もう45年以上前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
ご笑覧下されば幸いです。

・時系列に置いてあります。
・但し最新作は先頭に。
・中断&書きかけ御容赦。
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うへぇ、と思った時、ジャリっと音を立てて目の前の黒革のブーツが歩みを止めた。

目を上げると、副長がコートの肩越しに端正な横顔を見せ、


「信じたかぇ?」


??

言葉の意味を測りかねてポカンとしていた私の目に、横顔の口角がスローモーションを見るみたいにゆっくりくぃーっと持ち上がって行くのが映った。

目が、笑ってる!?

「・・・あぁっ!」

そこでようやく、からかわれた!と気付く間抜けな自分。

だってこの人の冗談は判りにくいんだよ!

ってのは言い訳でしかなく。
悔しい!
騙された!
子供みたいにまんまと鵜呑みにしてしまった自分が恥ずかしい~!

カァ~っと顔が熱くなってくるのが判る。

「・・・ぬぅぅ!」

変なうめき声まで発してしまって・・カッコ悪っ!

今や副長の目は完全に笑ってる。
実に愉快気に。
目尻に皺まで寄せて!
くそー!

やられっぱなしでは悔し過ぎるから何か言い返したくて、

「ていうか、小夜はキツネというよりタヌキでしょ!」

変な主張をしてしまった・・・(--;


副長、大爆笑。

すごい笑ってる。
腹を抱えて。

思い切り笑われていっそ気持ちいいぐらいではあったけれど・・・。


この人のこんな屈託の無い笑顔、というか笑い声が聞けるだなんてなんだか嬉しいような、・・・裏切られたような。
何とも言えない心持がしたっけ。

いや、笑顔を見てるのは本当に嬉しいし、有難くもあるんだけど。
不安と寂しさとが入り混じったような、怖いような。
何かそんなものが、胸の内に湧きあがって来て、振り払おうとしてもしつこく纏わりついて来るような。
そんな、居たたまれない感じ。

もう、あそこにいた副長とは違うんだなぁ、って。
あそこ・・・京の都で肩で風切ってた新選組の副長とは違う人なんだ、って。思った。

それを寂しいと感じているなら、それは全く私の勝手な思い入れなんだけど。

だから。


本当はどんな人なのか、もう少し話をしてみたかった。



「こんなところに居られたんですか。お急ぎください。小野様がお待ちです」

笑い声で気付かれて、副長の取り巻きに見つかってしまう。
知ってる顔ならそうでもないけど、

「お前、土方先生にこんな吹き晒しを歩かせるな」

初対面じゃあ、ツギの当たった着物(作業着なんだよ)にパッチ(股引)姿で、首巻きを目深に被り背負子を肩にかけた得体の知れない人間(私のことデス)には当たりがキツイ。

「はあ。申し訳ありません」

揉め事回避の手段で下手に出たのと、

「おい、コイツはもう俺の手下じゃねぇのだ。無論お前のでもねぇ。上から物を言うな」

副長が部下をたしなめたのは同時。

庇ってくれたのは有難かったけど、当たり前の対応をして叱られたんじゃお取り巻きが気の毒だから、

「でもあなたの手下じゃなければ私はもう、ただの宿無しですから」

卑下した訳じゃない。事実だ。
なので、ぞんざいな扱いは仕方無いし、もう慣れてしまっていて苦にもならない。
むしろそうされて当然だとも思う。

なのに。

副長は、おや?という顔をこちらに向けて、

「だが、身内には違い無かろう?」

ごく当たり前のようにそう言ったんだ。

「・・・」

その時、どんなを顔してたんだか、自分で思い返してもちょっと恥ずかしい。
思いがけない言葉に面喰ったし、正直ちょっと胸が詰まった。

だって、この人なんでこんなに優しいんだろう・・と思って。



怖いくらいだ、と確かに思う。

小夜が怯える気持ちが判った気がした。

アイツは持ち前の動物的な勘で、そこに不安を感じてたんだろう。
不安、というか、不穏、かな?
不穏な空気を感じ取っていたんだね。
そして危険回避を図ったんだろう。
来るべき事態に対処して。最小限の被害に留めるべく。
無論、自覚も無しに。

ここ箱館で、見てて歯痒くなるほど副長と距離を置いて居るのはそんな訳なんだろう。


「散歩に出たのは俺の勝手だ。コイツには途中で会ったのだ。それをお前にどうこう言われる筋合いは無ねぇな」

部下に不機嫌をぶつけている時の口の悪さは相変わらずだけど(笑)。

散歩を中断させられただけで、そんなゴネないで下さいよ、土方先生。
まあ、それだけ気安い部下だということもあるんだろうけどね。
そんな相手が居て、・・・良かった。

・・・て、なんかちょっと安心しちゃった自分に苦笑。

「お忙しいようですから、私はこれで」

眉間に縦皺を寄せたまま、副長がこちらを向く。

「生意気に要らぬ気を回すな」

うへ。
とばっちり食いそう。

構わず逃げ出した。

「おい!待て幸!お前にはまだ話が・・・」

言ってる傍から、

「土方先生!」

と、戎服を着た部下がたしなめ、そこでまたうるせぇとかなんとか揉め始める。
ああ、もう、副長ってば子供みたいなんだから。

「大丈夫ですー!この時間なら私は大概この辺りでウロウロしてますからー。いつでもお声をかけてくださいー」

走り出しながら、うへへと笑ってしまう。

「御相談事ならいつでもどうぞ~v」

散歩なんてらしくもない行動は、四六時中人に傅かれて暮らしてるのが煩わしいからじゃないのか。
息抜きの相手になら喜んで呼ばれますよ?
気の毒に、そんな様子じゃたぶん無理だろうけど。

ペロっと舌を出したのを見逃さなかったらしい、

「あっ!てめぇコラ待て畜生!馬鹿にしやがって」

久しぶりに聞いた罵声が私を嬉しがらせる。

「相談事はどっちだ馬鹿野郎!このクソガキが~っ!」

振り返って見ると、プンスカ怒った副長がほとんど羽交い絞め状態で大町方面へ引きづられて行くところ。

ゲラゲラ笑ったっけ。



話を続けたくなかったのは、その先に何かシリアスなものが待っている気がしたからだ。
話し合いを避けた。
その後ろめたさを誤魔化すには、可笑しさにかまけて笑っているのが楽だった。


何も、考えたくない時が人にはある。

考えないでいることが唯一、理性を保たせてくれるということが。
愚かだと判っていても、そうするしか出来ないことが。


判るよ、小夜。

結局私も同じだった。






結局、副長の言葉の意味は永遠に判らず仕舞いになってしまった。

あの「信じたかぇ?」ってヤツ。

あの時私は副長の話が一から十までウソだったと解釈してしまったんだけど。
考えてみたら、あの言い方はそうとは限らないよね?

キツネに化かされたのがウソなのか、小夜がそのキツネに似てるというのがウソなのか。
彼女の顔を凝視した理由がウソだったのか、山崎さんの推挙を容れた理由がウソなのか。
それとも、私がそう思い込んだように全部が全部ウソだったのか・・・。

結局判らず仕舞いだ。

煙に巻かれた。





今、あの人がここに居たら問いただしてみたい。


無性にそう思うことがある。



あの時あなたが何を言いたかったのか。

何をしようとしていたのか。

本当は何をしたかったのか。

それは達成されたのか。

それとも・・



   道半ばに終わったのか。










副長、




土方先生、




春の余寒に震えながら、あなたの背中を追って歩いたあの時のことを、うっかり思い出してしまいました。




ほんとはあの時、もっといろいろ話したかったです。

なんでもいい、くだらない話でも。

ほんとは、ずっと話して居たかったです。

ずっとずっと・・・。










副長、








私は今でも








時々ひどく












あなたに会いたい。







                       了



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