もう50年ほど前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
・感想&ツッコミコメントは「田毎の月」へでもこちらへ直接でもOKです~vもちろんメールでも。

「うん」

と、小夜は鼻声。

「いいんだ。私だってきっと、立場が逆だったら何も言えないと思うし」

それからちょっとだけ笑い声になって、

「こういう時はきっと、気の利いた台詞を並べられても頭の上を通り過ぎて行くだけだと思うし」

だよね。
上手い言葉なんて胡散臭過ぎる。
上っ面だけ言葉で飾って誤魔化すくらいなら、黙っている方がいいよね。


目の前に有る闇を見つめながら、小夜は何を考えているんだろう。

私と同じ闇を見ながら、彼女には何が見えているんだろう。
それとも目を閉じているのかな。何も見てはいないのか。
上を向いているのか、前を見ているのか、それともうなだれているのか。
まだ泣いているのか、もう治まったのか。

相手の気配だけを感じながら、どれほどの間そうしていただろう。

慰めるなんておこがましいことなんじゃないかと思えて来て。
自分は優位ではないと謙遜しながら、その実、慰める=優位に立とうとしていたんじゃないか?

相手は同じものを見ても違うことを感じる、別の人格なんだから。
相手の人格を尊重してあげればいいんじゃないの?
それで小夜自身が自分で元気になればそれでいいんじゃないのか?

だって・・・アンタが私より劣っているなんて、感じたことは無いんだよ。
アンタには私に無いものがいっぱい有るじゃない。
凹む理由はどこにも無い。
小夜は小夜でいいわけだから。

「あのさー」

とは言え何から言えばいいのか・・・。

「さっき、何もできないって言ってたけど、アンタはちゃんとひとりで生活できてるじゃない。誰にも迷惑なんてかけてないよ」

やっぱりありきたりな切り口になってしまうな(苦笑)。

「でも、幸に比べたら料理も針仕事もヘタクソだ」

不機嫌そうに思い切り鼻水をすすり上げる。
でもそういう彼女らしい反応はこちらにとっては話し易くて有り難い。

「私はアンタの作るジャンクフード、美味しいと思うけどな」

「ジャンクフード言うな!」

ほんとに突っ込み所は外さないヤツ(笑)。
でも怒ってる方が、泣いて落ち込んでいるよりは彼女らしくてほっとする。

「そもそも、私とアンタは違う人格なんだし、目指すものも違うでしょ?同じスケールでは計れないよ。スタートラインが違うって言ってたけど、ゴールの在り処が違うんだからスタートラインが違うのは当たり前なんじゃない?」

無言。
考えている風。
もう一押しか。

「私はさぁ、沖田先生みたいに強くなりたいっていう目標があって、それに近づきたいと思って頑張れるから簡単だけど、小夜はお手本が無いから難しいんだね」

「お手本? なんのお手本?自分のやるべき事も判らないのにそのお手本が有るかどうかなんて判るわけ無いじゃん」

ちょっとぶーたれ気味。

「やるべき事も判らない?」

「判らないよ。さっきから言ってるでしょ?何の役にも立ってなくて、皆の迷惑にしかなってない自分が嫌なの。幸のことさえ妬んでる自分が情けなくて大嫌い」

自分で問題点を抽出してくれたな(笑)。
小夜って怒ると頭の回転早くならないか?(爆)

「あのさぁ、さっきも言いかけたけど、アンタの役割ははっきりしてるんだよ。おゆうさんと副長の関係を知ることで、余計はっきりしたんだ」

息を潜めて聞いている。
きっと唇は尖がっていると思うけど(笑)。

「副長の頭の中では、アンタの使い道は最初からはっきりしてたんだ。それを今まで黙ってた。まあ言うわけにはいかなかっただろうけど」

「何?使い道って」

乗ってきたな(笑)。

「副長、なんでおゆうさんの存在を隠して置きたいんだと思う?そんなに大事なら手掛けにだって奥さんにだってできるのにそうしないのはなんでだと思う?」

手掛けって本来プライベートなものだけど、新選組では休息所と称して諸経費が出ていることもあって、居宅が仕事に使われることも少なくない。
監察方という特殊任務を負う集団を直属に持つ副長という役職は尚のこと。
小夜の家が仕事の打ち合わせに使われるが如くだ。

手掛けにすれば公にお披露目するも同じことなのだ。
そうやっておゆうさんを表に出してしまえば、仕事とは切り離せなくなる。
副長はそれが嫌なんだな。

「彼はあそこを隠れ家にしておきたいんだと思うよ。副長の看板を脱いで素に戻れる、最もプライベートな場所にしておきたいんだ。それに敵の多い副長のこと、隠しておいた方が安全だということもある。新選組の外にはもちろん、内にもね」

新選組の内部にも敵が多いってのは辛いところだけど、事実だ。

「ここまで言えば判るでしょ?あんたは恰好のカムフラージュ役なんだよ。副長は最初からそのつもりでアンタを採用したんだ。目立つから」

実際、小夜は素晴らしく目立つ。
この時代の女性と比べて、格段に背丈が高いという他に。
仕草が違う、歩き方が違う、喋りが違う、笑い声が違う、そして何よりくるくる変わる表情が、京女という生き物からは一線を画していて、特徴的なのだ。

・・・浮いてると言いう方が当たってるかもしれないけど(^^;

「カムフラージュって、あの家だけじゃなく?」

小夜の家を経由して隠れ蓑に使いながら、副長がおゆうさんの家に通っていたことを言っている。

相手を誰とは知らず、それと察して副長の抜け参り(女通いともいう・笑)を誰にもバラさなかったアンタって、それだけでもなにげに感謝されてると思うんだな。
自分では気付いてないかもしれないけど。

「そうだよ。現におゆうさんの身代わりになったじゃない」

「?」

「去年の冬、斬られたじゃない。例えばあれがおゆうさんだったらどうするよ?」

「ぎゃー」

「でしょ?アンタは立派に役に立ってるんだってば。自分で気付かないだけだよ」

「じゃあ私、今のままでいいってこと?」

もう全然泣き声なんかじゃなくなっている。
いい傾向。

「そうだよ。それでやり甲斐が無いってんならもう少し目立った方がいい。幸い、山崎さんもアンタのこと『副長の愛妾』ってことにしててくれてるし」

「うげ!それだけはカンベン・・・」

「カムフラージュには持って来いだよ、ちょっと話のタネになったぐらいが。アンタの存在が目立つ程、おゆうさんの存在は見えにくくなる。それで彼女を守ることになるんだから」

っていうか、副長のプライバシーを守るっていうかさ(^^;
でもそう言うと反発しかねないので黙っておく(笑)。

ぽつり、と額に雨粒が跳ねた。
思わず空を仰ぐが、真っ暗で何も見えない。
ヤバイぞ。巻きを入れなきゃ。

「それから、・・・」

話を別件に移す。

「斎藤先生は確かに気は使ってるけど、小夜のこと好きだよ。昨日木屋町でアンタの姿を見つけて嬉しそうだった。それで私、ボディガード役をお願いしたんだもの。山崎さんだってアンタのこと可愛いがってるし、副長だって・・」

「あの人はそんなこと無いわよ」

その点に関しては頑ななんだよな。

「この傘、持たせてくれたのは副長だし」

傘を差す。
雨はひたひたと音をたてて竹の林に落ちてきていた。

「それは幸に持たせたんでしょ?」

素直じゃないな。

「あれ?焼きもち妬いてんの?」

まぜっかえしてみたり。

「妬いてないー。どうして私が焼きもち妬くのよ」

怒った(笑)。
それは置いといて。

「この間、甚平着てて叱られた時だって、あれは小夜が手足を丸出しにしていたから・・・」

「足出したっていいじゃん。暑いんだから」

突っかかり気味。

「そうじゃなくて。アンタは全然気にしてないけれど、去年の刀傷の痕、アレ、副長的には見るのが辛いんだよ。判ってあげなよ」



あの時、風呂場に居た私には聞こえていた。
木戸を入ってすぐ、副長の声で、

「あの馬鹿、冷えたらどうすんだ!」

って舌打ちをした。

それって傷痕のことでしょ?
夏場で暑いから冷えないというわけではないんだよ、刀傷って。
大事にしないと冬になって冷えが通るようになってしまう。
それを心配していたんだ。

そんな思惑をも何ら説明しないところが、あの人の男っぽいところというか、誤解を招くところというか・・・。



土手の下からため息が聞こえた。

「幸ってば意外とお人好し。あの人のこと、なんでもかんでも好意的に解釈してあげるんだから」

立ち上がる気配。
ま、ここはそういうことにして。

「ねぇ、そこ濡れない?傘に入ったら?」

雨はサーっという音に変わってきている。
藪の中も通るほどの降りだろう。

「・・・ていうか、蚊に喰われそう」

ガサガサと草叢を踏んで土手の下から小夜が姿を現した。

「っていうか、喰われた~~!!!」

一歩歩くごとに、くるぶしの辺りを盛んに掻いている。
おまけに結髪に竹の枝が引っかかったとか言ってきーきゃー大騒ぎだ。

暗くて見えないけれど、気配からはもう沈んだ様子は窺えない。

御土居を街側に下りる。
傘の柄を持った私の腕につかまりながら、くるぶしを掻く度にケンケンして歩くので、傘が振られて傾いた方に雨水ダーダー。
まだ道がぬかるむ程ではないのが救い。

「ちょっとー、ちゃんと歩いてよ」

「だって痒いんだってば。アンタこそしっかり持ちなさいよ。何のために毎日筋トレしてんのよー」

復活したと思ったら、とたんにキッツー!

「頼りにしてるんだからさ」

え?

「しっかりしてるのは幸の役目なんだから。私の役目は目立つことでしょ?目立つのが私の仕事」

と言うなり、

「雨ふーりーお月さーんー雲のぉかぁげー・・・♪」

と唄い出したではないか・・・!
しかも不意を突かれて傘を奪われてしまい・・・。

「お嫁ーにぃ行くとーきゃー誰とーゆぅくー♪」

傘をくるくる回しながら走り出している。
目立つってそういう意味じゃないんだけどな(--;

「ちょっと待ってよー」

「ひとりぃでからかーさー差してゆーくーっと。大丈夫!私ガンバるから!」

振り返って闇の中にニンマリ笑ってるのが妖怪っぽいぞ(爆)。
まるで唐傘お化けだ(笑)。

「心配させてごめんね。迎えに来てくれてありがと」

暗くて顔も見えないようなところから礼を言うのは照れ屋の照れ隠し。

「それを言うなら私も傘に入れてよー」

結構な降りなんだけど。
刀の柄を損じないか心配なぐらい。
すると、

「何してんのよ。早く走っておいでよ」

っていうかさー、

「帰るんなら方向違うんだけどー。こっちだよ。そっちこそ早くおいでよ」

ええ?とか、きゃーとか、わめきつつ、夜の雨に笑い声が駆けて来る。

どうやら下界の月は再び曇りも無く輝き出したようだ。
多少とんちんかんじゃあるけれど、ね。






その後、自分のやるべき事を見つけた小夜はどんどん綺麗になって行った。
それこそサナギが蝶に変身するように。
少なくとも見た目だけは(笑)一皮剥けた感じがしたものだ。


さすがに自分で選んだ柄行は良く似合って、できあがってきた萩柄の浴衣を着て縁側で端然と団扇を使う様子は、充分『美人』の部類に入れてもいいぐらい。

おゆうさんの手製の夏衣は、彼女を少し大人に見せてくれ、都の水に洗われたと言われ、浮世絵から抜け出たようと言われ・・・。

副長は本人に対しては気の無い態度に徹しては居たものの、小夜の評判が上がることについてはまんざらでもない様子だった。

おゆうさんのカムフラージュ役という戦略的なものを割り引いてもそう思えるのは私の勘違いなのかなぁ?
単純に自分の持ち物を褒められて嬉しいっていう感覚なのかな?

・・・まぁ中身はあんま変わってないからねぇ(^^;

そこら辺はまた追々リサーチして行きましょう。



あ、そうそう、小夜の浴衣姿が映えた訳。
だいぶ後になってから判ったんだけど、今までのとは仕立てが違っているらしい。

江戸風の仕立てなんだって。
わざと身幅を狭く仕立てるんだそうだ。
つまり歩く時裾が割れやすい。
この時代の人々より足の長い私等にはこの方が頗る歩きやすいのだ。

で、この仕立て方を指定したのが何を隠そう副長その人。
どうも小夜の着姿が気に入らなくて、山崎さんに新しく作るものから随時この仕立てにしろと言ったらしいんだな。

その注文を忠実に呉服屋に相談した結果、お抱えのお針子の中でほとんど唯一江戸風の仕立てのできるおゆうさんに白羽の矢が立ったって訳だ。
もちろん、おゆうさんを選んだのは呉服屋サイドで、山崎さんの知るところではない。

副長がそんなところまで見通して仕立てに注文つけたかどうかは知らないけれど、やっぱりこの三人、どっかで繋がってたらしい。





でも結局、三人が顔を揃えたのはあの日が最初で最後だった。
目と鼻の先に住んでいるというのに、この後二年半余り、小夜がおゆうさんに会うことはなかった。

彼女達が再び相見えるのは、新選組が京都を去る時のことになるのだが。

それはまた先の話。





              -了-

スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。