もう45年以上前から管理人の脳内に住み着いてるキャラクターの、稚拙な妄想小説のお披露目場です。
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小夜がまた、晴れた空を仰いでいる。






箱館山の深緑を背に
日和坂上の上昇気流に乗って
トンビ達がぐるぐるとラセンを描いて群れ飛ぶのを、

洗濯物を干す手を止めて眺めている。





あれはきっと、


戦争で命を落とした人たちの魂がどこへも行けずに群れているのだと、





小夜にはきっとそう見えているのだと、・・・。











切なくて、私はいつもその姿をまともに見ることが出来ない。












時折、飛び飽いたのがひとつ、きらめく海の彼方に消えていく。


眩しそうに手をかざしながら、彼女の視線が追う。










それが、解き放たれた魂のひとつだとでも言うように。













眼下には戦争の焼け跡と、砲火の痕の痛々しい台場と。

その横には旧幕海軍の蟠龍艦が、まるで肋骨をむき出しにした海竜の死骸のごとく、フレーム(肋材)を波に洗われながら横たわっている。

市街には未だ死臭が漂い、台場には幽囚の身となった多くの旧幕兵が押し込められているはずだった。






箱館病院からは毎日のように、傷の癒えた人々がそれぞれの故郷に帰ってゆくようになった。

負傷者は戦犯として扱われず、帰郷が許されているのだ。

収容場所も確保できぬほど溢れかえっていた怪我人達も次第に数を減らし、入院患者達の表情からも、戦後の混乱から来る不安の色は日に日に無くなっていた。


あの日、地獄絵図を見るようだった病院も、ようやく落ち着きを取り戻し始めたのだ。














ただ、













小夜だけが毎日空を仰いでいる。

















まるで、わだかまった魂達の呼び声が聞こえてでもいるかのように。
















突き抜けたような青空の下、

笑わない彼女の横顔は痛ましいほどに寂しくて。











後れ毛を風になぶられて立つその姿は、

今にも自ら風の中に溶けていってしまいそうで・・・。



















「時が解決する」と、気休めに人は言う。











しかし、






心の傷が癒えるまでにどれだけの時間を要するのか、

誰も教えてはくれない。









人の一生より長い時間が要るというのなら、それは「解決」ではなく





「絶望」ではないのか・・・。



















やるせなさに、私はうつむいて坂を下りる。






まるで来院者を阻んでいるかのような急坂を、

まるで逃避行動に走る子供のように、

体に風を受けながら無心に駆け下りる。




後を追う犬の吼声に、ふと振り返った目の隅に、

病院の物干しから、風に煽られて白い包帯が一筋、

空に舞うのが見えた。








沁みるように青い空の中、



まるで




白い竜が舞い昇ってでも行くようだ。















あれがもし小夜の心だというなら、

このまま上昇気流に乗って、天まで届けばいいと思う。























吸い込まれそうに青い
























青い






















かの人の居る、空の彼方へ。

























           - 了 -
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