずなのに、また涙がこぼれる。

そしてそのまま、相手が体勢を立て直して憎まれ口を叩く前に、庭まで走り出ていた。

だが、草履を履く間を惜しんで裸足で出たのに、木戸にも手が届かないうちに捕まってしまう。

「待て!どこへ行く」

「放して!」


沖田さんを説得するしかないと思っていた。
私の言うことを聞いてくれないこの人だって、沖田さんが本気で頼めば聞いてくれるかもしれない。

100%望み通りにはならなくたって、禁足が解かれるだけでもいい。
このまま諦めてしまうよりは。

「もう勝手はさせん。暴れても無駄だ。お前一人に何が出来る」

両手首をつかまれて押しても引いてもびくともしない。

「放してよ!あんたなんかに何が判るの?労咳になったのがおゆうさんだったとしても、そうやって突き放すんでしょ?」

「黙れ!」

「黙らないっ!今、照葉さんを帰しちゃったらもう逢えるかどうか判らないのよ?何時どうなるか判らないのよ?今諦めたら沖田さんは・・・!」

流れ出そうになる言葉を飲み込む。
飲み込んだ言葉は、涙になって外に出ようとする。

「あなただって後悔するに決まってるのに。彼のために動いてあげれるなら今動いて。今助けて。お願いよ。私の言うことを信じてよ!」

もう限界だ!
喋っちゃうよ!
涙が止まらないよ!

「それはどういう意味だ!お前何を隠してる!」

掴んだ両腕をガクガクと揺すられて、前髪に差した平簪が足元にこぼれて落ちた。

「隠してない!」

泣き声になってる。
喋ってしまいそうになるのが恐ろしくて相手の顔が見れない。
喋れない分、涙が止まらないのだ。

「嘘をつけ!様子がおかしいのは何故なんだ!何を隠してる!話せ!」

「何も隠してない!知らない!何も知らない!」

しゃくりあげも手加減の対象にはならない。

「話せと言うのが判らんか!」

力任せにガクガクと揺すられてまともに立っても居られないぐらいだった。
目を瞑って、ほとんど悲鳴しか出ない。

「やめて!・・・放して!」

喋ると舌を噛みそうだ。

あまりの剣幕にこのまま殺されるのではないかと不安になった時、表からガツガツと下駄の音が駆けて来て、

「小夜!」

幸の声がした。

「早く!テルちゃんが!」

垣根越しに目が合った。

「照葉さんが連れて行かれる・・・!」







黙っていれば良かったのかとも思う。
実際、沖田さんは何のためらいもなしにそちらを選択した。
面白い目が出るかもしれないと小夜に妙な肩入れの仕方をしていた山崎さんも、沖田さんの前には譲らざるを得なかった。

でも、それではあまりに小夜がかわいそうだと思ったんだ。
照葉さんに別れも言えずに、このまま終わってしまうなんて。



小夜が出て行った後、私は山崎さんに今回の騒ぎのそもそもの始まりから、できるだけ事細かに事情を説明していた。
もちろん、小夜と副長の乱闘劇もね(^^;

話は照葉奪取作戦の途中で、お夏さんを登場させずに話を進めるのに四苦八苦していたところだった。
そこへ突然、沖田さんが丁子屋の松蔵さんを伴ってやって来たのだ。

ふたりに続いて空の駕籠が姿を見せた時、彼等の目的を直感した。

「あれ?山崎さん、しばらくでしたねぇ」

沖田さんは普段通りににこやかに、山崎さんに話しかけた。
陽に焼けて締まった頬に、笑うと丈夫そうな歯ばかりが白く目立つ。

「これは・・・」

と、山崎さんが立ち上がりかけたのを留めて、自分の方から縁側に腰掛ける。
白々しく、西国はどうでした?なんぞと訊いている。
その間、私と照葉さんには一瞥も無い。

こういうところが、この人の怖いところ。
私や照葉さんの言葉など聞くつもりは無いのである。
これがこの人の我の通し方なんである。

山崎さんもそれは知っている。
当然彼等の目的にも気付いているだろう。

沖田さんの後ろに控えていた松蔵さんに会釈をしながら、

「今しがた幸さんに話を伺ったばかりで」

と話を向けようとするのへ、

「ははぁ、そりゃお恥ずかしい。それは早いとこ仕事を片付けなくてはいけませんねぇ。怖い人が出張って来ないうちにね」

へらへらと笑いながら、沖田さんはやおら座敷に上がって来た。

判っているな?とでも言うように照葉さんを見た目が、笑っていない。
続いて松蔵さんも上がってくる。

さっさと事を運ぶつもりなんである。

さすがに呆れて、山崎さんを見やった。
彼ならなんとか止めてくれるかと思ったのだ。
だが、それは私の勝手な期待で。

私と目が合うと、決まり悪そうに首をすくめながら目を閉じ、僅かに首を横に振って見せた。

そりゃあ、そんな顔をして見せなくたって、こんな不測の事態の中、当初の希望通りには話が進まなくなるというぐらいの状況把握はできる。

できるけれど、したくないってことはあるのだ。
いつもの小夜の十八番だな。

「待ってください。せめて小夜が戻るまで、待っては頂けませんか」

「小夜さんには私から説明する」

沖田さんがこちらを見ずに言った。
照葉さんを布団で包んだまま抱き上げところ。

「そうではなくて・・・」

と言いかけた時、こちらを見た。
真顔だ。
有無を言わせぬ目の力に、声が詰まって言葉の後が続かない。

この人に斬られる相手は、死ぬ瞬間にこういう表情を見るのかもしれない。

「小夜さんはどこへ行ったんだ」

縁側から下りて行く。

抱えられた照葉さんと一瞬、目が合った。

唐突に連れ戻されることとなった彼女は、誰に異を唱えるでもなく押し黙ったままだったが、想い人に抱えられているはずのその目は喜んでいるようには見えない。

傍らで、松蔵さんは彼女の僅かばかりの私物をまとめていた。

「自分の家へ。副長のところへ、たぶん話をしに・・・」

溜息が聞こえた。
駕籠に照葉さんを乗せてこちらを振り返った。

「戻るまで待ってはいられない。話は今度会った時に」

「待ってください。話なんていいんです。照葉さんが帰ってしまう前に一度会わせてやりたいと思って・・」

深々と駕籠に身を沈めていた照葉さんが天井からぶら下がる紐を頼りに身を起こし、せがむ様な表情でこちらを見ているのが、沖田さんの肩越しに見えている。

「暇乞いか。それで納得するならいいが、余計むごいことになりはしないか・・・」

それほど深刻にならずとも、また会う機会も有ろうと彼は思ったのかもしれない。
今またこの間のような騒ぎになるのを避けたかっただけなのかもしれない。
後から冷静に考えれば。

でもその時の私には、欠席裁判としか受け取れなかったのだ。


大人のやり方というものはいつもどこか小賢しいものだ。
全ての状況を鑑み、中庸を取る。
それが「賢い」ということなのかもしれなくて、それは私だって子供じゃないんだし理解できないわけじゃないけど、この時は何故かたまらなく嫌だったんだ。

この「賢い」選択に言われるがまま加担するのは嫌だった。

大刀を掴み、下駄を突っかけて飛び出したのはそんなわけだ。

「幸!」

背中に沖田さんの声が聞こえた。

しかしその後、彼がひどく咳き込んだことまでは知らなかった。




駕籠が島原にたどり着くまでに何とか小夜に知らせなくては。
そんな思いで駆けに駆けて来てみたらば案の定、問題のふたりが庭先で揉み合っているではないか。
小夜が泣きながら暴れている。

ああもう!そっちの事情はどうだか知らないが、こっちは急ぐんだ。

「照葉さんが連れて行かれる!早く来て!」

ふたり同時にこちらを見た。

ってことはつまり副長にも隙が出た。

「小夜、頭突き!」

こちらを向いた二人は私から見て立ち位置が半ば重なっていたんだ。
なのでとっさにそう叫んだ。

小夜の反応は早かった。
副長よりも反応が早いなんて、ダテに友達やってねぇな、とちょっと嬉しくなったっけ。

小夜のヤツ、顔をこちらに向けたまま目標物を確認もせずに、私の作業指示通り頭を後に倒すようにして副長に体当たりしたんだよ。

ぼすっ!と髷の直撃に副長が面食らっている隙に、木戸から引きづり出すようにして副長の手から小夜をもぎ取る。

「走って!」

後は走るだけだ。
副長が追いかけて来ているかどうかなんて問題じゃなかった。



目の前を裸足の小夜が駆けて行く。

足の裏が見る間に土に汚れて真っ黒だ。
向かい風に着物の裾が盛大にまくれ上がっても怯みもせずに、邪魔な着物の袖を掴み、腕の振りも頼もしく走って行く。
ひとつ結びの繻子の帯が風に流れて、目の前でおいでおいでをしているようだ。

下駄履きで腰の刀を意識しながら走らなければならない私とは身軽さが違う。
徐々に間が開いて行く。

いつもならあっという間に音を上げる小夜が、まるで火事場の馬鹿力の見本のように疲れも見せずに走っている。
スピードが落ちない。

往復全力疾走は覚悟の上だったが、うっかりすると置いて行かれそうなくらいだ。

半分ひしゃげた髷に引っかかっていた珊瑚の玉簪が飛んで落ちたのを拾うついでに、下駄を脱ぎ、懐に入れて、こちらも気合を入れて走ることにする。



危急の知らせにこちらを向いた小夜の目は、驚きと同じくらいに、しかも瞬時に攻撃性を帯びて、まるで敵の攻撃に身構える猫科の獣のようだった。

その気配は走っている今も続いていて、普段の彼女とは別人のようなのだ。
一言も喋らない。

走って息が切れているので喋れないというのではない。
口を真一文字に結んで、一心に駆けている。
剥き出しにした闘志で火の玉のようになっている。

他の何も見えていないのだ。

照葉さんに別れを告げるのに闘志は要らない。
それは、この決断を下した沖田さんに向けられているものなのだ。

私は小夜を呼び戻したことをちょっとだけ後悔した。

「沖田さんが店の人と一緒に迎えに来た。一緒に謝罪に行くつもりなんだよ」

横並びに走りながら諭そうと試みるが、小夜の表情に変化は無し。

「テルちゃんを帰すのは仕方ないんだ。沖田さんの考えは正しい・・・」

「正しいかどうかなんて問題じゃない」

聞く耳を持たない。
気持ちのままに突っ走ってる。

その気持ちは判る。
でもアンタのやろうとしていることは余計な差し出口以外の何者でもないじゃないか。
どうしてそれが判らないんだ。
否、判ろうとしないんだ。

そんなにジタバタしたってどうしようもないじゃないか。
見てて痛いだけだよ。
もう止めようよ。
どうかしてるよ。

拒絶されるのが怖くて・・・友達付き合いにしこりを残しそうで言えなかっただけだ。

そして照葉さんが居なくなれば、小夜のこんな醜態ももう見なくていいんだと思った。



島原に向う駕籠を先回りするような形で、田んぼの畦道を走り抜け、正面から往き会った。

先頭に松蔵さん。
我々の姿を見て驚いている。
その後に照葉さんを乗せた駕籠。
病人を乗せているためかゆっくりと歩むようなスピードだ。

沖田さんは駕籠の後ろについてきているようだった。
副長への報告のためか、山崎さんも一緒だ。

私達の姿を認めると、後方から走って出て来た。

「どいてよ!」

前に立ちはだかった沖田さんに、小夜が怒鳴った。

昼を過ぎて風が強くなり、刈り取った後の田んぼの稲藁がバラバラと裸足の足を叩いて行く。

横殴りの湿っぽい風に煽られて、彼女の崩れかけた鬢から後れ毛が真横になびいている。
帯もまくれ上がっている。
黒繻子の帯裏は鶸色に菊模様。

肩が大きく上下しているのは、今頃になって息が上がってきたためか。

「退くのはそっちでしょう。道を開けてください」

沖田さんは譲らなかった。
理由は判らない。
彼女を諭そうと思ったのかもしれない。

「どかないわ!裏切り者!私が居ない間にテルちゃんを追い帰そうなんて酷いじゃない!」

諭そうと思っても、相手の感情が突っ走ってしまっていて、どこから話せば言う事を聞いてくれるのか沖田さんも途方に暮れたに違いない。

「追い帰すんじゃありませんよ。居るべき場所に戻そうと・・・」

決して高飛車なんかではなかった。
それでも小夜は許さなかった。

「言い訳なんか聞きたくない!どうして諦めるの?どうして手放しちゃうの?本当にそれでいいの?」

まっすぐ小夜を見下ろす沖田さんの目が、哀しげだった。
それは確かに諦めにも見えた。

後ろから見ていても、小夜の肩が怒りに震えているのが判る。

「そんなの私は絶対嫌!」

沖田さんを睨み上げている。

「そんなの冷た過ぎる!あなたが良くったって誰が何と言おうと、私は絶対そんなの嫌なの!」

「・・・小夜!」

もういい加減限界だった。
これ以上は見ていられない。

「それはアンタのわがままでしょ?誰もそんなこと望んじゃいないんだから。本人だって・・・」

言い回しが、それこそ照葉さんを邪魔にしたようなものになってしまい、慌てて繕う。

「そんな余計なことはいいから早いとこテルちゃんに挨拶して来なよ」

小夜はゆっくりとこちらを振り返った。
余計怒らせてしまったと思った。
てっきり、標的がこちらに向いたんだと。

でもそれは違った。
彼女の目には今にもこぼれ落ちそうなほど涙が溜まっている。

「そうよ。これはわがままなの。本来ならこの人が言うべきわがままなのよ!」

沖田さんを指差した拍子に、両の目から涙がこぼれた。
それを隠すように再び彼に向き直り、

「アンタが言わないからアタシが言ってるんじゃない!どうして言えないのよ!意気地無し!」

そう言い募った彼女に、沖田さんは反論しなかった。

何を思ったか逆に優しげに微笑んで、

「小夜さん、私はいいんですったら・・。ね。もういいんです」

「何言ってんの?もういいなんて・・・何それ?」

小夜の声音が変わった。
泣き声になりながら彼に掴みかかって行く。
それを押さえ込むように揉み合いながら、

「行って下さい。こちらには構わず・・」

後で待っていた駕籠を促した。
松蔵さんが会釈をしながら脇をすり抜け、続いて照葉さんを乗せた駕籠が。

「待ってよ!行っちゃダメだよ!」

「行ってください!お願いします!」

もみ合う二人が、それぞれに叫ぶ。

「ダメだったら!放して!なんでなの?なんで一緒に居られないの?五百両が何よ!買取りが無理ならリースでもレンタルでもいいじゃん!リボ払いでもいいじゃん!こんなのおかしいよ!放してよ!」

押さえ込まれた沖田さんの腕の中で、メチャクチャ言ってる小夜の取り乱し様が切なかった。

「あんた達何よ!テルちゃんに会いたいならそっちから会いに来りゃいいでしょ?歩けないわけじゃないんでしょ?大門だって自由に出入りできるんでしょ?なんで病人の方を連れてかなきゃいけないの?」

駕籠にすがりついてでも留めようともがく彼女を差し置いて、私だけ照葉さんに言葉をかけるのは憚られた。
でも最後に何か伝えたいことがあるだろうかと、すれ違いざま駕籠を覗くと、照葉さんは白い手を合わせてこちらを拝んでいて・・・。

小夜にもそれが見えていたのか。

「行っちゃった・・・」

抗うのを止め、島原の築地塀へ吸い込まれるように遠ざかって行く駕籠を見送る彼女の目から、滂沱の涙が頬を伝うばかり。

ついに諦めてくれたか・・・。

とりあえずそっと溜息をついたのに、沖田さんの腕を払い退け、小夜の口から出た言葉は、

「せっかく連れ出したのに。がっかり。・・・次の手を考えなきゃ」

「小夜さん!」

私より先に沖田さんがたしなめた。
というか驚いただけかもしれない。

その彼に小夜が鋭い視線を向け、

「邪魔しないでね。私は絶対諦めないから」

「私はもういいんですったら」

するとその物言いを、小夜は鼻で笑ってみせた。

「間違えないでくれる?私はあなたのためにやるんじゃないの。あなたは裏切り者だもの。今度はあなた抜きでやることにするわ。邪魔しないで」

自分の意地のために、とうとう沖田さん本人まで切って捨てた。

照葉さんを島原から出すのに沖田さんを蚊帳の外に置いておくと言うのだ。
それを本末転倒と言わずに何といえばいいのか。

何をしようというんだ、小夜。
本当に狂ったのか。

「小夜さん、もうやめましょう。照葉のことは忘れて下さい」

歩き出した小夜を沖田さんが引き止めた。

「邪魔しないでって言ってるの。あなたがテルちゃんのことを忘れるのは勝手だけど、私は忘れやしないから。それ以上グズグズ言うと・・・みんなに本当のことバラしちゃうわよ。どお?それでもいいの?」

何か脅迫している。
にーっと意地悪く笑っている。
本当のことって?

沖田さんが息を飲んだのが判った。
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